050118 Re:「わが国の高速増殖炉開発に関する提言案」天野牧男氏⇔豊田正敏氏: 天野氏の回答(第3回)への豊田氏の反論

皆様
 
標記テーマに関する豊田正敏氏の反論(01/16)に対して、天野牧男氏から次のような
メール(豊田氏あて)が届きました。ご参考まで。
これにて両氏間の今回の論争は終わりということのようです。この機会に両氏の率直
かつ真摯な論議に対し改めて敬意を表します。
--KK
 
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豊田正敏様

3回目の回答の一部を後でと申しましたもの、お届けします。丁度これをお送りし
ようとしましたら、あなた様から私とのやり取りはこれでやめたいとのメールを受け
ました。私としましても丁度申し上げたいことは申し上げたところでありますので、
これで論議は終了したいと思います。意見は幾つかの点で違いましたが、考え
る機会を頂きましたこと有難うございました。


2 もんじゅの事故と開発協力のあり方

2.1 もんじゅの事故の責任

もんじゅが止まったことによるはるかに大きい国家責任と国民に不信感を与えたこと
に対する責任を感じているかとのお尋ねですが、直接間接にかかわらず事件に関係し
たもので責任を感じていない人などいるとは思えません。問題は事故が発生した後、
本当の意味での責任をどう取るかということだと思います。
勿論事故を起こし、何らかの物的、また場合によると、人的損害を与えているのです
から、それへの対処は当然必要ですが、事故の責任を取るということは、まずその事
故の内容を正確にとらまえ、原因を調査することです。これは徹底的に行う必要があ
りますし、何よりも隠すことなくオープンにすることです。これはあまり容易ではあ
りません。事故の当事者としては、どうしても事故のシビアーさを小さいものとした
いという気持ちが働きますから、隠したくなるのは人情です。しかしこの人情に耐え
て、正確な情報を伝えることが責任を取るということです。そしてその原因の調査を
行います。これは当事者は当然行わねばならないことですが、客観的な見方、また広
範な見解を導入するためにも、第三者による検討委員会などの設置が必要です。
原因の解明が済んで新しい知見が得られたら、それを次の設計のクライテリアとして
権威のあるものにすることです。
このことを、畑村洋太郎博士の『失敗学のすすめ』の中の「失敗は知識化しなければ
伝わらない」という項で説明されています。「一つの失敗から教訓を学び、これを未
来の失敗防止に生かしたり、創造の種にしたりするには、一つには失敗を事象から総
括まで脈絡をつけて記述すること、もう一つは失敗を「知識化」する作業が必要で
す。知識化とは。起こってしまった失敗を、自分および他人が将来使える知識にまと
めることで、失敗情報の正しい伝達には不可欠なことがらです。]
1952年イギリスの世界初の商業用ジェット機のコメットが運行を始めましたが、
2年目に2機が相次いで墜落しました。原因はキャビンの窓枠コーナー部の低サ
イクル疲労であったことが判明しました。この理論は現在原子炉圧力容器などの解析
に用いられている、非常に重要なものであります。ジェット機の墜落で多くの人命を
失いましたが、得られた技術的な成果は大きいものでした。
事故の、あるいは事故に対する対応の悪さなど問題は色々ありますが、それらに対し
て責任を取る方法は、今述べたようなことをそれぞれにきちんとした対応を行うこと
だと考えています。いかに辛くても、真実を隠すことなく公表して事実を明らかに
し、そこから新しい技術の展開や、進歩に役立たせることが、責任を取るということ
でありますし、誤解を恐れないで敢えて言えばこれに尽きると考えています。またこ
の国にとって最も大切な技術の開発進歩を進めるためには、国のすべての部門の方々
が、この認識を持つことが必要だと考えています。

2.2 開発協力のあり方

ここでご指摘いただいているのは、「原子炉メーカーが、研究開発に参画しろと
いっているのではなく、国による技術開発が進んだ段階で、自ら、設計、製作する能
力を持ちリスクを採って一括発注できるような準備をしておく必要があるといってい
るのである。」とのことで、特に申し上げることもなさそうです。大体企業は自社が
存続し、利益を出し、発展することを意図して経営するものですから、研究開発もそ
の一環として行われるものでありましょう。
しかしその国の主要な企業などが、国の意図する方向を考えて、それに極力協力する
ことは、全体としても利益の出ることであり、心得なければならいことと思い
ます。
                                      
        以上