050105 FBRの経済性論議についての所感:  山崎吉秀氏のコメント


標記のテーマについて特別会員の山崎 吉秀氏(電源開発株式会社常任顧問:元副社長)から次のような「所感」を送っていただきました。ご参考まで。
--KK

************************************************


               「FBRの経済性論議について」    
                                             山ア 吉秀


 経済性についての私の所感を述べさせて下さい。新しい原子力技術開発にあたって経済性論議が活発に行われること自体、電気事業に身を置いてきた者としても大変結構なことと思います。ただその経済性という感覚、歴史的にどのような経緯をたどってきたか、その背景について少し触れておく必要があると思います。



 日本の原子力技術開発の歴史を振り返って見ると、メーカーさんによる軽水炉における海外導入技術をベースとしての、革新・改良技術や、PNCさんが手がけてきた日本独自の高速炉技術・ウラン濃縮技術・プルトニウム技術・再処理技術等々、技術そのものには極めて優れたものが多々あることは事実でしょう。ただ外国の技術開発とで根本的に異なるところは経済性という点にあると思います。大口の顧客である電気事業者としては、ことあるごとにメーカーさんやPNCさんに経済性を求めてきたところでありますが、やはり総括原価方式という電気事業の特性に甘んじて(分かり易く短絡的に表現しますが)、メーカーさんには安全性や信頼性に優れた技術(商品)であれば、価格の面では多少不満でも適当なところで手を打ち、PNCさんにはその技術開発の成果を将来の企業活動に使用させてもらうという立場から、経済性にも重点を置いてと主張してきたとはいえ、とことんまで追求してこなかったのが現実でありましょう。そうした国内市場ですから、多少価格が高くても商売は成り立ってきた訳であります。



 一方、外国はご高承の通り、原子力であろうとなかろうと、産業活動は以前から極めて厳しい競争環境の中にあって、低廉で優れた技術(商品)のみが生き延びるという世界。原子力においても技術開発の段階からその意識がないと生存競争に勝てない、即ち商売にならない。その大きな差が勝れた商品をしかも安く供給できる構造に繋がっている(このフレーズには異論があるかもしれませんが例えばウラン濃縮を見るとよくわかる)。今や、日本の原子力産業界の大口需要家である電気事業も世界総市場経済化の中で自由化がどんどん進み、ユーザーもメーカーも外国並のコスト意識に立たざるを得ないところにきております。従来から経済性意識は強かったというものの、一段と強い意識が求められることになってきております。経済性、経済性と強く主張されるのは、このあたりに根があるわけであります。ただだからといって目先のコストダウンのみにとらわれすぎて安全性や信頼性を落とすことになってはならないのは当然であります。(このことは現在の電力経営に当たっておられる人達が強く認識してくださっていると信じておりますし、最近発生する原子力トラブルが経済性優先の結果ではとの見方も出てきておりますが、私は違うと信じてもおります。このあたりの論議は結構根が深いのですが、ここでは本論ではないので省略しますが、経済性と安全性、信頼性の優先度にとり違いのないよう、我々OBも声を出しつづける必要があると思います)



 さて、具体的にFBR開発の経済性の問題であります。もんじゅを技術的に前進させることは言うまでもありませんが、その延長線上に実用炉の経済性が読み取れるかといえば“否”ということは誰が見ても明白であります。ためにJNCさんが、先程来の背景も認識されて、経済性を極めて重視され、革新的技術に挑戦されていることは誠に頼もしい限りであります。ただ直感的にも革新的すぎて本当にゆけるかというところも見受けられます。



 例えば、コンパクト過ぎて、流動状況が過酷になりすぎないか、メンテナンス上本当にフィージブルかといったところが。いずれにしても革新技術をステップバイステップ着実に検証していって欲しいと思います。そしてその経済性はいきなり現在の最新の軽水炉並の20〜25万円/KWの建設費を狙うというのはどうか。今の軽水炉がここまで来るのにどれだけ経験、苦労を重ねてきたことか。当面の目標は電気事業者が商売になる発電原価レベルを目指すことで良いのでは。具体的には石炭や天然ガスによるレベルか、むしろそれより高くても水力や石油より安い程度でも。また、導入過程では同時に多数機は望めないし、特注品に近い状態ではこの程度、量産に入ってこの程度といった目標の立て方も分かり易いのではないかと思う。



 いずれにしても経済性の目標は、企業活動ベース、即ち商売ベースにのるレベルでなければならない。エネルギーセキュリティー上必須だからということだけでは、これからの企業は決して手を挙げてくれないと心得てゆくべきと思う。あるいはセキュリティー上、国が手を差し伸べてくれるであろうとの条件を加えると、新技術開発の意欲が損なわれることにもなりかねないし。



 最後に、ご高承の通り経済性というものは極めて相対的であります。これからの将来を数十年スパンで展望すると、膨大な人口を抱える中国・インド等発展途上国の経済成長に伴うエネルギー消費の増加は凄まじいものと予想され、これらの国が化石燃料にそのエネルギー源の多くを頼ることを思えば化石燃料の高騰は必至でありますし、現在すでにその徴候が出ていると見ることもできます。高速炉開発上の経済性の目標も現在の化石燃料レベルを意識してゆけば充分であると考えるし、意外に早く高速炉の出番を求められることになると思う。



 JNCさんには革新技術の検証をステップバイステップしかし着実に前に進めて欲しいし、それにしてもんじゅを一刻も早く立ち上げて欲しいものであります。



                                        以上