EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........................................................031017


標記の件に関し、青森県弘前市在住の品川信良氏(弘前大学名誉教授、EEE会議
特別会員)からも、次のような大変貴重なメールをいただきました。 ご参考まで。
--KK

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さて15日付けのEEE会議のご質問、すなわち、
「原発(など)を、なぜ過疎地にばかり建設するのか」のご質問に、
私なりの、特に医学畑の者の考えを、お伝えしてみます。

これには、少なくとも、四つぐらいの理由があるかと思います。
その第一は、やはり何と言っても、危険や不安を否定できないからだと思います。
広島、長崎、チェルノブイリなどを、どうしても思い起こすからです。
それに、永久に人の住めない土地になるのではないか、
近くでとれた農作物などは売れなくなるのではないか、
癌、白血病、奇形児などが増えはしまいか、
などの不安を捨てきれないからです。

第二の理由は、権力や社会の中枢に在る人々、
富裕/支配階層の方々などが、万一の場合、
自分たちはできるだけその被害を受けたくない、と考えるからです。

第三の理由は、万一の場合、社会全体や国家全体としての被害を、
最小限度に留めて置きたいからです。
実は、これが一番大切な理由かと思います。

この他、第四の理由としては、何かの施設を造るときに、
土地の獲得や買収が、比較的容易であるという
経済面の理由もあるかと思います。
ただしこの経済性については、昔から異論もあったかと思います。
例えば原発の場合ですと、遠隔地に造れば、送電線が長くなるとか、
職員や専門技術者などの通勤が困難になるなどのデメリットも、
昔から問題になってきました。

以上の事情は、原発や核関係の施設に始まったことではありません。
例えば、結核やハンセン病などが、伝染性であることが
分かったにもかかわらず、不治の病いであった時代がそうでした。
人里離れた山奥にサナトリウムを造ったり、
遠い離島にらい療養所を造ったりしました。
都会の真中には造りませんでした。
あの時代は、「空気の良い閑静なところで療養に専念する(のが良い)」
というのが、一種の殺し文句でした。

囚人や凶悪犯の場合も同じようなことでした。
街の中に刑務所があると言うことは、昔から例外でした。
例外的に懲らしめや、教育効果を狙って、わざと造ることは、
ごく稀にはあったらしいですが。
また、建設当初は田舎であったが、その後街が大きくなったために、
今は街中にあるという、例外的なこともありました。

イギリスが囚人をオーストラリアに、ロシアがシベリアやサハリンに流刑に処し、
ついでに開拓に当たらせたことは有名な話です。
日本でも、江戸時代には佐渡などに、明治以後は網走などに、
政治犯などを収容しました。それによって、権力者や支配層は、
それこそ枕を高くして寝ることができると、考えたからです。

しかし、無人島、人跡稀な、かつてのオーストラリア、シベリア、
佐渡、網走のような恰好の土地は、段々無くなってきました。
どこに行っても、誰かが住んでいるようになりました。
人だけでなく、貴重な生物の生息が、問題になるようにもなりました。

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そこで、これからさき大切なことは、そこに住んできた人々と、
為政者、権力者、資本家などとが、第三者を中にたてて、
もっと十分に話し合うこと。その際、話し合いの鍵を握るのは、
「リスク(risks)とベネフィット(benefits)のバランスや兼ね合い」です。
「国益」を振りかざした時代もありましたが、そう簡単には行かなくなりました。
情報の提供や、自己決定(権)や(地方)自治ということも、
ますます大切になってきました。

そんなわけで、相手の無知や貧困につけこんだり、
政治家や選挙民を買収したり、新幹線や企業の誘致をほのめかしたりして、
「ごりおし」する時代は終わったと思います。

はっきり、「これこれしかじかの危険はある。
しかし、現段階において最善の安全対策は立てる。
またその代わりに、これこれしかじかの利便や利益を与える。
また万一、何かがあったときは、これこれしかじかの補償が与えられる」
などの点を十分に説明し、保証し、更には「第三者」を間にたてて、
契約を結ぶべきものだと思います。

ところが、これまでの現実は、余りにも以上のことからは、かけ離れていました。
「第三者」とは名ばかりで、一皮むけば、同じグル仲間が保証人であることが、
大部分でした。また「よらしむべし、知らしむべからず」の傾向も、
依然、強かったと思います。

私は地方大学に長年勤めた医者ですが、医療では
インフォームド・コンセントとか、患者の自己決定権と言うことが、
これだけうるさく、あれだけ盛んに言われています。
原発などの場合も、同じことだと思います。
経済最優先、大都市優先、国益優先、地方軽視などの論理や哲学にも、
この辺でメスを入れる必要があるかとも思います。

品川 信良

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