EEE会議(Re:核査察・保障措置制度の危機:Pellaud演説:吉田氏の反論)................................031208


標記テーマ(Pellaud論文)に関し、吉田康彦氏からから次のような再反論が寄せられました。 
これに対する小生のコメントを記しておきます。 ご参考まで。
--KK
************************************

<吉田氏のコメント>

拝復、早速コメントをありがとうございました。
Pellaud論文の新しい点は、パキスタンがたとえNPT非加盟でも、核拡散に
加担したゆえに、(国連憲章が規定する)「国際平和と安全を脅かした国として」安
保理で制裁せよ、という点にあると思われます。小生は、以下の点で同意できませ
ん。

(1)パキスタンが北朝鮮にウラン濃縮のための遠心分離機を輸出した(実際に搬入
された)という証拠はなく、昨年10月、ケリー米国務次官補が平壌訪問の際、証拠
として北朝鮮側に示したのは、輸出許可証(紙切れ一枚)に過ぎない。北朝鮮が実際
にウラン濃縮を開始した兆候は一切なく、米国も掌握していない。衆知の通り、ウラ
ン濃縮施設建設・稼動には膨大な敷地と電力を必要とし、建設に取りかかれば米国の
衛星あるいは無人偵察機による探知は容易である。しかし米国はその後この件は全く
問題にしておらず、寧辺地区でのプルトニウム再処理だけを問題にしている。

(2)よしんばパキスタンが北朝鮮にその種の機器を輸出したとしても、そのパキス
タンに、さらにイランに濃縮技術、低濃縮ウランを提供した中国、同じくイランに、
古くはインドに同種の機器と技術を提供したロシア、さらにイスラエルの核開発を黙
認し、全面的に支援している米国こそ、NPT第一条の違反を繰り返している。つま
りNPTで特権を与えられている「核兵器保有国」こそ、自らNPT違反を行ってい
るのであり、パキスタンだけ糾弾するのは一方的、一面的で、たとえ安保理で決議案
が通っても、NPT再検討会議では、大国のエゴとダブルスタンダードを露呈するだ
けである。

(3)隣国アフガニスタンの政情不安、アルカーイダの復活に手を焼いている米国は
パキスタン軍部の支援が不可欠で、協力関係を深めており、パキスタン非難、さらに
制裁を盛り込んだ安保理決議案に米国が賛成する可能性はない。その意味で、Pel
laud論文は国際政治の現実に疎い、技術屋の抽象論に過ぎず、目新しいものでは
ない。

(4)NPT体制強化のために問われているのは、パキスタンを「悪の枢軸」に加え
ることではなく、「核兵器保有国」、特に米国の核軍縮である。しかるに、ブッシュ
政権はCTBTからいち早く離脱し、地下核実験再開の動きを示しているのみなら
ず、テロ対策と称して、小型核兵器の研究・開発にも着手しており、「究極の核廃絶
に向けての明確な誓約」をした2000年NPT再検討会議の合意事項に逆行する決
定を行っている。

以上です。EEE会議で核不拡散問題をめぐる議論が活発になることを歓迎します。

吉田康彦

*****************************************

<上記に対する金子のコメント>

目下時間的余裕がありませんので、とりあえずのコメントとして以下のとおり申し
述べます。

1.確かにパキスタンから北朝鮮にウラン濃縮技術が流れたという確たる証拠を
日本政府も小生自身も持っているわけではありませんが(米国CIAなどは持って
いる由)、確たる証拠がないからといって、これを否定することは出来ません。 
それはあたかもーー貴兄には酷な言い方かもしれませんがーー北朝鮮が日本
人を拉致したという確たる証拠がないから拉致があったとは断定できないと貴兄
ら一部の日本人が盛んに言っていたのに、昨年9月17日に金正日自身が小泉
首相にあっさり拉致を認めて謝罪したことを想起すれば、十分納得できるのでは
ないですか。

2.北朝鮮がウラン濃縮ルートを断念して再処理プルトニウム・ルート一本に絞っ
たという証拠もないはずです。中国も初期段階ではもっぱら濃縮ルートで核兵器
製造を行なったわけで、濃縮爆弾がプルトニウム爆弾よりもっとコストと時間がか
かっても、それ自体は、北朝鮮のような独裁国家にとっては大した問題ではない
はずです。彼らはどっちみち最初から採算性を度外視しているのだから。

3.パキスタンなどより、米ロ中など核兵器国こそ非難されるべきだというのは
正にそのとおりで、彼らの核軍縮義務(NPT第6条)不履行や「ダブルスタンダー
ド」を糾弾するのは結構ですが、日本の安全にとって現在一番問題なのは北朝
鮮の核兵器開発であることは明らかで、これを何とかして食い止めることが先決
です。核拡散防止もNPT体制強化も所詮国家安全保障のためであって、自国に
最も脅威となるものに最も神経質になるのは当たり前のことです。 少なくとも
予見し得る将来、米国の対日核攻撃を懸念する日本人はいないはずで、
米国の核と北朝鮮の核を同列に論ずるのはナンセンスというべきでしょう。

以上
金子熊夫