EEE会議(「原子力分野における人材育成の必要性・現状・課題」:大森良太氏の研究論文)..........031025

日本の原子力がかつてない逆風に晒されている中で、近年、原子力分野における
人材育成、とくに大学レベルでの原子力教育の先細り状況が懸念されております。
この点に関しては、すでに日本原子力学会、日本原子力産業会議等で問題点の分析
や対策の検討が行われておりますが、こうした現状と課題を総合的に取りまとめた研

論文が、文部科学省の科学技術政策研究所の「科学技術動向」2003年9月号に発

されております。

筆者は、上記研究所研究官の大森良太氏(科学技術動向研究センター 環境・エネル
ギー
ユニット、前東大大学院専任講師、EEE会議会員)で、同論文の全文は、
http://www.nistep.go.jp/index-j.html (特集3)に掲載されています。

大変よく纏まった論文ですので、ご参考までに、同論文の目次と、最終章(まとめ)
だけを
以下に掲げておきます。なお、この論文のことは、天野 牧男氏(EEE会議特別会
員、
エネルギー問題に発言する会会員)のご教示によるものです。
--KK

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<原子力分野における人材育成の必要性・現状・課題>  大森良太

1.はじめに
2.原子力産業の縮小傾向と原子力人材の高齢化
3.原子力を専攻する学生に関する需給バランス
4.国による原子力人材育成の必要性とその人材像 ―原子力人材は不足しているのか

5.大学における原子力教育の現状
6.原子力研究機関等による原子力教育・研究支援
7.社会人技術者の資格認定と継続教育
8.まとめ


<第8章 まとめ>

本稿では、原子力産業の動向等を踏まえた上で、国による原子力人材育成の取り組み
の必要性および育成すべき人材の具体像について検討した。さらに、大学における原
子力教育、原子力研究機関等による原子力教育・研究支援、社会人技術者に対する教
育訓練や資格制度の現状を概観した。本章では、以上の要点をまとめ、最後に今後取
り組むべき課題を述べる。

 近年、わが国の原子力産業は縮小傾向にある。特に原子力産業の発展を中心的に
担ってきた人材が高齢化していることから、若手世代への技術継承に早期に取り組む
ことの必要性は認められるが、全体として言えば、当面、産業界において人材が不足
する事態は想定しにくい。

 このような状況において、国の政策課題は、既存プラントの安全確保、原子力分野
の知的資産の継承、長期的な研究開発等の観点から不可欠な人材、特に産官学それぞ
れの分野で中心的役割を担いうる高い専門性を有する“基幹的人材”を確保・育成し
ていくことである。このような人材は育成に時間がかかり、短期的な産業動向の変化
に応じて他分野等から補充することが困難である。

 わが国の大学における原子力教育・研究に関しては、学部レベルでは専門科目より
も工学基礎科目の教育が重視され、また大学院においても、原子力工学を放射線や量
子ビームの利用等を含む広い学問分野として捉える傾向が強まり、大学での原子力発
電関連の教育カリキュラムは希薄化している。これは工学教育・研究システム全体の
変化や原子力産業の縮小傾向に即した対応であり、今後は社会人技術者に対する原子
力教育や資格認定制度等の拡充等が相対的に重要になると考えられる。一方、原子力
研究機関等による大学院生や社会人技術者に対する原子力教育・研究支援、および、
社会人技術者に対する資格認定制度は徐々に拡充しつつある。

 以上を踏まえ、原子力分野の基幹的人材の確保・育成に向けて、当面、国として取
り組むべき課題について検討する。

 第一に、原子力二法人の設備と人材を活用した人材育成拠点の形成があげられる。
日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構には豊富な設備と人材が存在し、これら
を最先端の原子力研究開発のみならず大学院教育や社会人技術者教育など次世代の人
材育成に最大限活用することが肝要である。両機関の統合後の新法人においては、原
子力人材の育成拠点としての役割が求められる。すでに実施されている連携大学院制
度、社会人技術者向けの研修制度等を一層拡充するとともに、新法人の人材と設備を
活用した専門職大学院(注1)の設立も検討すべきである。このような人材育成拠点
においては、原子力の基幹技術を担う専門性の高い人材の相当数を集中的かつ効果的
に育成することが可能となる。さらに、原子力人材育成に関わる機関における研究者
の評価にあたっては、研究成果のみならず、人材育成への寄与を積極的に評価する仕
組み作りが求められる。