EEE会議(「危機に立つ核不拡散体制と保障措置制度」Pellaud論文)...................031208
 
先日(11/27)、スイスのBruno Pellaud氏(前IAEA事務次長=保障措置担当)が最近イタリアのコモ湖で行なった演説「危機に立つ核不拡散体制と保障措置制度」(The Non-proliferation regime and the Safeguards system at a crisis point)のテキストをお送りしましたところ、その要点を、東京工業大学の澤田哲生氏(EEE会議タスクフォース委員)が次の通りまとめて下さいました。ご参考までに演説のテキストを再度掲げておきます(添付ファイル)。
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「危機に立つ核不拡散体制と保障措置制度」
 
<要約>
 
保障措置システムおよび核不拡散レジームは現在大きなチャレンジに晒されている。そのことに如何に対処するかについては国際的な共通認識に足並みの乱れがある。米国内には国際的な核査察の有効性に疑問を発する者もいる。

ただし、保障措置システムは今やかつてないほど強靭になっており、イラク問題ではその有効性を証した。また査察システムの枠内では、北朝鮮に対しても同様に、ある程度の有効性を示している。また、イランにおいては包括的保障措置協定(Comprehensive Safeguards Agreement=CSA:1995年採択)による補強を最大限に用いた。別途、追加議定書(Additional Protocol=AP)も出来ている。
 
もっとも、イランに本来求められるべき問題解決おいて、CSA+APの枠組みがどこまで実際に有効であるかには疑問がある。また、このようなシステムがテロリストの行為に対抗できるのかについても議論がある。強化保障措置の履行は、「無差別待遇」(non-discrimination)の原則についての誤解が障害になっている。一方、真の意味で誠実に核不拡散を履行し信任を得ているような国々に対して、この統合的保障措置がどのような実効的御利益をもたらしてくれるかについて疑念を発する者もある。

イランに見られるような遵守拒否(non-compliance)の問題は、核の民生利用を誠実に実行することと潜在的な軍事利用の間に微妙な影を投げかけている。そこでは、技術的、経済的、合法的、政治的側面の相互関係を注意深く考える必要がある。基本的協定である「NPT」が合法的な原子力平和利用を許容していることを忘れてはならない(NPT第4条)。

より広い意味において、パキスタンなどの拡散国の役割によって、不拡散体制は挑戦を受けている。具体的には、北朝鮮のNPTからの脱退や、イランについても脱退の可能性が脅威になっていることがある。国連安保理は、この問題に対処すべく強力な意志決定機能を持つべきである。そのためには、主要な不拡散国の真の国際協力による強力なリーダーシップが求められる。
 
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<以下、Pellaud演説に関するいくつかのポイント(澤田氏の指摘)>

パキスタンの役割:
パキスタンがNPT調印国でありながら、実質的に核拡散国の役割を演じていることが黙認されている。パキスタンは、イラクを「悪の枢軸」の第3案番目の国に位置づけることに成功したとも。このようなパキスタンの奇妙な立場が、安保理とNPT再検討会議で「有罪行為」であると正式に認められるべきだという。“パキスタンこそが今や最も危険な国である”という認識を持つべきではと問うている。

統合的保障措置:
これは、IAEAが利用可能なすべての措置手段の最適結合。これは実質的には、より実効性の高いAP(Additional Protocol)の導入に結びつかなくてはならない。すなわち認定を受けたような国に対しては、その保障措置に要する人員や設備が合理的に節約されなければならない。現状でそのようにAPが働いているかといえばNOというしかない。つまり、現状の統合的保障措置にはいくつかの改善されるべき硬直性があるとの指摘である。
 
現状の(統合的)保障措置の矛盾や硬直性を解消するには、主要な不拡散国が真に国際的な協調のもとにリーダーシップを取る必要がある。
 
この最後の2行がペロー氏が最も主張したいことかと思います。要するに、IAEAに効果的な核査察(保障措置)を実施させるためには、もっと主要国はIAEAへの財政援助を強化すべきだ、現状では予算があまりにも少なすぎるということでしょう。
 
澤田哲生
 
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