EEE会議(核燃料サイクルのコスト問題:毎日新聞記事の真偽)...............................................03.11.07


すでにご覧になったと思いますが、一昨日(11/4)の毎日新聞に「核燃サイクル廃止ま
でに21兆円 電事連が試算」という記事が載り、各方面で反響を呼んでおります。こ
の記事に関して、電事連広報部に照会したところ、次のような回答があった由、EEE
会議会員の伊東慶四郎氏(政策科学研究所研究主幹)より提供していただいた情報で
す(付随するコメントも伊東氏のものです)。 なお、当該毎日新聞記事を、末尾に
載せておきました。ご参考まで。
--KK

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◆総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会における審議に備
え、バックエンドの書事業に関するコストの精査を重ねているが、現時点において、
総費用さらには発電コストについて試算をまとめた事実はない。

◆上記小委員会での原子力と自由化の議論は、本年2月の電気事業分科会報告書(6
頁)の方針、「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性
等を分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、官民の役割分担の在り方、既
存の制度との整合性等を整理の上、平成16 年末を目途に、経済的措置等具体的な
制度・措置の在り方について必要性を含め検討するべきである。」に基づき進められ
ているものである。

 <以下伊東氏の補足的コメント>

なお、上記「 」内の報告書方針の後段部の表現は、エネルギー政策基本法に基づ
き、この10/7に閣議決定された「エネルギー基本計画」(17頁参照)において、「・
・・・・平成16 年末までに、経済的措置等の具体的な制度及び措置の在り方につい
て検討を行い、必要な措置を講ずることとする。」とさらに強化されています。
 
 きのうのメールで、基本は、市場自由化に伴う投資回収リスク問題で、制度的枠組
みで処理していくべき問題だと申したのは、この点に関するものです。国会で附帯決
議された原子力等の「優先給電指令制度」の導入は、この投資回収リスクを低減させ
る重要な手段の一つであり、エネルギー基本計画でも明記されています。


 これら制度的枠組みに関する検討に大きな影響を及ぼした提言の一つとして、金子
熊夫先生が企画された財団法人日本国際フォーラム主催:緊急国際会議「エネルギー
安全保障と環境保全:原子力の役割」(2002年7月8日、東京・経団連会館)に
おける、パネル討論のための基礎ペーパー(その2)「電力市場の自由化と原子力ガ
バナンス」があります。
 この会議は、中曽根元総理、尾見大臣、ベーカー駐日米国大使、テレンス・ウィン
欧州議会予算委員長等
も参加されたもので(詳細議事録はEEE会議ホームページに掲載)、そこに提出され
た上記基礎ペーパー(原案;今泉、山田、査読・再編集:伊東)では、次のように言
及されています。

「5.原子力のガバナンス面からみた今後の課題

   日本では、エネルギーセキュリティや地球環境問題への対応面から、原子力が
将来とも不可欠であり、その開発を推進していかなくてはならない。 しかし、電力
市場の自由化は、短期的な効率性の追求を基本にしていることから、初期投資が大き
く資本回収に長期間を要する原子力は厳しい課題を抱えているものと言える。従っ
て、原子力発電の存続のためには、他の電源と比べ、トータルコスト面からみて遜色
のないことが社会的に確認され、かつ将来の原子力発電への需要の確保が保証される
ような制度的枠組みを構築することが必要である。このためには、今後、以下のよう
な諸課題に的確に対処していかなければならない。

◆ 環境対策費面から見た原子力と火力の公正な競争力評価の実施
◆ 原子力発電の稼働率向上(コスト低減)に向けた規制体系の見直し
◆ バックエンドコストの不確実性と官民の役割分担の見直し
◆ 原子力発電への需要の制度的保証                     
               」


         伊東慶四郎 

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毎日新聞(03/11/04)

<核燃サイクル>廃止までに21兆円 電事連が試算

 国内の原子力発電所から出る使用済み核燃料の再処理・燃料への加工・最終的な廃
止措置など核燃料サイクルにかかる総費用が、06年の再処理工場操業から廃止まで
の72年間で約21兆7000億円にのぼるとする電気事業連合会(電力会社10社
で組織)の試算が3日、明らかになった。試算は、この費用を含めた原発の1キロ
ワット時当たりの発電コストが、天然ガスや石炭火力をやや上回る7円台になるとし
ている。処分費用総額や発電コストはこれまで非公表で、電力会社側の試算が明らか
になるのは初めて。
 21兆円を超える費用は火力など原発以外では必要なく、原発でも使用済み核燃料
を再利用せず、直接処分すれば、21兆円もかからない。そのうえ、21兆円につい
ても、計画が順調に運ぶことを前提にしたもので、業界内には実際はもっとかかると
試算に対する疑問が強く、議論を呼ぶのは必至だ。
  電力自由化に伴うコスト競争で、長期に多額の費用がかかる原発の推進に電力会
社は慎重姿勢を見せ始めている。21兆円は、電力料金に上乗せして回収する方針
で、工場の操業費用など一部は積み立てが始まっているが、廃止措置費など手当てで
きていないものも多く、負担方法を同調査会で議論することになる。