050219  Re: NPTとは? NPT再検討会議とは? 核軍縮か核軍拡 か? :保障措置の起源


先日(2/15)、標記件名のメールで、核不拡散条約(NPT)についてご説明した中で、国際原子力機関(IAEA)による「保障措置」(英語ではsafeguards)という言葉は一般国民には分かりづらく、日本語としてあまり適訳ではない、本来は「原子力平和利用担保措置(または手段)」とでも訳すべきではなかったかという私見を申し上げましたところ、この「保障措置」という言葉が最初に日本語正文として使われるようになった歴史的経緯について、シグナスX−1氏から次のような有益な情報を提供していただきました。これは、アイゼンハワー米大統領による「平和のための原子力」"Atoms for Peace"提案(1953年12月)を受けてIAEAが創設(1956年10月
)され、日本がこれに加入(1957年7月)し、米国との最初の原子力協定を締結(1958年)するまでの数年間の状況を背景とするものでありますが、この機会にこうした歴史的経緯を振り返ってみておくことは、日本の原子力活動のあるべき姿を考える上で、あるいは現在問題となっているエルバラダイIAEA事務局長提案(核燃料サイクルの多国間管理構想)の意義を正しく理解する上でも有益なことであると存じます。シグナスX−1氏のご教示に感謝します。なお、このほかにも当時の事情等について詳しい方は適宜ご教示、啓蒙してくだされば誠に幸いです。
--KK
 
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「Safeguards」の日本語訳について以下のように承知しています。

 昭和30(1955)年に、日米間で最初に締結された日米原子力協定は、通称「研究協力協定」と呼ばれており、研究炉協力を可能にするためのものであって、この協定に基づき、日本原子力研究所の研究炉JRR-1及びJRR-2と、これらに用いる濃縮ウランが米国政府から賃貸されることとなった。ここで、日本国政府は、この濃縮ウランが、合意された目的のためのみに使用されることを確保する等のため、必要な保管の措置を維持することとされている(第8条)が、ここでは、英語正文の「Safeguards」が、日本語正文で「保管の措置」として用いられている。これが、我が国で Safeguards が公式な文書において用いられた初めての日本語の表現ではないかと思われる。
  一方、保障措置という訳語は、国際原子力機関憲章の日本語訳において初めて登場した模様であり、国会議事録検索システムで検索してみると、昭和32(1957)年3月28日の参議院外務委員会において、国際原子力機関憲章の批准について承認を求めるの件が議案となった際に、井上清一外務政務次官が提案理由を説明する際に、保障措置に言及したのが最初である。
 なお、昭和33(1958)年に締結された日米原子力協定は、動力炉の協力を可能にするためのもので、濃縮ウランが日本国政府に売却又は賃貸するとされるようになったものであるが、本協定では、Safeguards を「保障措置」と訳しており、米国政府は、IAEAの保障措置で代置される範囲を除き、米国政府が保障措置活動を行う権利を有するとともに、日米両国は、IAEA保障措置を利用するための取極について協議する、とされている。


(参考)昭和32(1957)年3月28日の参議院外務委員会議事録

○井上清一政府委員(外務政務次官) 
(中略)
 次に、国際原子力機関憲章の批准について承認を求めるの件につきまして、その提案理由を御説明いたします。
 原子力の平和的利用を促進するために国際機関を設置するという構想は、一九五三年の国連総会におけるアイゼンハワー米国大統領のいわゆる原子力国際プール提案に端を発し、その後国連を中心に折衝が続けられました結果、昨年十月二十三日に至り、米ソを含む八十一カ国の国際会議において、この憲章が正式に採択され、同二十六日から署名のため開放され、わが国も同日これに署名を了しております。
 この機関が行う事業のおもなる内容は、加盟国が提供する物質、施設、役務等を、機関が、直接にまたは仲介者として、援助要請国に対して供給するといういわば原子力の国際銀行の役目を果すところにあります。憲章には、また、機関がその役目を最も有効に果すために必要な保障措置の規定、原子力に関する情報交換の規定、その他機関みずからの組織、運営及び機関と国連その他の機関との関係についての規定等が設けられております。
 憲章案に対しては、すでに米ソ等世界の主要国を網羅いたしました七十八カ国が署名を了しており、また、米ソ英等原子力先進諸国は、この機関に対して必要な特殊核分裂性物質を提供する用意がある旨を表明いたしております。他面、機関発足の準備を行う準備委員会も、本年夏機関の第一回総会をウィーンで開催することを目途として準備促進中でありますので、この憲章は近い将来に必要な十八カ国の批准を得て発効するものと期持いたしております。
 わが国は原子爆弾の唯一の被災国であり、またようやく原子力平和利用のための研究、開発に乗り出した段階にもありますので、この機関の設立に対しては当初から深い関心と熱意を示して参りましたところ、昨秋の憲章採択会議において、わが国は機関の準備委員会の一に選出され、また機関発足の上は理事国として選ばれることがほぼ確実となっております。
 わが国は、この機関に参加することによりまして、原子力の平和利用の促進という人類の福祉に重大な関係のある国際協力の分野に積極的に参加協力することができるとともに、機関が活動を開始した暁におきましては、機関から物質その他の援助を仰ぐことによりましてわが国自身の原子力関係部門の発展に資することができると考えられるのであります。
 なお、機関の第一回総会は、国連総会の会期その他を考慮の上、一応本年八月おそくも九月初めには開催することに予定されており、また、このため本年六月ごろには準備委員会による一部理事国の指定が行われることになっておりまするから、わが国としても、おそくも五月中に批准書の寄託を了していることが必要であると考えられます。よって、政府は、この憲章の批准につきまして御承認を求める次第であります。右の事情を了承せられ、御審議の上本件につきましてすみやかに御承認あらんことを希望いたす次第であります。
(後略)



受信日時:2005/02/15 10:44:15 東京 (標準時)

kkaneko@eeecom.jpからの引用:


皆様

今夏は広島・長崎被爆60周年で、核問題が大きくクローズアップすると予想されますが、
その前に、来る5月2日から27日までニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)
再検討会議が開催されます。この会議の意義や問題点についてはすでに皆様十分な知識を
持っておられると思いますが、今後EEE会議でも頻繁に議論に出てくると予想されますので、
この機会に、関連事項について極く簡単におさらいをしておきます。(但し1回ではとても
カバーしれ切れませんので、今後折りに触れてシリーズ的に取り上げて行くつもりです。
関心のある方は随時適宜補足して下さい。)--KK


1.NPTとは?

NPTは今から35年前、1970年に発効した条約で、正式の名称は「核兵器の不拡散に関
する条約」(The Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons=NPT)です。
この名前からも分かるように、核兵器(及び核爆発装置。以下同じ)が「核兵器国」
(1967年1月1日以前に核爆発を実施した国:米、ソ連=現ロシア、英、仏、中の5カ国)
以外に拡散することを防止することを基本的な目的としています。ちなみに、日本では
俗に「核保有国」という言葉が使われますが、これでは「平和利用の核(原子力発電)」
を保有する国も含むと誤解され易いので、わざわざ「核兵器国」(nuclear-weapon State)
という言葉が条約上使われているわけで、今後この言葉が日本でも、とくに原子力関係
者(とくにマスコミ関係者)の間で、一般化するよう願っています。

これに対し、5カ国以外の国はすべて「非核兵器国」(non-nuclear-weapon State)
とされ、核兵器を作ることも保有することも禁止されており、かつそのことを担保
するために国際原子力機関(IAEA)による「保障措置」を受けることを義務づけられ
ています。ちなみに、「保障措置」とは、英語で"safeguards"といい、これを1960年
代半ば、条約交渉時に外務省が最初に「保障措置」と和訳したために、一般には分か
りづらい専門語になってしまいましたが、本来は「平和利用担保措置(手段)」と
でも訳すべきもので、その中身はいわゆる「核査察」(inspection)のほかに、核物質
管理・在庫の帳簿検査等も含まれる広範な内容になっています。そのような意味での
保障措置を、NPT加盟の非核兵器国は自国内のすべての核物質(外国から輸入したもの
だけでなく、国産のものも含む)に対して受け入れなければなりません。とくにウラン
濃縮、再処理等は厳格な監視下に置かれています。(最近盛んに話題になっている
「追加議定書」や「統合保障措置」等については後日さらに詳しく解説する予定)