EEE会議(再び「日本核武装論」:米誌Foreign Affairsの論文)...............................................031103


近年、とくに北朝鮮の高濃縮ウランによる核兵器製造計画が表面化した昨年(2002
年)秋以来、「日本核武装論」が再び内外で盛んに論じられていますが、さらに最近
では、小泉政権下での積極的な対外姿勢(米国のイラク戦争支持、自衛隊の海外派遣
と50億ドル拠出決定、ミサイル防衛計画参加等々)、タカ派論客(石原知事や産経
「正論」系論客など)の活発な発言、一般国民レベルでのナショナリズムの高揚(現
状に対するフラストレーションの裏返し?)等々が要因となって、海外では日本の軍
国主義的傾向の拡大、とりわけ自前の核武装必要論の台頭に対する懸念が一段と高
まっているようです。当EEE会議でも本年初頭以降この問題をかなり集中的に議論し
てきましたが、まだ議論が十分煮詰まっていなかったような印象があり、もう少し踏
み込んだ議論をする必要があるのではないかと感じておりました。

しかるところ、たまたま今朝、最近EEE会議に入会された旧友の小野章昌氏(元三井
物産)から次のようなメールをいただきました。大変重要なご指摘であると思います
ので、ご参考までに披露させていただきます。皆様からの率直なご感想やコメントを
歓迎いたします。(「またか!もう沢山だ」という方も少なくないかと思いますが・
・・)
--KK

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日頃大変興味深く皆様の意見や情報を読ませていただいております。
ところでForeign Affairsの最近号(November/December)はもうお読みになられ
たでしょうか?
その中で気になる論文「Japan's New Nationalism」があり、主旨を簡単にまとめ
てみましたので、よろしければ会員の方にご紹介下さい。Foreign Affairs誌の偏向
(民主党寄り)もあるのか、筆者がどのようなところから取材したのか(どうもネッ
トを通じてとしか思われませんが)、私には分かりませんが、このような意見が堂々
と発表されるそのこと自身に驚く次第です。
なお論文の筆者はMr. Eugine A. Matthews, a former Senior Fellow at the 
Council on Foreign Relations, President of Nintai, an international 
educational firm となっています。

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「Foreign Affairs 11・12月号」 ユージン・A・マシュース
「日本の新しいナショナリズム」

・2001年東シナ海の北朝鮮不審船の撃沈(第二次大戦後日本海軍が始めて行った行
為)は、国とその防衛についての国民の態度を急激に変えるものであった。2002年北
朝鮮が核爆弾開発を認めたことは更にそれを助長することになり、石破防衛庁長官は
2003年2月防衛のための先制攻撃も有り得ると述べた。日本政府の主要メンバーやメ
ディアもその意見をサポートし、日本は防衛に備えるべきである、その中には核爆弾
の開発も含まれる、としている。

・少し前まではこのような意見は、極端な右翼を除いては考えられなかったことであ
るが、今日ではこのような言葉がますます普通のものとなっている。このような傾向
は、軍事化された、独断的な、核武装した日本を生ずるという大変な事態をもたらす
であろう。また近隣諸国にとっては悪夢以外の何ものでもない。北朝鮮が挑戦を続け
れば、日本の善意の瓶から核という悪霊が出てくるであろう。日本のナショナリズム
復活はまだ確かなものには達しておらず、この先どうなるかについての意見は別れる
ところであるが、米国がこの動きを無視することは最悪の対処方法である。

・核武装は従来タブーであったが、2002年には福田官房長官が公的に「憲法は日本が
核爆弾を持つことを禁じていない」と述べているし、石原東京都知事もいの一番にそ
の考えに同調している。自由党党首の小沢一郎氏もそれと声を合せて、日本は
「3,000−4,000発の核爆弾」を生産することにより如何なる中国の脅威にも対抗でき
ると述べている。

・日本のこのような動きが海外で全く知られていない訳ではない。グリーンピースは
EUに対して、東京の核武装の動きに対して全ての2国間通商協定を破棄するよう要請
している。グリーンピースは心配すべき兆候として、日本がプルトニウムの在庫を増
やしていること、既に38,000Kgのプルトニウムを保有しているが、2020年には
145,000Kgを保有することになる、5Kgで1発の弾頭が作れることから、日本は30,000
個の核弾頭を持つことになろう、と述べている。

・外国のメンバーは憲法9条とか、教科書改訂問題、要人の靖国訪問等の限られた問
題だけに焦点を当てているが、このような狭い見方は、現代日本のナショナリズムの
台頭とその原因を見過ごすことになろう。原因は2つある。1つは国内的に、第2次
大戦を記憶している人が亡くなって、現在の多くの日本人が当時如何に容易にナショ
ナリズムがファシズムに変貌したかを知らず、その恐ろしさを理解していないことに
ある。また若い人は日本の経済成長の時代に育っており、アジアのリーダーとなるべ
きと考えて大きくなって来ているが、ここ12年間の不況により日本の影響力は大きく
損なわれている。実際に日本の経済危機が多くの国民に深い心理的影響を与えてい
る。更に加えて中国の躍進が心理不安を増大させている。中国へのリーダーシップ移
転の動きに対する反発と中国との戦略的緊張が、日本として近隣国に匹敵する軍事力
を再び持つべきという国内ナショナリストの考えの強化に繋がっている。

・北朝鮮の新たな核脅威のお蔭で、日本の国民や政治家が日本自身の核武装について
大っぴらに語り合っている。これは1年前には考えられなかったことである。今年始
めには、政府が1995年にそのエネルギー計画から核爆弾を製造できないか検討を行っ
たことが明らかになった。もしその時点で事が漏れていたら、国民の反対の声はもの
すごく、首脳の辞任に繋がるものであったであろう。二人の京都大学教授、中西輝
政、福田和也両氏は「北朝鮮の核ミサイルの標的になることを避けたかったら、首相
が日本自身で核武装することを直ちに宣言すべきだ」と最近書いている。このような
意見はナショナリスト新聞と言える産経新聞に定期的に出されている。

・今ひとつの心理的背景として、日本はアジア諸国に多額の経済的援助を行ってきて
おり、国連、世界銀行、アジア開発銀行にも多額の資金提供を行っているが、日本に
対する尊敬には繋がっておらず、世銀やIMFの長も出した経験がない。1991年に始め
て国連高等弁務官に緒方貞子氏が就任しただけである。この認識不足は多くの日本人
にとって全く不公正なものと考えられており、軍事力再強化が尊重を勝ち取る1つの
方法ではないかと考える人々が出て来ている。

・日本の経済界にも新しいナショナリストの考え、構造改革の重要性を主張する声が
出ている。政府関与の低減、年功序列の廃止、貢献度に応じた昇進、競争の強化、等
である。日本が世界でリーダー的役割を果たすというナショナリズムが、経済再興の
ための構造改革の背景として、日本国民をまとめて行く1つの要素になる可能性があ
る。

・近隣国における米国の立場に対する影響を見ると、日米間には安全保障の繋がりが
あるため、米国が日本の軍事力強化を支援していると取られると、ワシントンと北京
の隔絶が生じよう。また逆に、日本自身が独立独歩を考え、日中両国が軍事力競争の
リスクを認識する場合には、日中が(恐らく安全保障協定を結んで)近付くことにな
ろう。

・米国政府としては、構造改革を支持する経済的ナショナリストを支援して、ラジカ
ルな動きに力を与えないようにすべきである。日本の社会的セーフティーネットが破
綻するような大きな経済ショックを避けるよう支援し、極端な思想を排除するように
持って行くべきである。自由民主党リーダーの意見だけを聞くのではなく、市民レベ
ルの息遣いをモニターして行くべきである。自民党は選挙マシンとしての足場は残し
ているが、多くの国民は既に愛想を尽かしている。日本の再興を果たせないと考えら
れるリーダー達とだけ繋がっているべきではない。その意味でブッシュ政権は独立的
リーダー石原知事や、秋田の寺田知事、栃木の福田知事等とも会話を始めるべきであ
る。

・近隣国に憲法9条や靖国参拝の問題をやかましく言わないよう働きかけるのも日本
のナショナリズムを押えるには効果があろう。しかしその上で、ワシントン政府は東
京政府が核武装しないよう説得する必要がある。核を持った日本はアジアを極めて危
険な場所にするであろう。中国は核の在庫を増やすに違いないし、原子力潜水艦等の
軍事力強化に走るであろう。アジアには5つの核保有国が突然現れることになる。中
国、インド、日本、パキスタン、北朝鮮である。そして韓国も直ちにそれに従うこと
になろう。このような状況にならぬためにも米国は北朝鮮問題解決の努力を倍増する
必要がある。北朝鮮は6ヶ月以内に十分な量の核爆弾を持つ可能性があるので、それ
を急ぐ必要がある。

・第1次大戦後の米国を思い出さねばならない。第1次大戦後日本は極度に国粋主義に
走り、世界の多くの地域がその影響を受けた。80年後の今も両大戦に挟まれた時代の
状況に酷似した環境にある。しかし現在は、国際的なテロリスト活動と日本の隣国の
冷酷、予期不能な、核武装の動きにより、危険は更に大きなものになっていると言え
る。もしワシントン政府が、正しい兆候を正しく読み取り、日本のナショナリズムの
動きを極端なものとさせず、最も建設的な方向へ導く努力を払えば、この危機は和ら
げることができよう。しかし、その成功は保証されているものではない。米国は直ち
に行動を取るべきである。