EEE会議(珠洲原子力発電所の建設計画断念:豊田正敏氏の感想)...................................031202


標記のテーマに関し豊田正敏氏から次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK

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今回電力三社が珠洲原子力発電所の建設計画を断念したとの新聞報道に対して次のような感想を述べます。

関西電力、中部電力及び北陸電力の三社は、石川県の珠洲原子力発電所の建設計画を断念する方針を固め、
地元の珠洲市と石川県に計画中止を申し入れ、理解を求める見通しであると報じられている。これは、今後の
電力の伸び率が低下したことに加え、原子力発電所は建設期間が長く、かつ、運転開始後、数年間の発電コストが
火力発電に比してかなり割高になる上、再処理、プルサーマルなどのバックエンド費用が不確定であるため、
電力自由化に伴い、電力事業の経営を圧迫すると判断したためと考える。

最近、電気事業団が公表した原子力発電原価が火力発電と同程度であるとの試算結果の前提には、次のような
いくつかの疑問点があり、電力経営者の考えとの間に大きな乖離があると考える。

@原子力発電所の償却期間を40年としているが、電力自由化を控え、企業経営上は、運転開始後当初の数年間の
コストが問題である。
A再処理、MOX加工費についても同様であり、不確定さ、陳腐化を考えれば、償却期間は15~20年程度とすべきで
ある。
B新規地点の原子力発電所の建設費には、用地費、整地費、進入道路費、立地対策費、漁業補償費などが必要と
なり、かなり割高となる。

以上の理由により、特に、新規地点の建設費はかなり割高となる。

なお、この他に、
@ 原子力発電所は需要地から遠く離れているため、送変電費がかさむ。
A 原子力発電所の場合、設備利用率は80%を前提としているが、深夜電力は割安でしか売れないし、それでも
利用出来ない深夜電力は、揚水式水力発電所により、ピーク電力に変えるための加工費が必要となる。
ということから、余分の送変電費及び揚水式水力発電所のコストを加算する必要がある。

この珠洲原子力発電所のケースは他の電力会社でも事情はそんなに変わらず、今後の新規地点の建設に
暗い影を投げかけている。これにより、原子力計画は大幅に縮小され、わが国の地球温暖化のための国際約束
が守られるかどうか危惧される。しかし、電力自由化により、電力会社に国の政策を押し付けるわけにはいかない。

この他に、建設される原子力発電所の数が減ることは、その建設費が高くなるとともに、原子炉メーカーは
経営が成り立たず、優秀な原子力技術者を確保することが難しくなる。

このように岐路の立っている原子力発電の現状を改善し、原子力を活性化させることは容易なことではない。
わが国では、A-BWRで内部循環ポンプ、格納容器と原子炉建屋の一体化などにより、建設費を2割削減出来た
が、なお、国際価格に比して割高である。

今後の対策としては、二次系のポンプやバルブなど安全上重要でない機器についても官庁検査が厳しく、火力
発電所の機器に比べて3倍になっていることなど国の不要な規制を緩和するとともに、設計の合理化、建設工
法の改善、施設や機器、装置の発注の合理化などによる建設費の低減、燃焼度を60,000~80,000MWD/T程度まで
高めるとともに、炉心管理の合理化による燃焼効率の向上、定期点検期間の短縮により設備利用率を高めるな
どによって経済性の向上に努めることは勿論必要であるが、建設される年間の原子炉基数が少なくなっている
こともあり、国際価格に近づけることは容易でない。

抜本対策としては、海外のメーカーでは、生き残りをかけて国の間での統合も考えているのに鑑み、わが国
でも原子炉メーカー三社を他の重電機器も含めて一社に統合し、国際競争力を持たせることにより、海外の原
子炉プラントも受注することによって受注する原子炉の数を多くしてコストダウンを
図ることが必要と考える。また、機器、装置の発注に当たっては、海外も含めて国際競争入札により、価格
の低減に努めるべきである。この際、我が国の安全基準を国際並に近づけるとともに、海外のメーカーに対す
る官庁検査の立会いを海外の検査機関に代行させることも考慮すべきである。また、これらの輸入される機
器、装置の関税を撤廃すべきである。

以上の対策とともに、火力発電に比して資本費の比重が高い原子力発電は、運転開始後、数年間の電力コスト
が高いのでこれを低く抑えるため、
@ 原子力発電プラントの減価償却の耐用年数を16年から40年に延長するとともに定率償却から定格償却に変
更する。
A 固定資産税、燃料税などの税負担を運転当初の5年間減免するか、国により補填する。
B 再処理費及びプルサーマル費用が予想外に著しく高くなっているだけでなく、その見通しが不確定である
ので、核燃料政策の抜本的見直しを行う。
C 炭酸ガス放出施設、装置に対して炭素税を課し、それを原子力発電所の建設助成金に充当する。

などの対策をとる必要がある。しかし、これらの対策をとったとしても、電力経営者が新規地点の建設に意欲を示すかどうか疑問である。以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp