050106 「京都議定書への失われた視点:京都での約束」 SEEN論文紹介

 
時々ご紹介している環境エネルギー政策研究所(ISEP)(所長は飯田哲也氏=反原子力
論者)のメールマガジン「Sustainable Energy and Environmental News (SEEN)」の
最新号(No.12; 05/01/06)に載っていた記事の一部です。ご参考まで。 
詳細は次のサイトで。
 http://www.isep.or.jp/sien.html
--KK
 
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京都での約束1:京都議定書への失われた視点
 
    (環境ジャーナリスト/SEEN編集担当 本橋恵一)

 京都議定書が2月16日に発効する。昨年秋にロシアが批准してから、ちょう
ど90日後にあたる日である。筆者としては、心から祝福したい。
 同時に、ロシア批准に際して、日本は決定的な役割を何一つ果たしていない
ことにも注意したい。というのも、日本は結局のところ、この10年間、地球温
暖化問題をめぐって、米国と欧州のどちらにつくのか、その議論を繰り返して
きただけなのだから。そのことは、京都議定書が持っている画期的で本質的な
意義に対して。目を閉じてきたということでもある。言い方を変えれば、日本
は地球温暖化対策をゼロサムゲームとしてしか見ていないということだ。
 京都議定書に織り込まれた、画期的で本質的な意義というのは、環境問題を
通じて、ロシア・東欧や途上国への投資に正当性を持たせたことと、市場を利
用して環境保全のコストを負担する仕組みをまがりなりにも作ったということ
だと考えている。

 2〜3年前、あるロシアの政府関係者と話していて驚いたのは、ロシア国内
でも「京都議定書は不平等条約だ」という議論があるということだった。ロシ
アは現在、90年のCO2排出量に対しておよそ38%も減らしているのに、
第一目標期間の削減目標は90年比±0%だ。にもかかわらず、将来の経済発
展を制約するものとして、すでに発展した日本や米国、欧州よりも不平等だと
いうのだ。
 このことに加えて、目の前に大量にある余剰のCO2排出権は高く売れそう
にない。2〜3年前に予想された市場価格でいけば、日本が買うのはせいぜい
数億ドル。決して魅力ある輸出商品ではない。先のロシア政府関係者の話では、
「ロシア人は誰も京都議定書に興味を持っていない」ということだった。
 にもかかわらず、ロシアが京都議定書を批准した理由は、欧州との間でロシ
アのWTO加盟問題をクリアしたからだった。

 京都議定書でロシアの削減目標をあえて高くした背景には、排出権取引を通
じて、日本や米国からロシアへの資金の移転がなされるという前提があった。
しかし、このことが機能しなくなってしまったため、ロシアが京都議定書に興
味を無くすのは当然のことだったのだろう。今後もロシアが排出権を積極的に
売っていくとは思えない。むしろ、京都議定書の共同実施を通じて、いかに国
内に投資を呼びこんでいくかがテーマとなってくるはずだ。
 そしておそらく、他の東欧諸国にとっても、同じことがいえる。さらに、排
出枠を持たない途上国にとっては、共同実施ではなく、CDM(クリーン開発
メカニズム)を通じた先進国からの投資への期待は大きい。それは、京都議定
書を採択したときに、途上国に対して約束されたものである。途上国にとって
は、温暖化対応への途上国の援助とともに、気候変動枠組条約の締約国会議(C
OP)における重要なテーマなのだ。

 視線を中国に転じてみよう。
 日本でよくある議論の一つが、「米国も中国も参加していない京都議定書に
は意義も効果もない」というものだ。だが、米国はともかくとして、中国は京
都議定書に批准している途上国である。確かにCO2排出量は大きい。しかし、
日本の10倍もの人口を持つ国としては、決して大きいとはいえない。京都会
議(COP3)直前、日本国内で目標設定についてなされた議論の一つが「国
別総量規制か、一人あたりの規制か」というものだった。この議論でいけば、
中国が相応の排出枠を持つのは当然ということになる。

 そもそも、途上国にとって資金の移転を正当化する理由の一つが、まだ国際
的にきちんと分配されていないCO2排出枠だ。仮に全世界で一人あたりの排
出枠が同じになるように分配したとしよう。日本は6%削減どころか、60%
以上の削減目標がかけられることになる。途上国では逆に排出枠を売ることが
できる。当然、中国はCO2の大輸出国になれる。こうしたCO2排出枠とい
う資源が京都議定書の削減目標としてすでに先進国に優先的に分配されている
のであれば、そもそも排出する機会のない途上国には、それ相応の資金の移転
があってもいいはずである。

 途中の議論を次回以降に回して、結論を急ぐ。
 グローバル化した経済と環境問題は、京都議定書によってその一部が結び付
けられた。先進国から途上国に移転する資金の一部は、CDMクレジットとし
て市場に流通する。ロシア・東欧における共同実施のクレジットも同様だ。当
然、商品としてそのクレジットの質も問われるだろうし、そうあるべきだろう。
いかに有意義で持続可能な開発を行い、CO2を削減したかが問われるべきだ。
 日本は気候変動問題をめぐるゼロサムゲームではなく、途上国との間でWi
n/Winアプローチとなる計画を考える時期にきている。そして、多くの途
上国を付属書?国(削減目標を持った国)に引き込むことで、より実りのある
議定書にしていく、そういうゲームを行なう。

 もっとも、こうしたことを日本政府に期待しても無駄かもしれない。だが、
グローバル化した世界では、政府に役割はむしろ限定的になっている。だとす
れば、民間、一般の企業自身が、京都メカニズムのプレーヤーの一人として、
ゲームを行っていけばいいということだ。