050103 Re:我が国の高速増殖炉開発に関する提言案[第4次案]に対するコメント)  天野牧男氏←豊田正敏氏 
 
標記メール(04/12/25)でご紹介した天野牧男氏の論文に関し、豊田正敏氏から次のようなコメントをいただ
きました。ご参考まで。なお、このコメントは天野氏に宛てられたものですが、どなたでもコメント(反論、
異論を含む)のある方はこの際積極的に開陳して下さい。「匿名希望」でもOKです。
--KK
 
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天野氏の高速増殖炉に関する論文「日本が存続していくために高速増殖炉をわが国の基幹技術にする意味」
を読んで、技術開発の現状認識にあまりにも誤りが多いと感じた。

ウラン資源は今世紀中は十分確保されており価格もそれほど上昇することないと考えられているのでその緊急
性は少ないが、将来に備えて、ウラン資源の利用効率を60~70%に高めることのできる高速増殖炉の開発は極めて
望ましいことであり、わが国も原子力開発の初期段階からその実用化に向けて取り組んできたところである。
然しながら、動燃が技術開発を開始してから既に40年が経っているにも拘わらず、原型炉「もんじゅ」がトラブル
により停止しており、また、JNCが進めている実用化に向けた技術開発もスピードがあまりにも遅く、実用化の
見通しは不透明のままである。

1. 経済性
現在、天野氏の言っておられるように、核燃料サイクル機構は、二次冷却系の熱交換器とポンプを一体化してプ
ラントのコンパクト化をはかることを考えているが、この程度では、二次冷却系も蒸気発生器も無く、一次冷却
配管も省略しているA-BWRに比べて系統の単純化及び物量の観点から考えて建設費は遥かに高くなるはずであ
り、系統単純化とプラントのコンパクト化についてさらなるブレイクスルーによる建設費低減を図る必要があ
るが、その見通しは今のところない。電力自由化を控えて、軽水炉と同等の経済性が得られる見通しがなけれ
ば、現実問題として実証炉以降には進めることが出来ないであろう。誰がそのような資金を出すとお考えで
しょうか。

2. 技術的問題
世界的にも最も技術開発が進んでいたフランスが実証炉「スーパーフェニックス」を経済的理由から中断してお
り、実質的にわが国独自で開発を進めなければならないこととなった。天野氏は、フランスが実証炉「スーパー
フェニックス」を中断した理由として「1997年社会党のリオネル・ジョスパンが政権をとるために緑の党を引
き入れることが必須となり、その条件としてスーパーフェニックスの解体を認めざるをえなかった」と言って
おられるが、同炉は、フランスだけでなく、ドイツ及びイタリヤも参加した国際プロジェクトであって、フランス
の一国の大臣の反対という理由だけで、中断できるとは考えられない。勿論、それも理由の一つであるかもしれ
ないが、次のようなもっと重要な理由があると聞いている。

(1) 炉心反応度異常低下現象と正の反応度係数
   「フェニックス」では、何度か炉心反応度異常低下現象を経験しているが、その原因は今なお解明されて
いない。
(2) ナトリウム火災の潜在的危険性
 フランスでは、二次冷却配管のギロチン破断の解析を要求されている。わが国でもギロチン破断まで考える
必要はないにしても、今回の計測配管より大きな破断口による解析を行うべきであり、又ドレーン出来ないと
か、ドレーンが遅れる場合も考慮する必要があると考える。
(3) トラブル発生時の機器点検
トラブル発生時に機器の状況を目視出来ないため、その都度、燃料及びナトリウムを原子炉から取り出して点検
しなければならないとすればかなり停止期間が延び、費用もかかる。JNCは点検する方法を開発中といってい
るが、開発の現状と可能性について聞きたい。
(4) 燃料交換
 「スーパーフェニックス」中断の理由として、燃料交換機の複雑さが挙げられているがその実態はどうか。
(5)トラブル発生時の対応
「もんじゅ」で経験したようなトラブルは今後何回か起こると考えられる。そのたびに今回のように長時間停
止しないような対策を考慮すべきである。
なお、ナトリウムの化学的活性、正の反応度係数、軽水炉と大幅に異なる原子炉特性などを考えると、現在、
プルサーマルさえ、なかなか一般国民の理解を得るのに苦労している現状を考えると立地が円滑に進むかどう
か懸念される。天野氏は、「最も可能性が高いナトリウム冷却炉に絞って開発を進め、実証炉の建設に邁進し
てほしいと願っている」と言っておられるが、どのような技術的、経済的根拠によるものかお伺いしたい。ナ
トリウムの化学的活性の問題は、技術的には十分対策が取れると考えるが、一般国民の安心が得られ、立地が
円滑に進むこととは別問題である。

現在のような技術開発の進め方では実用化の見通しを得ることは難しく、JNCの組織、陣容の見直しを含む抜
本的改革を行って上で、期限を切って、全力でFBRの実用化のための技術開発に取り組むべきである。その結
果、実用化の見通しが得られなかった場合には、中断し、第四世代炉などの中から有望と考えられる原子炉型式
に切り替えるべきである。
その際、高速増殖炉の実用化のためには、原子炉だけでなく、再処理費の大幅な低減が必要であるが、その見
通しも不透明であるので、増殖炉に拘ることなく、燃料利用効率の良い転換炉も検討の対象にすべきである。

3. 他の次世代原子炉との比較検討
高速増殖炉の実証炉の建設着手に先立って、現在進められている「実用化戦略調査研究」の結論を参考に、他
の次世代原子炉との比較検討を徹底的に行うべきである。「実用化戦略調査研究」の中間報告によれば、ナト
リウム冷却高速増殖炉が最も有利であり、軽水炉と経済的に比肩し得るとの結論のようであるが、JNCが中心
となって検討を進めておれば、このような結論になるのは当然であり、その検討も希望的、楽観的過ぎる。ま
た、他の次世代原子炉との比較も平等に検討されているとは思えない。例えば、超臨界圧水冷却高速炉は
A-BWRよりもプラントが単純でコンパクトであり、建設費も安くなる可能性が最も高い原子炉であり、その必
要な技術開発は高温高圧材料のみである。火力でも超臨界圧の運転実績はあるにも拘わらず、検討の対象から
除外している。ナトリウム冷却高速増殖炉の方が、経済性も含め今後開発すべき項目が遥かに多いはずであ
る。また、トリウム溶融塩炉及び高温ガス炉も検討対象から除外している。これらの原子炉型式について、そ
れぞれの原子炉の技術開発に携わっておられる方が検討に参加して平等に議論した上で結論を纏めるべきであ
る。

原子炉型式を比較検討するにあたっては、経済性及び技術開発の難易度のほかに、社会的受容性及び核拡散抵
抗性が重要な検討項目と考える。
(1) 社会的受容性
ナトリウム冷却高速増殖炉は、大量のプルトニウムを使用すること、化学的に活性なナトリウムを使用するこ
と、正の反応度係数であることなどにより、社会的受容性か低く、国民、特に地元住民の理解を得て立地を進
めることが難しい。
(2) 核拡散抵抗性
強力な国際テロ組織の出現と核兵器開発の疑惑をもたれている国が多数ある現状から、Puの拡散が世界的に広
がることは避けるべきであり、このためには、国際的に核拡散抵抗性の高い原子炉型式の採用について真剣に
検討することが肝要である。ナトリウム冷却高速増殖炉は、低除染のTRUリサイクルシステムを採用するとし
ても、ブランケットにPu-239の含有量の高いPuが蓄積されるので、核拡散抵抗性が高いとはいえない。
高速増殖炉の利点は、増殖比が高く燃料の利用効率のよい点であるが、経済性の見通しが何時まで経っても得
られなければ、社会的受容性及び核拡散抵抗性の点からは必ずしも望ましい原子炉とはいえないので、他の原
子炉型式に切り替えることを検討すべきである。

以上の点について、天野氏の見解を聞きたい。また、金子氏には、提言を纏めるにあたっては、高速増殖炉が
何故計画通り進まないかその原因を究明し、その解決策について重点的に提言すべきであり、実用化の見通し
がないまま、実証炉の提言をしても原子力委員会も経済産業省の役人も取り上げようとはせず意味がない点を
十分配慮されたい。


----- Original Message -----
From: "Kumao KANEKO" <
kkaneko@eeecom.jp>
To: <Undisclosed-Recipient:;>
Sent: Saturday, December 25, 2004 4:43 PM
Subject: EEE会議(Re:我が国の高速増殖炉開発に関する提言案[第4次案]に対するコメント) 
     天野牧男氏の意見


> 皆様
>
> 当EEE会議では目下一部の有志会員により「我が国の高速増殖炉開発に関する提言案」
> を取り纏め中で、先日その第4次案を皆様にお届けしましたが、この問題について特別会員
> の天野牧男氏が「日本が存続していくために---高速増殖炉を我が国の基幹技術にする意味」
> と題するきわめて建設的な意見をペーパーに纏められました。月刊「エネルギー」誌の次号に
> 掲載されるそうですが、上記提言案の検討にも資すると思いますので、同氏のご了解を得て
> 皆様にご披露させていただきます(添付ファイル)。長文につき、そのごく一部を以下に抜粋
> しておきます。ご参考まで。
> --KK
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> 招来を担うのは高速増殖炉