050215  NPTとは? NPT再検討会議とは? 核軍縮か核軍拡か?

今夏は広島・長崎被爆60周年で、核問題が大きくクローズアップすると予想されますが、
その前に、来る5月2日から27日までニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)
再検討会議が開催されます。この会議の意義や問題点についてはすでに皆様十分な知識を
持っておられると思いますが、今後EEE会議でも頻繁に議論に出てくると予想されますので、
この機会に、関連事項について極く簡単におさらいをしておきます。(但し1回ではとても
カバーしれ切れませんので、今後折りに触れてシリーズ的に取り上げて行くつもりです。
関心のある方は随時適宜補足して下さい。)--KK
 
 
1.NPTとは?
 
NPTは今から35年前、1970年に発効した条約で、正式の名称は「核兵器の不拡散に関
る条約」(The Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons=NPT)です。
この名前からも分かるように、核兵器(及び核爆発装置。以下同じ)が「核兵器国」
(1967年1月1日以前に核爆発を実施した国:米、ソ連=現ロシア、英、仏、中の5カ国)
以外に拡散することを防止することを基本的な目的としています。ちなみに、日本では
俗に「核保有国」という言葉が使われますが、これでは「平和利用の核(原子力発電)」
を保有する国も含むと誤解され易いので、わざわざ「核兵器国」(nuclear-weapon State)
という言葉が条約上使われているわけで、今後この言葉が日本でも、とくに原子力関係
者(とくにマスコミ関係者)の間で、一般化するよう願っています。
 
これに対し、5カ国以外の国はすべて「非核兵器国」(non-nuclear-weapon State)
とされ、核兵器を作ることも保有することも禁止されており、かつそのことを担保
ために国際原子力機関(IAEA)による「保障措置」を受けることを義務づけられ
ています。ちなみに、「保障措置」とは、英語で"safeguards"といい、これを1960年
代半ば、条約交渉時に外務省が最初に「保障措置」と和訳したために、一般には分か
りづらい専門語になってしまいましたが、本来は「平和利用担保措置(手段)」と
でも訳すべきもので、その中身はいわゆる「核査察」(inspection)のほかに、核物質
管理・在庫の帳簿検査等も含まれる広範な内容になっています。そのような意味での
保障措置を、NPT加盟の非核兵器国は自国内すべての核物質(外国から輸入したもの
だけでなく、国産のものも含む)に対して受け入れなければなりません。とくにウラン
濃縮、再処理等は厳格な監視下に置かれています。(最近盛んに話題になっている
「追加議定書」や「統合保障措置」等については後日さらに詳しく解説する予定)
 
このような厳しい義務を非核兵器国が負う代わりに、核兵器国は核軍縮・核廃絶を
実現すため「誠実に交渉する義務」(第6条)を負うています。他方、すべての
核兵器国は原子力平和利用を行なう権利を「奪い得ない権利」(第4条)として認め
られていますが、これがいわゆる「エルバラダイ構想」や「ブッシュ構想」との
関連でしばしば問題になっていることは周知の通りです。いずれにしてもNPTに内在
している核兵器国と非核兵器国の間の不平等をどう調和するかはNPTの永遠の問題点
でしょう。(この点についても後日さらに詳しく触れる予定)
 
ちなみに、上記5カ国以外でもインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などが
核実験を行なったか、(実験はしてないものの)すでに核兵器を保有するに至った
ものと見られていますが、これらはNPT上は「事実上(de facto)の核兵器国」
呼ばれることはあっても、現行のNPT上は決して核兵器国とはなり得ません。また、
これらの国々はNPTに加盟していないので(北朝鮮は2年前に脱退)、上記のような
IAEA保障措置の適用を受けておりません。もし日本がインド等との原子力協力活動
を進めるとすると、この点が先ず問題となります。台湾はIAEAから追放されたまし
たが、米国の計らいで特別にIAEA保障措置が適用されているようで、日本からも
関連施設が輸出されています。
 
2.NPT再検討会議とは?
 
この条約の運用状況を点検、検討することを目的に5年ごとに行われている国際
会議のことで、すべての条約加盟国が参加します。1975年の第1回会議以後6回
開催されました。インド、パキスタンなどもオブザーバーとして会議には時々顔
を出しています。会議と会議の間には、次回会議のための準備委員会が開かれ、
問題点の荒ごなし作業をしています。NPTは当初25年(1970-95年)の有効期間で
したが、1995年の第5回会議で、大議論の末無期限延長が決定しました。なお、
日本は1970年にNPTを署名したものの、1976年まで批准しなかったので、正式の
参加は1980年の会議からです。
 
前回(2000年)の会議では、核兵器廃絶への具体的流れを決めた13項目の核軍縮
措置を盛り込んだ合意文書「最終文書」が採択されています。しかし、2001年の
ブッシュ政権登場以後、特に9.11事件以後、米国を初めとする核兵器国側の
核軍縮努力の著しい欠如、というよりむしろこれに逆行する動きが顕著になって
おり、今回の再検討会議でもこの点が最大の争点になると予想されます。但し、
NPT再検討会議は核軍縮を具体的に議論する場ではなく、米露2国間交渉とかジュ
ネーヴにある軍縮会議(CD)がその場ということになっていますが、いずれも最近は
ほとんど全く機能していません。
 

3.核兵器国側の状況は?
 
上記のように、5カ国は核軍縮義務(第6条)を負っているにもかかわらず、現実に
ここ数年来核軍縮交渉は全く停滞しており、かえって新たな核軍拡の兆しがみられ
ます。具体的に、主要な国の立場を概観するとーー

◆米国

・小型核兵器(mini-nukes)や地中貫通型核爆弾(バンカーバスター)
など新型の
 「使える核」の開発を模索しており、Bush政権はこのための予算増額を要求中
 (先週配信の一連のEEE会議メールをご参照)。
・包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を拒否。ペンタゴンあたりでは上記新型核兵
 器開発のため近い将来核実験再開が必要と主張。未臨界実験はすでに10回以上実施。
・前回(2000年)の
再検討会議での合意は9.11以後米国の安全保障にマイナスと
 して、その死文化を他の核兵器国と協議して模索している模様。
・とくに核兵器国による非核兵器国への核不使用(いわゆる「消極的安全保証」=NSA)
  や 核兵器の先制不使用(no-first-use)の条約化にはつよく反対。
・非核兵器地帯(NWFZ)構想にも消極的で、各地域のNWFZ条約に不参加。

◆ロシア
・プーチン政権になってから核兵器重視戦略に戻った感があり、米国同様に新型
 核兵器の開発を急いでいる模様。経済的も大規模な在来兵器体系を維持できない
 ので、比較的安価で済む核兵器に依存する傾向が顕著。未臨界実験もしばしば。
・米国同様、核の先制使用宣言やNSA宣言に消極的。
・一方で、冷戦期に大量に製造した旧式の核兵器の解体作業(兵器級プルトニウム、
 高濃縮ウランの処理処分を含む)は資金不足のため大幅に停滞。退役原潜の解体
 処分も同様。
 
◆英、仏
・核兵器の増産は行なっていないが、最低限の核抑止力は維持する方針。その他の
 点については基本的に米国に同調。
 
◆中国
・核戦力の近代化(多角弾頭化=MIRV、ミサイルの固形燃料化、移動式発射台の拡充
 等々)を着々と推進中。核弾頭数は400〜500発とみられ、米本土(東海岸)まで届く
  戦略核ミサイルのほぼ完成とみられる。日本を照準とした核ミサイルは常時200発
 以上と推定される。
・しかし公式には「中国の核は自衛のため必要な最低限のレベル」としており、5カ
 国の中では唯一、核兵器国による非核兵器国への核不使用(NSA)を宣言している。
・核兵器国同士での核先制不使用(NFU)宣言を提案している。とくに米国との共同宣言
 に固執しているが、米国は拒否(日本も拒否を支持)。
・NWFZに一定の理解を示し、東南アジア非核兵器地帯
条約への署名を表明。
・北朝鮮核問題で刺激された日本が早晩核武装するのではないかとの懸念を持つ。
 米国がこれをテコに(いわゆる「ジャパン・カード」)中国政府がもっと北朝鮮に
 圧力をかけるよう圧力をかけている模様。6カ国協議のホストとして中国が今後
 北朝鮮の核をどう解決するかが見もの。
 
以上(無断転載を禁ず--KK)