◆浜岡原発: 耐震補強、中電が説明拒否
    
         (毎日新聞  2005/02/06)

 中部電力が浜岡原発(静岡県御前崎市)で実施すると発表した大規模な耐震補強について、同社は今月9日に開かれる国の原子力安全委員会・耐震指針検討分科会での説明を拒否していることが分かった。補強は同分科会が進める耐震指針見直しを先取りしての実施だが、分科会委員側からの要請に同社は「一事業者の経営判断であり、説明するような技術的内容もない」などと釈明。複数の委員から、公開の場で補強内容の技術的根拠などを説明するよう求める声が上がっている。
 同社は先月28日、耐震設計の基準を加速度600ガルとしている浜岡原発について、1000ガルまで引き上げ、東海地震の2〜3倍の揺れにも耐えられるよう補強すると発表した。これを受け、同分科会委員の石橋克彦・神戸大教授(地震学)は「1000ガルを目標とした根拠の説明を受けることは、指針見直しに有益だ」として分科会で同社が説明する時間を設けるよう、原子力安全委員会の事務局に要請。事務局が同社東京支社に打診した。
 これに対し、中部電力は「地域の信頼に応えて中長期的な発電所の安全運転を図ることが重要であると認識しており、早期に補強に着手することが経営上得策であると判断し、公表した。このような一事業者の経営判断で、分科会の場で説明するような技術的内容はなく、ふさわしいものとは考えられない。ただし、分科会の場とは別に分科会の委員から個別に要望があれば、説明にうかがう」と文書で回答。毎日新聞の取材にも、同様の回答を寄せた。
 この対応について、石橋教授は「技術的根拠がないのなら、なぜ公表したのか疑問だ。発表内容を見た人は技術的裏付けがあると思うはずで、きちんと説明してほしい」と話す。また、分科会の主査代理で、地震予知連絡会会長の大竹政和・東北大名誉教授も「分科会の議論と密接に関係があり、十分に勉強して理解しておくべきこと。どういう工事をすれば1000ガルに耐えるのかなど、技術的なことを聞きたい」と話している。【鯨岡秀紀、中村牧生】

 ■基準強化で大きな影響=解説
 浜岡原発の耐震補強について、中部電力が国の分科会での説明を拒否する背景に、同原発の耐震性を巡る環境の厳しさがあることを指摘する声もある。
 国の原子力安全委員会は現在、原発の耐震指針の抜本的な見直しを進めている。最大のポイントは、現基準を超える想定外の地震へどう対応するかで、基準は強化される方向にある。
 浜岡原発はマグニチュード8の巨大地震、東海地震の想定震源域の真上にあり、基準強化で大きな影響を受ける可能性が高い。そのため、同社は先取りして耐震補強の実施を決めたが、これで十分かどうかは不明だ。
 また、同原発など3原発をモデルにした試算でも、同原発で地震によって重大事故が起きる危険性は、他の原発より高い「40年間で2%程度」という数字が出ている。
 分科会で説明する法的な義務はない。分科会に出席すると、専門家から浜岡原発の耐震性について厳しい質問が出される可能性もある。しかし、公開の場で専門家からの質問にきちんと答えてこそ、信頼を得られるのではないか。