EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線被ばく問題: 豊田正敏氏)..........031021


標記のテーマに関する益田恭尚氏のコメント(10/18)に対し、豊田正敏氏から、再び
次のようなメールをいた
だきました。ご参考まで。 
このテーマは、最初に小生が「東京のような大都会の近くに何故原発を建設できない
のか」という素人的な
発想で問題提起したものですが、いろいろな方々からの専門的なコメントを拝読し、
この問題の奥の深さが
小生なりに分かったようで、大変勉強になります。ただ、この問題をどこまで議論す
るべきか、何か具体的な
結論(あるいは政策提言)が出てくるのかどうか、といったような点も併せてご検討
いただければ幸いです。
--KK

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この問題は、原子力発電所の立地について正確な認識の下に議論しなければ、かえっ
て、一般国民の信頼を失
うことが懸念される。
益田氏の言い直された『敷地の広さが、「現行基準」によって決められている』とい
う表現も、正確とはいえ
ないと考える。発電所の立地は、一般に、原子炉の詳細設計の行われる前に、地元の
了解を得て決めているの
であって、立地審査指針(基準ではない)は、その立地条件の適否を判断するための指
針にすぎない。

1. 平常運転時
同氏の表現を次のように訂正したい。「米国NRCは、原子炉1基あたりの通常時被ばく
をICRPの ALARAの精神に
より、一般公衆の線量限度1mSvの1/20の0.05mSvという線量目標値を設定した。(自然
放射線は、国によりま
た、地域により異なるが、平均的数値は、2mSv程度のはず) これに対し、わが国
は、原子力施設全体の線量
目標値を0.05mSvと設定している。ただし、この線量目標値は達成されないからと
いって、安全上支障がある
と考えるべきものではないが、達成されない場合には、改善のための一層の努力が要
請されている。この線量
目標値が設定された当初は、これを超える発電所もあり、タービン建屋の換気を高い
排気塔から放出する措置
をとった発電所もあった。その後、燃料の破損率が大幅に減り、現在では、敷地境界
の放射線量は、線量目標
値の1/10以下になっており、平常時の原子炉運転による被ばくは離隔距離の制約条件
にはなっていない。」

2. 重大事故
 審査指針によれば、「原子炉の特性、安全防護施設などを考慮し、技術的見地から
見て、最悪の場合には起
こるかもしれないと考えられる重大事故発生時に、敷地周辺に住んでいる人が、放射
線障害を受けない距離ま
でを『非居住区域』とする。そして、この距離を判断する目安線量として、甲状腺
(小児)に対して、1.5Sv、
全身に対して0.25Svを用いる。」と規定している。
原子力発電所の立地審査指針による上述の平常運転時及び重大事故を考慮した場合、
離隔距離を400~500mとし
ておけば、十分である。

3. 仮想事故
 原子力発電所の立地に関連して、むしろ、重要なのは、原子力発電所敷地の外側の
次に述べる『低人口地
帯』及び『人口密集地帯』である。この規定があるために、原子炉の安全性をいくら
高めても、人口密度の高
い都市周辺には設置出来ない。
重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられないような事故(以下
仮想事故という)の発生を
仮想した場合、範囲内にいる公衆には著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断
される地域を『低人口地
帯』とする。これは、このような地域に住む人が、著しい放射線障害を受けないため
に、適切な措置をとるこ
とが出来るような人口密度の低い地域であることが必要である。低人口地帯の範囲内
の目安線量は、甲状腺
(大人)に対して、3Sv、全身に対して0.25Svを考える。
また、仮想事故の場合、全身線量の積算値が、集団線量の見地から、原子炉敷地を
『人口密集地帯』からある
距離離しておくことが必要である。集団線量の目安としては、2万人Svを参考にして
決める。

4. 立地指針の問題点
@ 重大事故
  重大事故は、原子炉の構造、特性及び工学的安全施設などによって決めるべきで
あると述べているが、実
際には、原子炉の安全設計に関係なく、格納容器内に放出されるFPの量を炉心内蓄積
量に対し、希ガス2%、よ
う素1%とすることが規定されている。例えば、A-BWRの場合、一次冷却配管がなく、
原子炉冷却材喪失事故を
考慮する必要がないにもかかわらず、同じ基準が適用されるという問題がある。
 また、目安線量として、全身に対する0.25Svは大きすぎると考える。これでは、敷
地周辺に住んでいる人の
癌の発生確率が、1万人に対して、25人となるので、大幅に引き下げる必要があるの
ではないかと考える。
益田氏の言っておられる「事故時被ばくについても同様な考え方で、確率的安全評価
:PSAを行い、サイト周
辺の最悪の状態にいる人の、癌による死亡確率を10マイナス6乗程度に抑えようとい
う考えに基づいて被ばく
評価がなされます。」は、何を根拠で言っておられるのかお聞きしたい。

A 仮想事故
  この場合にも、原子炉の安全設計に関係なく、格納容器内に放出されるFPの量を炉
心内蓄積量に対し、希ガ
ス100%、よう素50%とすることが規定されている。
仮想事故は現実には起こりえない事故であり、立地が適切であるかどうかを判断する
ために用いられるもので
あるが、その意味するところを地元住民に適切かつ懇切に説明して理解を得るよう努
める必要がある。特
に、『低人口地帯』については、技術的に起こるとは考えられない事故が起こり、し
かも安全防護施設のいくつ
かが働かない場合を想定したものであること、しかも、かりに、万一、このような事
態になっても退避など適切
な措置をとることにより、放射線障害を受けないようにすることが可能であることを
明確に説明する必要があ
る。

最後に、東京湾岸の海上立地については、技術的には可能であるとしても、実証され
ていないし、経済的な問題も
あるが、最も問題なのは、東京近郊のような人口密集地帯に立地すれば、集団線量が
どのくらいになるか計算さ
れたことがおありでしょうか。
なお、念のために、関連する立地審査指針を別添ファイルで送りますので、今後は、
これらをよく読んでいただい
て発言されるようお願いする。以上


----- Original Message -----
From: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
To: <Undisclosed-Recipient:;>
Sent: Saturday, October 18, 2003 5:15 PM
Subject: EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線
被ばく問題)