Subject: EEE会議(Re:原爆と原発の違い:学校教育)
Date: Mon, 12 May 2003 12:20:45 +0900
From: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>

各位殿

日本の学校教育で、「原爆と原発の違い」を何故徹底的に教えないのだろうかという
小生の疑問(5月11日 14:42)に対し、早速、現場で教育に携わっておられる村石幸
正先生(東京大学教育学部附属中等教育学校 理科=物理担当)から、次のような貴
重なコメントをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫

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EEE会議(Re:軍事評論家諸氏に物申す!)に関するメールにお答えします。

>また、ついでにこの機会に専門家の方々に是非お伺いしておきたいのは、原爆と原

>の構造的な違いが案外日本の学校教育でしっかり教えられておらず、そのため広島

>長崎=原爆=原発=危険・怖いという考えが子供たちは勿論教師の間にも極めて根

>く、これが国内の原子力反対意見の根底にあると思いますが、ならば何故そこを
もっ
>と徹底的に教育しないのか、また、どういう説明の仕方が最も分かりやすいか、に

>いても是非ご教示ください。


まず、原爆と原発の違いも含めて、日本の教育システムの中で、教
師には原子力に関する教育を受ける場面がなかったということがあ
げられると思います。つまり、小学校・中学校では学習指導要領に
取り上げられていないということです。
高等学校の物理選択者には、原子炉の基礎的な知識を獲得する機会
が「ないことはなかった」のですが、ほとんどの場合、教科書の最
後の方だということと、受験に出ないということで、授業では扱わ
れることはほとんどないのではないかと想像します。
そのような教育をうけてきた方達が教員になっているという実態が
あると思います。

つぎに、このことは多くの方があまり良くご存じないことが不思議
なのですが、日本の学習指導要領は実質的には法律と同じであり、
「そこにでていることを教育すること」が教員に求められているの
です。それ以外のことを授業で取りあげる授業をする教師は多くあ
りません。
このような部分で教師を非難しないでください。日本の教育システ
ムを問題にしていただきたいと思います(もっとも、昨年度からは
文部科学省もそのスタンスを少しずつ変えてきてはいますが)。


次に、現在、原発と原爆の違いも含めて、原子力に関する学習をす
る機会が多いのは、小学校・中学校・高等学校を含めて、総合的な
学習の時間だと思われます。
しかし、そこでは、原爆と原発の違いなどよりは、エネルギーに関
しての学習の一環として原子力発電もあるという程度の学習への取
り組みになっていきがちです。
その結果として、「原子力発電はいろいろな問題があります。そこ
で、最近はクリーンなエネルギー資源に期待が寄せられています」
という結論に達するということになります。


そもそも、原子力発電を推進しようと考えている教員に出会ったこ
とがありません(積極的・盲目的に反対するつもりはないという方
は多いですが)。ですから、金子先生の

>原爆と原発の構造的な違いが案外日本の学校教育でしっかり教え
>られておらず、そのため広島・長崎=原爆=原発=危険・怖いと
>いう考えが子供たちは勿論教師の間にも極めて根強く、これが国
>内の原子力反対意見の根底にあると思いますが、ならば何故そこ
>をもっと徹底的に教育しないのか

という疑問がそもそも教育現場の教員とすれ違っているようにも感
じます。

ある高校の化学の先生ですが、「原爆と原発は原理的には同じであ
る。そんな恐いものを作って動かしているなんて、とんでもない。
一日でも早く、廃止しなくてはならない」と本気でおっしゃってい
ました。

ところで、原子力実験セミナーという教員向けの啓蒙活動とも言え
る研修が毎年行われています。
が、そこに参加される先生方は、タイトルに原子力とついているだ
けで嫌なのだが、教育委員会から(参加者が集まらないので)教員
を派遣しろと指示が校長のところに来て、(教頭試験・指導主事試
験を受けようと思っており、校長には逆らえないので)行ってくれ
といわれて参加している、という先生が多いと感じています。

学校現場で「反原発以外の場面で」原子力に関ろうとしている教師
は奇異の目(右翼・保守・体制側 など)で見られているのです。

原子力・放射線という学習項目は、ある意味でイデオロギーを含ん
でいるということもあり、学校教育で、学習項目としてきちんと扱
われていないというのが現状だと思います。


  村石幸正
東京大学教育学部附属中等教育学校 理科(物理)