ＥＥＥ会議（Re:核査察・保障措置制度の危機：Pellaud演説の要点）.............................................031208


昨日お送りしたBruno Pellaud元ＩＡＥＡ事務次長（核査察担当）の演説の「要点」
（澤田哲生氏作成）について、吉田康彦氏から次のような指摘をいただきました。
これに対する小生のコメントを付しておきます。ご参考まで。
--KK
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Ｐｅｌｌａｕｄ演説、澤田氏の翻訳の労を多としますが、論文の内容は月並みで感心
しません。
パキスタンがＮＰＴ調印国というのも間違いです。
インドに対抗して核開発・保有しているパキスタンがＮＰＴに調印するはずがありま
せん。
原文も、核不拡散体制を揺さぶっている国として、単にパキスタンだけ引用するので
はなく、インド、イスラエルも同等に併記しなければ「片手落ち」です。
ＩＡＥＡ関係者は以前から、査察権強化、安保理制裁の実効性強化を訴えているので
すが、国際政治の現実は必ずしも額面どおりには行かず、国家主権の壁、安保理常任
理事国の拒否権が立ちはだかっているわけです。
以上。
　　　　　　吉田康彦

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＜金子のコメント＞

パキスタンが核不拡散条約（ＮＰＴ）の「調印国」というのは確かに間違いで、この
部分の原文は次のとおりです。
In a sense, Pakistan has now succeeded the departing Iraq as the third
member of the “Axis of evil”. This is the only State that is known to have
patently engaged in proliferating activities with a NPT party. The details
of the Pakistan-North Korea centrifuge enrichment collaboration were
reported internally by the CIA in June 2002, kept secret and then published
in the press . The story is compelling and remains unchallenged. Centrifuge
designs, sample centrifuges, highly-enriched uranium and weapon designs were
handed over. It is not enough to brush the matter aside with the argument
that Pakistan is not a signatory of the NPT. The criminal conduct of
Pakistan should be sanctioned by the Board of Governors, by the Security
Council and by the forthcoming NPT Review Conference because this is an
agression on the NPT regime. One American non-proliferation expert has
properly said : "Right now, the most dangerous country in the world is
Pakistan”, with an additional allegation regarding some highly enriched
uranium - "that was given to Al Qaeda by Pakistan."

つまり、パキスタンが、ＮＰＴ加盟国である北朝鮮（本年１月以来北朝鮮自身はＮＰ
Ｔから脱退したと言っているが）と遠心分離法によるウラン濃縮技術協力を行なった
ことははっきりしており、ＮＰＴ加盟国（北朝鮮）と大っぴらに核拡散活動を行なっ
た唯一の国である。この点で、パキスタンはＮＰＴ体制に対する「侵略」　を犯した
のであり、その行為は犯罪的である。　だから、パキスタンがＮＰＴ加盟国でないか
らといって、この問題を放置すべきではなく、ＩＡＥＡ理事会、国連安保理、次回Ｎ
ＰＴ再検討会議（２００５年）はこうしたパキスタンの犯罪的行為に対して厳しい制
裁を加えるべきだ。ある米国の核不拡散問題の専門家が、「現時点で世界で最も危険
な国はパキスタンだ。若干の高濃縮ウランがパキスタンからアルカイダに渡った疑い
がある」と語ったのは正しい。イラク亡き後パキスタンは「悪の枢軸」の第３のメン
バーとみるべきだーーーというのがPellaud氏の主張です。　

確かに、９．１１事件以後、米国はアフガニスタン攻撃などでインド、パキスタンの
協力を必要としたため、両国に対する従来の厳しい姿勢を一転させましたが、北朝鮮
との協力（北からミサイル技術、パキスタンから濃縮技術）を行ない、その結果北東
アジアの危機を高めたという点では、Pellaud氏の主張の通り、パキスタンをもっと
厳しく糾弾する必要があると思います（インドやイスラエルはかかる不正行為を行
なっていないので、その点ではパキスタンと同列ではない）。この点は日本でも１つ
の盲点になっているのでは？

いずれにしても、Pellaud論文は、決して月並みな内容ではなく、色々示唆に富んで
いるので、是非原文を熟読されるようお勧めします。
--KK