050120 米テロ対策専門家が見た日本の「備え」は不十分?

 
下記の記事(01/12 日本経済新聞掲載)は、昨年12月半ば開催のシンポジウムに関するもので、若干旧聞ですが、ご参考まで。(情報提供:林 勉氏)
--KK
 
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◆米テロ対策専門家が見た日本の「備え」
 
日本経済新聞社などが主催したシンポジウム(2004年12月16日、東京・大手町)にパネリストとして参加したリチャード・ファルケンラス氏に聞く:
 
 2001年9月11日の米同時テロから早くも3年余の歳月が過ぎ去り、多くの人の脳裏からもあの忌まわしい記憶が薄れ始めているように見える。だが、弾道ミサイル技術や放射性物質が世界規模で拡散を続ける現状を踏まえれば、実際にはあの凄惨なテロと同様の、あるいはそれ以上の規模のテロが起こる可能性は水面下で着実に高まっているとも言える。
 このほど初来日した米ブルッキングス研究所の客員研究員、リチャード・ファルケンラス氏は現職の米ホワイトハウス高官として同時テロを体験して以来、「ウエスト・ウィング」と呼ばれるホワイトハウスの一角の地下でひたすらテロ対策に頭を悩ませてきた。「水と安全はタダ」と信じてきた日本は米同時テロの教訓にどれほど学んだのだろうか?米国の対テロの第一人者に日本のテロ対策に関する印象を聞いてみた。

<生物兵器への対策が急務>
 
 ――今回、初めて来日して、日本のテロへの対応をどう見たか?
 「正直言って、大量破壊兵器(WMD)に対する対応はあまり目につかなかった。日本の主要なビルにおけるセキュリティーは非常に軽く、すでにこの面で重装備をしている米国のビルに比べて、まだとてもオープンだと感じた。それは外務省ビルなども例外ではない」
 「最も急を要するのは、生物兵器への対策だ。たとえば日本ではまだ大気のサンプリング・システムを設置していない。米国ではすでに随所に設置しており、それほど高価でもないことがわかっている。主なビルの屋上にこのシステムを設置すればいいだけだ」
 「もちろん、厚生省などでは花粉や大気汚染などに関するモニターは実施していると思う。だが、米国では生物兵器の専門家がすでにバイオ・テロリズムを想定したモニターを始めている」
 
 ――日本では新幹線、原子力発電所などへの組織的なテロの危険性が懸念されている。
 「テロの脅威は現実のものであり、いつ、どこでも、どんな形でも現実のものとなりうる。北朝鮮でもイスラム原理主義でも、あるいは全く知られていないグループによってでも起こり得る。今日の我々の社会において、破滅的な脆さを有しているものは比較的少ないが、(新幹線、原子力発電所などは)それらのうちの一つだと思う。政府としては、そうした悲劇的なリスクへの露出をできるだけ減らす努力をするべきだと考える」
 
<脅威は蓋然性と衝撃度の組み合わせ>
 
 ――米国発の情報として、国際テロ組織・アルカイダが日本の首相官邸にテロを仕掛けるとの情報が日本を駆け巡ったこともあったが……。
 「そうした特定の情報を今、明かすことはできない。しかし、はっきり言えるのは、米国は日本のような同盟国とはいかなるテロ情報についても即座に共有するということだ」
 
 ――そのアルカイダについて、あなたは「もう存在しない」と公言した。
「組織としてのアルカイダは消え去ったと思う一方で、イデオロギー、あるいは特定の動きとしてのアルカイダはまだ生き残っている。そして、多くのテロリストはアルカイダのイデオロギーに影響されている。日本にアルカイダのシンパがいるとすれば、それは資金面、あるいはロジスティックス面での支援者であり、テロの実行部隊ではないと思う」
 
 ――米同時テロ以来、ささやかれ続けている「汚い爆弾(ダーティ・ボム)」を使ったテロの危険性はどれぐらいあると見る?
 「テロの脅威認定をする時、二つの尺度がある。一つはその蓋然性であり、もう一つはその衝撃度だ。たとえば、核爆弾は5段階評価で言えば最も大きな『5』の衝撃をもたらすが、蓋然性は『1』と低い。同じように、天然痘ウイルスを使ったバイオ・テロリズムも衝撃度は『5』と最高でも、発生する可能性は『1』と最も低い分野に属する。『汚い爆弾』については、衝撃度は『3』と核爆弾より低いが、蓋然性は逆に『3』と高くなる。放射性物質をバックパックに詰め込むような手法は蓋然性が『5』と最も高いが、衝撃度は汚い爆弾よりも低くなるといった具合だ」
 「化学兵器を使ったテロは生物兵器のそれより蓋然性は低い。唯一の例外は化学プラントへの直接攻撃と言われている。米国でも警護を強める努力を始めているが、その対応速度は遅く、まだ十分とは言えない。いずれにせよ、原子力施設より化学施設の方がテロに脆弱だというのが我々の共通した見方だ」 
 
 
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リチャード・ファルケンラス氏: 米ハーバード大学ケネディ行政大学院公共政策担当助教授を経て、ブッシュ政権で大統領補佐官(国土安全保障問題次席担当)、大統領特別補佐官、国家安全保障会議(NSC)の核戦略担当部長などを歴任。今年秋に政権を離れ、現在は米ブルッキングス研究所客員研究員。
 
 
(2005/01/12 日本経済新聞掲載)