050217  Re: エルバラダイIAEA事務局長のNPT強化のための7項目提案
 
エルバラダイIAEA事務局長の核不拡散体制強化のための7項目提案については、すでに2/3付けの標記メールで詳しくお伝えしましたが、最近これとほぼ全く同一の内容が、同事務局長の寄稿として朝日新聞のオピニオン欄(2/12)に掲載されました。すでにお読みになった方も多いと思いますが、念のためにその全文を再録しておきます。ご参考まで。(提供:熱田利明氏)
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核不拡散:新施設建設、5年間凍結を
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モハメド・エルバラダイ・IAEA事務局長>

 (朝日新聞“オピニオン”、2005年2月12日)


 ニューヨークで(5月に)国際的な安全保障を大きく改善する、またとない機会が到来する。問題は、われわれがその機会を生かすことができるかだ。

 ここ数年、安全保障をめぐる状況は急速に変化している。「核の闇市場」が出現し、新たな国々が核兵器に用いられる核分裂性物質の製造技術の入手を執拗に追求している。テロリストは大量破壊兵器を手に入れようとたくらんでいる。

 これらの新しい問題を既存の手法で解決しようとしてきたが、その過程で核不拡散条約(NPT)体制というシステムの脆弱性が明らかになってきた。システムそのものを強化する必要があり、各国政府に実行する覚悟があれば、5月に(ニューヨークであるNPT再検討会議で)改善策をとることは可能だ。
 5年ごとに開かれるNPT再検討会議は、世界の指導者たちが一堂に集まり、核兵器の脅威にどう対処するかについて話し合う。(条約に未加盟の)インド、パキスタン、イスラエルと、(条約から脱退を表明した)北朝鮮の4カ国も自らの考えを示すべきである。

 今回の会議では、条約を改正しなくても、次の7項目の方策によって、世界の安全保障を強化できる。

 第一に、ウラン濃縮とプルトニウム抽出のための新たな施設の建設を5年間凍結する。施設を新たにつくる差し迫った理由はなく、原発や研究施設への燃料の供給能力はすでに十分ある。施設がすでにある国に対しては、平和利用のための核燃料供給を保障するよう求める。凍結期間中に、これらの技術を管理する長期的なよりよい方策(例えば多国間管理など)を見いだせばよい。

 第2に、米国主導の脅威削減イニシアチブなどの活動を加速し、高濃縮ウランを用いる研究炉、特に核兵器の原料として容易に利用できる燃料を使うものを、低濃縮ウランを用いるものに改変する。すべての原子力平和利用で高濃縮ウランを不要にさせるための研究を促進する。

 第3に、NPT順守を検証する標準として(抜き打ち査察を容易にする)「追加議定書」を定着させ、査察の基準を厳しくする。追加議定書による権限の拡大がなければ、国際原子力機関(IAEA)の査察には限界がある。すべての国が締結すべきだ。

 第4に、NPTから脱退する国に対しては、国連安全保障理事会に迅速かつ断固たる措置をとるよう要請する。

 第5に、(大量破壊兵器の流出防止をはかる)安保理決議1540に基づいて行動するよう各国に求め、核物質や関連技術の違法な取引を追跡し、訴追できるようにする。

 第6に、NPT上の核保有国5カ国に対し、核軍縮への「明確な約束」の実行を加速し、米ロ間の(戦略核弾頭を約3分の1にする)モスクワ条約のような努力を続けるよう求める。核兵器開発計画のための核分裂性物質の製造を禁止する条約について交渉することは、よい出発点となろう。

 最後に、中東や朝鮮半島のような地域では、核拡散を引き起こすような長年の緊張による不安定さを認識し、安全保障上の問題を解決する。中東では、非核兵器地帯も視野に、和平への対話をすべての関係者に呼びかける。

 7項目はいずれも単独では機能しない。だが、関係者が指導力をもって取り組めば、一連の提案はすべての人々に利益をもたらすだろう。こうした機会は2010年にもあるが、さらに5年待つ余裕はない。国連のハイレベル諮問委員会は「不拡散体制が回復できないほどむしばまれ、次々と拡散が進むような事態に近づきつつある」と指摘している。何もしないことが、あまりにも危険な状況なのだ。
 (本稿は筆者の個人的な見解。原文は英語)