◆[浜岡原発改修]「国も耐震指針の見直しを早く」
 
    (読売新聞社説 2月9日)


  地震に対して、原子力発電所はどれほど強ければいいか。
 静岡県御前崎市にある中部電力の浜岡原子力発電所は、そうした議論の的となってきた。
 三十年以内に84%の確率で発生するとされる東海地震の想定震源域内にあり、五基が立地している。
 中部電力が、この五基について、耐震性を向上させるための工事を決めた。稼働後の原発では初めてとなる。
 従来の取り組みに問題があると誤解されかねない決定、との懸念もある。しかし、むしろ英断と受け止めたい。安全性の向上には不断の努力がいる。中部電力は、地元への説明などに努め、無用な誤解を招かないようにすべきだ。
 浜岡原発は、国内の原発では大地震に襲われる可能性が最も高いとされる。このため、現在でも国内で最高の耐震策を取っている。中部電力もこれまで、「起こりうる地震に対して耐震安全性は確保している」と説明してきた。
 だが、国が検討を進めている原発の耐震指針改定の結論が延び延びになっていることから、指針が強化されるのを先取りして、安全性にさらに余裕を持たせることが必要、と判断した。
 工事では、二〇〇八年までに、配管の支えを丈夫にし、機器の基礎部分を強化する。工事費は一基当たり数十億円から数百億円かかるが、「東海地震で想定されている、二倍から三倍の強さの揺れにも耐えられるようになる」という。
 現行の耐震指針は一九七八年に作られた。原発建設に当たっては、まず地盤を綿密に調査するなどして、建設地で起こり得る最大の地震を想定する。これに基づき、重要な設備、機器が揺れに耐えられるよう設計する、という内容だ。
 だが、十年前の阪神大震災のように想定外の地震が国内で相次いでいる。耐震性を見積もる手法も進歩し、指針の前提が大きく変わっている。
 これを受けて、国の原子力安全委員会は二〇〇一年七月から、専門家を集めて議論を重ねてきた。
 これまでの検討で、より大きな地震を想定し、設備や機器の耐震性を強化するという方向はほぼ固まった。だが、それを指針にどう盛り込むかで、国と専門家の意見が、なかなかまとまらない。
 特に、安全性の余裕を見積もる計算を事業者に義務づけるかどうかで紛糾している。欧米には、安全性の余裕を数値で示すよう義務化している国もあるが、日本では難色を示す声が根強い。
 検討は、もう三年以上続いている。いつまでも結論を出せないようでは、原子力安全委員会の能力が問われる。