05014 Re:「わが国の高速増殖炉開発に関する提言案」(第4次案)について)  天野牧男氏⇔豊田正敏氏: 天野氏の回答(第3回)

皆様

標記提言案に関連して、天野牧男氏と豊田正敏氏の間で既に2ラウンドにわたり論争が行なわれておりますが、豊田氏の前回のコメント(01/10)に対し今朝天野氏から次のような再反論をいただきました。両氏間の議論は、標記提言の基本理念とも絡むものであり、極めて重要な内容と判断され、かつまた、天野氏の文章は素人(小生を含む)にも比較的分かり易く書かれていると思いますので、若干長文ですが、同氏のご了解を得て、全会員各位に配信させていただきます。ご参考まで。
--KK

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豊田正敏様

これで3回目のコメントを頂きました。ご返事も3回目になります。 今回ははっきりコメントをするから、解答をするようにということですので、ご返事いたします。ただこれまでの議論は、私の月刊エネルギー1月号誌に掲載された、『日本が存続していくために 高速増殖炉をわが国の基幹技術にする意味』という小論をお読みになり、あまりのも誤りが多いとご指摘になり、それらについてコメントされましたことが始まりでありますが、そちらにつきましては、かなり話ははっきりいたしたように思います。今回のお尋ねはこの小論の主題からはずれているように思われますが、ご返事する前に、小論の件の確認をさせていただきます。

1 私の小論

私の小論で示したものは、新しいアジアの産業体制が変わる中で、資源のない日本は新技術の開発が欠かせないが、それが出来るための国内の理解の必要なこと。21世紀の世界はエネルギー問題が重要課題であるが、それにはウラン資源を徹底して利用できる高速増殖炉の開発が必要であり、そのためにはターゲットを絞って、ナトリウム冷却型高速増殖炉の開発に重点をおくこと、またその推進者は国であるということありました。
この中の21世紀の日本にとって、科学技術の開発が大切であることについては2回目のコメントで賛成していただきました。
ウラン資源に対しては21世紀中は、それほど逼迫することはないとのご意見でしたが、「資源の乏しいわが国としては、・・・・・・高速増殖炉の技術開発を進めるべきであると考えている」とのご意見を頂きました。ただ今の推進のあり方の問題点のご指摘と、見通しの得られなかった時の処置について触れられていましたが、これは研究開発で最も大切なことで、当初は期待されたものでも、やっていて駄目だとわかったものを何時までも続けていくことは好ましいことではありません。この点はお説の通りで最初から異論はありません。
ナトリウム冷却型高速増殖炉のコストが、軽水炉に比較して高いか安いかですが、ナトリウム冷却型高速増殖炉の方は、今新しい形式の物の開発を始めたばかりで、見通しは良いと思いますが、もう少し開発を進めてみる必要があります。抽象的に言葉を投げ合っているだけでは、まとまりません。これには時間を頂いてやってみる必要があります。勿論うまく行きそうにもないと分かったら、早期に転換しなければならないことは、先ほどの話と同様です。
スーパーフェニックスを廃炉にした理由が、政治的なものでなく、技術的なものだとご指摘がありました。私は本当の真実は分かりませんが、フランスのComby氏(原子力を支持する環境主義者連盟代表)も廃炉の理由は技術的よりも政治的なものだと言われましたし、他の資料などを見ましても、そのように書かれてありました。そうではないという理由のお示しはありませんので、私の聞いた話を否定する事は考えておりません。ただここで私が言いたかったのは、むしろ別のことで、他の国が開発をやめてしまった今が、わが国で高速増殖炉を開発する時期だということであります。これにはご異論はないと思います。
ナトリウム冷却型高速増殖炉をまず取り上げる事について、ご異論がありましたが、一本に絞る事、当面この形式の炉で進めることについてはご賛同いただきました。期限を切るなどの配慮は、先のうまくいきそうもないと分かった時は、すぐ転換すべきだということと同じ発想だと思います。またこれは当然であります。
こういったことで、誤りが多いとご指摘がありましたが、私の小論で主張しましたことはすべてご理解いただいており、頂いたコメントからは私の先の小論を変更する必然性を発見することはありませんでした。したがって、この小論につきましてはその意見を変える事はいたしません。

2 ナトリウム冷却型高速増殖炉の優位性

ここで今回のお尋ねの内容に戻りますが、貴コメント『2 21世紀のエネルギー資源』の初めのところで言っておられることは、当面は高速増殖炉をするにしても、何故ナトリウム冷却がいいと主張するのかの質問と理解いたします。この点での私の意見はそれほど複雑なものではありません。今検討されている炉型のどれを見ても、優劣を断定するだけの、決定的な評価が具体的に出来ているものはないようですが、原子炉の用途はいろいろあっても、世界的に見て最も経験の多いのはナトリウム冷却型高速増殖炉であります。そのいずれをとっても、何らかの技術的なトラブルを経験しておりますが、私の知る限り、だからナトリウム冷却型高速増殖炉が決定的に駄目だという報告は見ておりません。
更に最近発表されたサイクル機構の『サイクル機構技報 No24 別冊』よりつめて比較した資料は知りません。この技報の内容から読み取れるのはナトリウム冷却型高速増殖炉の優位性でありますので、まず1種を取り上げる場合、このタイプを最優先にすべきだと判断しております。
私は今の段階で判断するには、これで充分だと考えておりますが、若しそうでないと言われるのでしたら、ナトリウム冷却型高速増殖炉を最優先にすべきでないという、技術的、経済的根拠をご教示いただけないでしょうか。

3 総合エネルギー諮問会議

「現在のような技術開発の進め方では実用化の見通しをうることは難しい」という話は、国の、あるいは政府のエネルギー問題に対する対応の中での技術開発について述べたものであり、ナトリウム冷却型高速増殖炉の優劣とは関係のない話であります。ただ今回、先の項の中で「そのほかの仰っていることは問題の本質と関係ない」と言っておられますことが、私の小論の最後に申したところで、一番重要なことだと考えております。小論ではページ数に限りがあったことと、このことは別に論じたいと思ったので簡単に書きましたが、私の論点は、21世紀において国がエネルギーをどう考えるかというところから始まります。くどくは申しませんが、アジアの産業体制が急激に変わっていきますし、わが国の発展を支えてくれた石油の埋蔵量に赤信号が出ていますが、エネルギーの対外依存率には全く改善が見られません。また環境問題が重要なテーマになっていますが、この問題を本格的に解決する手段としては、原子力発電しかないにもかかわらず、どうも動きが積極的ではないように見受けられます。国、政府や議会の対応に問題ありと思わざるをえません。このような国の体制の中から出てくる技術開発の方針では充分なものとは考えられず、簡単に実用化などの見通しは得られそうもないということであります。
日本の政府は今まで省庁中心でやってきました。高度成長の時期にはこれでうまく機能して、今日のわが国の経済発展を支えてきました。しかし高度成長から低迷期に移り、それぞれの果たすべき対応が非常に複雑になってきましたし、他の省庁間の連携がきわめて重要になってまいりました。実務的業務は別として、関連する省庁間の調整が必要でありますし、国際会議なども、日本の省庁の区切りでテーマを切ってくれる訳ではありません。確か少し前ですが、中川経済産業大臣が、国際会議に日本だけ大勢大臣が出席すると嘆いていましたが、ここにも同様な問題が端的に出てきています。
私が小泉内閣を評価していますのは,こういった変化に本気で対応した、初めての内閣であるからです。経済関係では、経済財政諮問会議があって、竹中平蔵氏が担当大臣になってこの運営をしています。小泉内閣が発足した時には、この国の経済見通しは相当に暗いものでした。大学の一教授であった竹中氏が抜擢されてこの職につきました。彼は骨太の方針というのを作って、何を何時やるかを明確に示しながら、外部が何を言ってもその予定を完遂して行きました。自民党などからの激しいバッシングがあった中で小泉首相はそれに全く動ぜずかばい続けました。それによって竹中大臣は自分の考えるとおり進めることが出来ました。その結果は今はっきり出てきて、竹中大臣を攻撃する声は殆ど聞かれなくなりました。
内閣府には総合科学技術会議がありますが、科学技術の振興などが目的のようで、エネルギーを論議する場ではありません。原子力委員会と原子力安全委員会とが所属していますが、ここは原子力だけで、総合的にエネルギーに関する問題を討議する場がありません。私が願っているのは、経済財政諮問会議のエネルギー版をつくり、総合的な骨太の方針を作り、示し、実行するためのプロモーションをしてほしいということです。それには組織だけではなく、識見と実行力と説得力のあるトップが必要です。
シベリアの石油パイプラインの問題や、イランの石油開発をどうするかや、樺太沖ガス油田の問題もあります。わが国の京都会議の約束をどう達成するか、CO2の発生を削減する対策も総合的な見地で検討することが大切です。当然ながら、高速増殖炉のテーマも論議していただく必要があります。総合的エネルギー諮問会議が将来の見通しを立て、それぞれの問題を処理する方策を検討し、明確に示して欲しいものです。世界情勢、エネルギー情勢などを的確に把握するためには、その下部に優れたシンクタンクを持つ必要があるでしょう。各省庁はここでまとめられたことの実行部隊になります。
こういった形のものが出来ればサイクル機構なども、動き易くなると思います。
今以上のようなことを申し上げたのは、変化する時代に対応できる国になることが必要だからであります。
ここで少し具体的な話に入りますが、21世紀において、クリーンで長期的に安定したエネルギーを得ようとした時、高速増殖炉が殆ど唯一の解決方策だと考えますが、これを必要とするのは誰かという問題であります。今高速増殖炉が将来必要だから自社で開発しようとしているところは、私企業では電力会社も含めどこにもないと思います。これは個々の企業で対処できるものではなくなってきています。この原子炉が必要なのは日本という国なのです。この開発を今初めておかないと、つらい思いをするのは国であり,国民です。国は、特に日本というエネルギー資源の最も乏しい国は,この技術の獲得に最大限の努力を払う必要があります。それはこの国のためであり、それには今言ったような国の体制が必要です。
この点に関する私の意見は、おおよそこのようなところにあります。

4 もんじゅの事故と開発協力のあり方

二つ目のご質問『もんじゅの事故と開発協力のあり方』にお答えするには、少し社会認識についてお話しする必要がありそうで、今一緒に申し上げると少し量が多くなりそうです。この項については、追っかけて申し上げることにさせていただきます。ご了承下さい。

5 過去の問題点の取り込み

サイクル機構のあり方について、具体的なご提案を提供しているというお話を伺いましたが、そのことは、非常に結構なことだと存じます。
ただここで「新幹線があのように、世界のトップレベルになったのに比べて、何故、動燃が技術開発を手がけて既に40年経つにも拘わらず、実用化のメドすら経たない原因を究明し改善策を考えるべきである」と述べられております。このことはどこかの会議の席で同様なご発言を伺いました。その時そのご発言に、どなたも意見をお出しになりませんでした。今回は私に対してご発言を頂きましたので、申し上げますが、どうして新幹線と高速増殖炉とが対等に比較されるのでしょうか。これは知恵のある政治家がよく使うレトリックでありますが、意図的に、自分の意見に引きずり込むための手法であります。
「君、新幹線も高速増殖炉も同じ昭和30年代に開発をスタートしたね。新幹線はあんなにやっているのになんだ、高速増殖炉は」
という話であります。いつの間にか、新幹線と高速増殖炉とが同じ土俵に乗ってしまっています。
確かに新幹線は素晴しい設備であります。昭和30年代の後半、高度成長時代に突入する日本にとってまさに必要なものでありました。その限りでは原子力発電と似た立場にあったことは事実でありますが、原子力発電ならまだ軽水炉と比べるのが妥当ではないでしょうか。軽水炉による原子力発電は、昭和30年代にゼロから始まり、昭和50年代にはわが国の30%から、時期によっては40%の発電をまかなうまでに発展しました。決して負けてはおりません。
新幹線の一番のポイントは、各車両にモーターを搭載したことで、機関車による牽引をやめたことですが、これはまさに電車の発想です。電車は速さこそ違いますが、既に長い歴史があります。勿論スピードを高めるにあたって、振動問題とか、解決しなければならない技術的課題はたくさんあってその開発努力には敬服しておりますが、それまでに相当な経験もありました。更に新幹線には強い社会的ニーズがありました。これらが開発意欲を高めたことも否めません。
しかし同じ40年間、動燃は高速増殖炉の開発を手がけてきたのに、実用化のめども立っていない。その原因を究明すべきであると述べておられます。勿論動燃にも問題がなかったわけではありませんから、反省し、改善策を絶えず考えて行く必要性はありますが、40年かかってやっとここまで来たところに、特有の問題、困難さがあったことも事実であります。高速増殖炉は21世紀に必要な技術ですし、これははるかに総合的であり、国際的な関連の深いものであって、新幹線とは相当に内容の違う話であります。
私が日本での開発計画で最も感銘を受けたのは、このナトリウム冷却型高速増殖炉のものでした。今その時期などをはっきり記憶していませんが、当初から実験炉常陽、原型炉もんじゅと進み、その後実証炉で確認してから、商業炉に入るというものです。あるいは海外の計画などを参考にした面もあるかもしれませんが、このプロジェクトの困難さや、時間を掛けた着実な開発の必要性を認識した着想は見事なものであります。
またこれだけのステップをおくのは、開発にはいろいろな問題が発生することを予想したからでありましょう。問題が発生する前にこれだけの予見をし、長期の開発計画をたてられたことに、日本にもこれだけの人物がいたのだと、深い敬意を表するものであります。

スーパーフェニックスの技術問題について、サイクル機構の説明を丸呑みするなとありますが、過去の内外のナトリウム冷却型高速増殖炉の経験を充分検討して、今後の設計に織り込むのは、サイクル機構の仕事であります。このことの必要性については、サイクル機構の関係の方とは議論しておりますし、関係者の方々も充分念頭においておられる事項です。その設計に全く関与していない私どもに、『自ら確かめないと、いやしくとも技術者として恥ずべき行為ではないか』と言われますが、別に恥ずかしいと思っておりません。これも新幹線と高速増殖炉とのようなお話になるのでしょうか。こういった話をすれ違わないものにするのは、私の手には余る問題としか思えなくなってきました。

先ほど後回しにしていただきたいと申し上げた点につきましては、おってご返事申し上げます。 以上