EEE会議(Re:核燃料サイクル政策論争: Re:再処理推進論者の説得力は弱いぞ!).........03.10.06

 
先日(10/3)、標記件名の匿名希望(「5628」)氏のメール(日本が採用している現行
の再処理法=PUREX法に問題ありとする内容)をお送りしましたところ、これに
対して日本原子力研究所の佐藤 治氏(EEE会議特別会員)より、次のような反論
が寄せられました。ご参考まで。
--KK

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日本原子力研究所の佐藤です。私は再処理の専門家ではありませんが、現行のピュー
レックス法再処理技術に大きな技術的欠陥があるとの趣旨の「5628」氏の指摘は私に
とっては初耳であり、また核燃料サイクルの今後の開発戦略にも大きく関係する事柄
なので、原研内の再処理技術の専門家に意見を聴いたところ、下記の返答を得ました
のでご連絡します。

「5628」氏のおっしゃられていることは、ずいぶん違うところがあると思います。
PUREX法そのものが原因ではなく、歴史的に見て古い(すなわち現在とは排出基準の
異なる)再処理工場(民生用及び軍事用)からの廃液による汚染と思われます。最近
のPUREX法による再処理工場では海洋に放出される放射性核種量は相当抑制されてい
ます。グリーンピースはラアーグに対し派手で過激なパフォーマンスをよく行います
が、こういう方(グリーンピースの言うことを鵜呑みにされる方)が当然いらっしゃ
ることをよく認識すべきなのでしょう。
六ヶ所を懸命に立ち上げようと努力している人間が読んだら、言いがかりに近いと思
うでしょう。あまり頭にきたので以下を記しました。

>1.英仏における再処理工場からの問題の大きい海洋汚染<

確かに特にセラフィールド沿岸周辺では古い再処理工場からの汚染があることは否定
できません。しかしながら、最近の再処理工場からの放出量は相当抑制されていま
す。また、国によって基準が異なるので、再処理工場なら何でも同じ廃液が出るわけ
ではありません。たとえばヨウ素129は英仏ではあるレベル以下で海洋放出が可能
ですが、日本はほとんど放出できません。(燃料溶解時に気体としてオフガス中に追
い出して吸着材でほとんどすべて捕集します)

>2.周辺地域の小児におけるPu蓄積(歯など)の指摘がグリーンピースからなさ
れ、<

これについては、聞いたことはありますが、再処理工場が原因だったのか(軍事施設
が原因だったような記憶があります)事実関係を明らかにする必要があります。ま
た、グリーンピースが指摘したのかも疑問です。

>3.グリーンピースから、ラ・アーグの廃液パイプの強い汚染が指摘されている<

これは、グリーンピースのライフワークの1つでラアーグを止めるキャンペーンの一
環で6年ぐらい前にやられていたもの。
グリーンピースは、ラアーグ再処理工場から沖に伸びる廃液を放出するパイプのまさ
に出口の溶液をサンプリングして周囲の海水より濃度が高い廃液が放出されているこ
と、パイプが干潮時に接近し安いところにあったため測定したところパイプの表面線
量が周囲に比べて高かったことなどを発表していたようです。(いずれも立入禁止の
ところで行っています。グリーンピースはそのようなパフォーマンスが好きなようで
す)
どんな原子力施設でも排気筒から放出される放射性核種の濃度は、敷地境界で濃度限
度を十分下回っています。これは希釈効果があるからです。逆に言えば排気筒出口の
濃度は敷地周辺よりは高くなります。(それでももちろん年間の被曝量1mSvを超えな
い濃度にしています)
六ヶ所再処理工場の廃液パイプはこんな簡単に一般公衆がアクセスできるところには
設置されていないと聞いています。また、希釈された上で放出されます。
☆このほかラアーグ周辺では白血病や悪性リンパ腫が増えたなどの報告が多くなされ
ていますが、沿岸の汚染が原因ではなく人口流入によるものと結論づけられていま
す。

>などから、少なくとも現行再処理方法では、日本の沿岸が汚染される懸念があるわ
けです。<

微量の放射性廃液は放出されますが、海洋及び大気を合わせてもそれによる被曝は
0.02mSv/年で十分低くなる評価はなされています。

>私自身は軽く考えて、今の政治状況ではやるべきではないと思いますし、やるなら
ば英米仏で汚染やいろいろな重大な問題が指摘されているピュレックスを除いたそれ
以外の方法、例えばフッ化物揮発法(日立で成功したとかいう話)やアルゴンヌで考
案された塩化物法、ロシアの酸化物熔融塩法でやるべきでは?<

噴飯物です。PUREX法がだめでなぜこれらの方法がよいのか?全く理解に苦しみま
す。なお、フッ化物揮発法は日本で成功していませんし(使用済燃料試験は未だやっ
たこともない)、アルゴンヌの方法は金属燃料が前提(今の原子炉燃料には使えな
い)、酸化物溶融塩法はもともと燃料製造法で再処理に向いた方法ではないので未だ
に成立性に疑問が呈されています。



On Fri, 3 Oct 2003 16:22:42 +0900
"Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp> wrote:

> 皆様
>
>  はじめまして、5628と申します。
>  
>  ピュレックス再処理推進論の言う事を見ると、反原発論者に一発で反論されてお

> まいになる論だなあと危惧しています。
>  というのは、
> 1.英仏における再処理工場からの問題の大きい海洋汚染
> 2.周辺地域の小児におけるPu蓄積(歯など)の指摘がグリーンピースからなさ
れ、
> 3.グリーンピースから、ラ・アーグの廃液パイプの強い汚染が指摘されている
>
> などから、少なくとも現行再処理方法では、日本の沿岸が汚染される懸念があるわ

> です。
>  そこを反原子力論者が突ついてきたら、どのように有効な反論をしてくるので
しょ
> うか?
>
>  そうした中で、 EEE会議(核燃料サイクル論争: 反原発グループと未来研

> 会を考える)......2003.9.17........を見ますと、なんだか、辛くなってきま
す。
> この文章の「再処理一時停止論者への反論」というのは、ぱっと見でも、反原発論

> の団体が一発で壊滅させてきそうな論理のように思いますが.........
>
>  例えば、
> >再処理をしても他の石油や石炭火力や水力などより安い。
>
> という部分は、インターネットのハキダメとか「ネットの肥溜め」とか言われてい

> 「2ちゃんねる」の住人でも余裕で打撃を与えて潰せる部分ではないでしょうか?
>  
>  私自身は軽く考えて、今の政治状況ではやるべきではないと思いますし、やるな

> ば英米仏で汚染やいろいろな重大な問題が指摘されているピュレックスを除いたそ

> 以外の方法、例えばフッ化物揮発法(日立で成功したとかいう話)やアルゴンヌで

> 案された塩化物法、ロシアの酸化物熔融塩法でやるべきでは?
>
>  開発のための時間がかかるというけど、それが現在では好都合なわけです。
>  というのは、北朝鮮のからみかなんかで「日本核武装論」がどんどん現実味を帯

> 始めている現在、強引に再処理工場稼動をはじめてしまえば、日本が核武装する危

> 性が増大すると考えられるからです。
>  それをすれば、中国との問題も発生するし、北を強烈に刺激する危険性が強い。
>
>  どうでしょうかね?
>


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 佐藤 治
 日本原子力研究所
 エネルギーシステム研究部
 システム評価研究グループ
 E-mail : sato@ruby.tokai.jaeri.go.jp
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