EEE会議(Re:核燃料サイクル政策論争: MIT報告とフランスCEAの反論について)............2003.10.2


標記テーマに関する豊田正敏氏と永崎隆雄氏の直接論争は、豊田氏のご意向により一
応打ち切りとなりましたが、豊田氏の「陳謝要求」に関連し、永崎氏より次のような
メールをいただきました。ご参考まで。 

なお、MIT報告に対するフランスCEAの反論にならって日本も独自の立場で意見をまと
め、海外に発信すべきではないかという柴山哲男氏のご提案(9/28)については、小
生も全く同感です。ただ、日本の場合、誰がかかる反論をまとめるべきか、おそらく
総合資源エネルギー調査会か原子力委員会、でなければ原子力産業会議あたりが中心
になって取り纏めるのが順当でしょうが、当EEE会議や「エネルギー問題に発言する
会」においても、今後はそうしたことも視野に入れて、なるべく論点を絞った建設的
な議論が行われるよう希望いたします。けだし、内向きの議論だけでなく外向きの議
論も並行して行う必要があるのではないでしょうか。その意味で、以下の永崎氏のコ
メントは今後の議論のたたき台となるべきものと思われます。
--KK

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 豊田様との議論は尽きないようですが、豊田様の再々ご提案に従いまして、打ち切
りにさせていただきます。なお、豊田様のコメントに対しまして以下の通りお答えい
たします。

 豊田様
 再処理を巡る色々の議論につきまて、若輩者である私に対しまして色々厳しい批判
を頂きましたことを深く感謝いたします。
 それにより新しい日本の原子力のあり方が見えてきたように思います。
 これがEEE会議の皆様のお力で必ず生かされると信じています。
 
 豊田様がなされてきたことを若輩ながら批判いたしましたことをお詫びいたしま
す。
 誹謗したという風に受け取られましたことは私のまことに至らぬことで、ここにお
詫びいたします。

 最後になりますが、豊田様ご指摘の「MIT報告は取るに足らぬ」と言うことには反
対いたします。民主党政権関係者によって作られていますので、米国の現政権ではな
いですが、日本としての考え方を世界に表明するべきだとの柴山様の考えに賛同いた
します。

 以前メールいたしましたMIT報告に対する私のコメントを、フランスCEAのコメント
を参考に再整理しました。皆様のご意見をご教示頂ければ、幸いです。
       
          永崎
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<MIT報告書「原子力の将来」2003年7月29日へのコメント>

 日本の原子力委員会は本年8月に「核燃料サイクルについて」我国の考え方を取り

とめており、日本は「プルサーマルの実施を行いつつ、高速炉開発を進め、高速炉核

料サイクルを実現するべき」と評価している。
 この取りまとめはもっと大きく世界に表明すべきと考える。

 MIT報告に対する日本の考え方はこの中に表記されていますが、それを含めて以下
にコメントします。

1. MIT提言:
温暖化防止には世界での原子力規模を2050年までに3倍化1000GWにする必要があ
る。
コメント:
規模の大きな考え方に全く同意する。わが国の考え方と方向性が同じである。

2. MIT提言:
将来的にはウラン資源が枯渇する事から高速増殖炉が必要かも知れない。
コメント:
持続可能な原子力として高速増殖炉が最も有望と考える。

3. MIT提言:
原子力発展には以下の4課題の克服が必要
@コスト、A安全、B核廃棄物、C核不拡散
コメント:
日本はエネルギー資源のない、国土の狭い島国ゆえ、克服すべき課題は以下の通り。
@ エネルギーセキュリティー
A 環境負荷の低減
B 経済性
C 持続可能発展
D 科学技術産業の創造

核燃料サイクルは以下のようにこの条件を満たす。

@ エネルギーの自給率を高め、エネルギーセキュリティーを高める
A 使用済み燃料を再処理し廃棄物の量と放射能、減衰期間を短縮するので環境負荷
を低減する
B 自国内の資源を活用して建設できるため、自国の経済を発展させる
C 高速増殖炉の開発でウラン資源の有効利用率を飛躍的に高め、原子力を持続発展
可能にする
D 使用済み燃料の再処理で新しい超ウラン元素等の放射性元素の利用に道が開け、
科学技術産業を創造する

4. MIT提言:
   当面50年間の近時点ではワンススル−が良い。
コメント:
高速炉核燃料サイクルの実現には100年の時間がかかり、再処理技術を発展維持さ
せる必要がある。
日本は米国のように軍事で技術を維持できないし、国家予算での開発にも限度がある
ので商業事業を行いながら維持発展させる必要がある。
高速炉の実現が数10年先になるので、プルサーマルの商業化で段階をおって発展さ
せる。

5. MIT提言:
ワンススルーはコストが安い
   コメント:
 プルサーマルのコストは日本においてはガスコンバインドサイクルや石油火力や水
力より安い。

    直接処分は以下の事よりプルサーマリより高くなる可能性がある。

@ 直接処分では再処理ガラス固化体より高レベル廃棄物の量が15倍多くなり、
又、
放射能(発熱)も高くなって、処分場面積が4倍大きくなり、コストが2.6倍高く
なる可能性がある。
A 又、放射能の無害化時間も1万倍もガラス固化体より長く、公衆認知が困難にな
り、コストが上昇する可能性がある。
B ウランの価格が上昇し直接処分は高くなる
米国の原子力復活NP2020計画の2020年までに50GW新設計画
高度成長中国の電力不足と2020年原子力30〜40GW新設計画
MIT提案の世界2050年1000GW(700GW近い新設)
これをワンススルーで実施する事はウラン価格がが4倍近く上昇
プルサーマルの経済性が上がる可能性がある。
C 再処理技術はフランス等で随分と改善されてきており、今後安くなる
D 日本の六ヶ所プラントは建設費の償却が終われば、コストが1/3に下がる
E 六ヶ所再処理工場は建設済みで中止は直接処分にその建設費負担がかかる

6. MIT提言:
安全性がよい(低レベル廃棄物の発生が少なく従業員に被曝が少ない)
  コメント:
    差はほとんどない。

7. MIT提言:
   使用済燃料を再処理せず、プルトニウムを分離しないため核不拡散性がよい
コメント:
@商業炉からの使用済燃料中のプルトニウムは核兵器級プルトニウムに比べ劣化して
おり、テロリストのターゲットにはなり難い。ワンススルーの方が濃縮ウラン製造工
程を含み、核兵器製造がより容易。
Aワンススルーでの使用済み燃料の長期貯蔵と地層処分は採取容易な使用済燃料中に
プルトニウムが存在し、時間経過で放射能が減衰する事で近接容易なプルトニウム鉱
山を作るに等しい。
BMOXで燃やしてしまうので核拡散抵抗性がより高い。(北朝鮮が貯蔵中の使用済み
燃料からプルトニウムを回収した事もあり、使用済燃料中のプルトニウムは燃やして
しまう方が良い。)

日本の再処理工場の悪用問題は以下で核兵器転用対策がなされている。

@ 原子力基本法で核兵器開発を禁じ、原子力委員会の平和利用監視をうけ、公開の
原則でプルトニウム利用の透明性を世界に提示
A IAEAフルスコープ査察の受け入れ
B 再処理製品はプルトニウム金蔵単体でないウラン−プルトニウム混合酸化物

8. MIT提言:
今後50年はウラン資源の問題はない(他の金属資源の例よりウランも見つかる)
   コメント:
IAEA評価のウラン確認資源量は以下であり、1000GWワンススルーの年消費量は燃焼度
5万MWd/T で20万d、高燃焼度10万MWd/Tで約18万dであり、以下の可採年になる。
このため、ウラン価格が高騰する。

80 j/kgU以下 :約300万dU  :15〜18年
130j/kgU以下  :約400万dU   :20〜22年

     以上