EEE会議(日本の対アジア外交と核問題).............................................................................03.11.21


新聞報道等でご存知のように、現在日本と東南アジア諸国との関係に重要な
変化が起こりつつあります。最大の原因は、この地域における中国の影響力
の拡大と日本の影響力の相対的低下であると思います。胡錦涛新政権の下
での中国の対アジア外交は、まさに目覚しいものがあります。 それに比して、
日本は、長引く経済不況により、対アジアODAは大幅に削減され、貿易・直接
投資活動も低迷し続けております。このままでは、日本は過去の外交遺産を
食いつぶすだけで、アジアでの地盤沈下は避けられません。

このような状況を打開するための窮余の策として、日本もついに東南アジア
友好協力条約(TAC)に加盟する方針を固めたようです。今週(11月18日)
東京で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国との次官級協議で、
田中均外務審議官(昨年9月の日朝交渉で有名になった人物)が加盟方針を
表明、ASEAN側もこれを歓迎する意向を示しました。正式な加盟表明は
12月11日から東京で始まる日・ASEAN特別首脳会議の場で小泉首相が
行うことになっているようです。

1976年に締結されたTACは、加盟各国の主権や領土保全、内政不干渉
、紛争の平和的解決、経済・社会・文化面での協力推進をうたうASEANの
基本条約で、1998年の改正で域外国の加盟が可能となり、2003年10月
には中国とインドがすでに加盟を表明しております。ASEANとの「戦略的パ
ートナーシップ」をうたう共同宣言に調印し「経済的南進」を続ける中国と、
「経済的東進」を推進しASEANに基盤を築きつつあるインドに挟まれ、日本
は止むなくTAC加盟に踏み切らざるを得なくなったわけです。

ASEAN側からみても、過度の中国偏重に危機感を抱いており、日本のTAC
加盟を歓迎するのは当然のことです。インド、日本を加えて中国を牽制する
しかないからでしょう。対中国牽制は、第2次大戦後のアジア自由経済を実
質的に主導してきた米国の利益でもあり、日本として何も懸念することはな
かったはずです。

では、なぜ日本はTAC加盟をこれまで躊躇してきたのでしょうか。その大きな
理由の1つは、「域内で他国が核兵器を使用することを許可しない」という
TACの1条項が、米国の「核の傘」に軸足を置く日本の国家安全保障政策に
抵触すると考えられてきたからです。先のバリ島でのASEANと日中韓印との
一連の首脳会談で、小泉首相が存在感を全く示すことが出来なかったのも、
こうした日本の消極的な外交姿勢が対米追随の印象をつよく与えたためで
あると考えられます。こうした背景は、日本のマスコミ報道では、あまり注目さ
れていませんが、海外ではもっぱら常識化しているようです。

最近日本国内では、北朝鮮核問題との関連で、「日本核武装論」や「核の傘」
依存の是非が論壇の一部で盛んに議論されていますが、こうした問題は、
単に北朝鮮との関係だけでなく日本の対アジア外交にも深く関係しているわけ
ですから、もっと国民的なレベルで、しっかりした議論を尽くすべきだと思いま
す。当EEE会議でもこうした角度からのご議論も期待しております。
--KK