EEE会議(核燃料サイクル論争: 処分場の所要面積: 豊田正敏氏)............................................2003.10.1

豊田正敏氏より次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK

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河田東海夫氏(JNC)の処分場面積についての論文について、同氏より計算の前提
についての計算書をお送
りいただいて検討し、それに基づき同氏と討論を交わした結果の要点を纏めて報告し
ます。

「わが国の有力な適地と考えられる海岸地域の堆積岩の場合、直接処分の処分場の所
要面積はガラス固化
体の場合に比べてそれほどの違いは無く、2倍以内に収まる見通しである。」と結論
される。

1. 処分場の所要面積の意義
高速増殖炉が40~50年以内に実用化されるのであれば、再処理によって回収される大
部分のプルトニウムは、
高速増殖炉で利用されるので、直接処分を考える必要はなく、逆に実用化の見通しが
ないとすれば、ウランの
寿命は今世紀限りで終わりとなり、処分場の面積を心配する必要はない。即ち、河田
氏の言っておられる「日
本が今後何世紀に亘って、原発に依存する」ためには、高速増殖炉の実用化が前提条
件となり、その場合に
は、その時点で長期貯蔵した使用済燃料を再処理しプルトニウムを回収し、高速増殖
炉の初装荷燃料として供
給しなければならないので、直接処分は考えられない。従って、処分場の所要面積に
よって、プルサーマルの採
否を決めるべきであるという議論は無意味である。問題は何時になっても高速増殖炉
の実用化見通しが不透明
なことである。

2. 候補岩盤
わが国の場合、地下水の下流に人家があるような所は、下流の住民の反対で難しい
し、高レベル放射性廃棄物
の輸送も内陸では難しいと考えられるので、海岸線か、沖合い立地または人口の殆ん
どない無人島に近い島に
限られる。
 岩盤としては、花崗岩と堆積岩が候補として考えられる。花崗岩もわが国に広く分
布するが、火山地帯とか、
屋久島のように環境団体の反対が予想される所とか、中国地方の内陸のように、高レ
ベル放射性廃棄物の輸送が
難しい所が多い。これに対して、堆積岩は海岸付近に広く分布しており、比較的均質
で、割れ目の少ない岩盤で
あるので、地層処分の有力な適地が多くあると考えられるので、河田氏が、堆積岩を
前提としているのは妥当と
考える。ただ、問題は、年代が若く強度が5Mpaと低いことである。

3. 処分概念
処分概念として、水平連続配置を前提としている。しかし、スウェーデンのSKBで
も、当初、掘削量が小さくな
り、処分費も安くなる水平連続配置を考えていたが、1/100の勾配で600m程度の長い
処分坑道を精度よく真直ぐ
に掘削することは難しく、廃棄体及びベントナイトの設置が困難であることが判り、
垂直配置を採用することに
変更している。また、地域住民からretrievableについて質問された場合、説明出来
ないこともあり、実現の可
能性のある垂直配置を前提にすべきである。垂直配置の場合には、熱的条件が制約条
件にならないことが考え
られる。

4. その他の前提条件
@ 共通施設
処分場には、廃棄体占有面積のほかに、アクセス坑道、連絡坑道、換気抗道の他に、
掘削機の部品貯蔵庫及び掘削
機の修理のための作業場など共通施設を必要である。また、TRU廃棄物の処分場もあ
り、これらの所要面積を加
算する必要がある。
A ベントナイトの厚さ                           
  
直接処分の場合は50cmでよいが、ガラス固化体の場合には、オーバーパックの炭素鋼
が腐食により、容積が3倍
になることによる応力の影響を考慮して70cmと仮定すべきである。
B ベントナイトの最高許容温度
短期間(100年間程度)であれば、120℃は許容されるとして計算すべきである。
C 地盤の安定性
上述のように、強度の低い堆積岩であるので、熱的条件だけでなく、岩盤の安定性の
観点からも、処分坑道の間隔
について検討すべきである。なお、強度5Mpa程度の軟岩で500m程度の深度での坑道掘
削の経験は皆無である。
Dアメリシウムの蓄積
 ガラス固化体の発熱量には、現在のように多数の使用済燃料が溜まっている状況で
は、使用済燃料を原子炉か
ら取り出して再処理するまでに、平均約20年かかると考えられるので、その間に溜ま
るアメリシウムを考慮す
べきである。
 以上を考慮すれば、わが国の有力な適地と考えられる海岸地域の堆積層の場合、直
接処分の処分場の所要面積
はガラス固化体の場合と大差なく、2倍以内に収まる見通しである。

5. JNCにお願いしたいのは、わが国で、処分技術の技術開発にあたっては、上述の
適地である海岸地域の堆積岩
の岩盤の透水係数及び熱、力学特性ならびに地下水の流動及び地球化学特性の把握が
必要であり、また、特に、
処分試験場に発熱廃棄体を設置し、少なくとも20年間(20年間では十分とはいえない)
の熱的、力学的挙動を把握
すべきである。その結果により、不確定因子を少しでも低減した上で、処分場の最適
設計を行うべきであり、そ
れにより、処分場の面積を大幅に低減出来る。(これに対しては、残念ながらやると
いう意思表示は得られな
かった。)

6. 軽水型トリウム発電炉は、技術開発項目が、燃料の成型加工技術のみであり、プ
ルサーマルに比べて、燃
料の利用効率が高く、経済性も優れている。また、プルトニウムは燃え尽くされるの
で、直接処分した場合に
も、核不拡散の観点からも優れており、アクチニド元素(Am241も含めて)も殆んど発
生しないので、環境負荷の
観点からも、また、今回議論している処分場の面積もウラン燃料の使用済燃料(MOX使
用済燃料を含む)の直接処
分よりは勿論、アクチニド元素の殆んど大部分が含まれるガラス固化体よりも所要面
積が小さくなるのではな
いかと考える。従って、環境負荷、核不拡散、ウラン資源の節約、処分場の面積など
の観点から、プルサーマルに
代わって、遥かに優れている軽水型トリウム発電炉の採用を検討すべきである。  
     以上


豊田正敏
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