050223  Re:「水素社会とは?」 石井吉徳氏から):内田裕久氏のコメント


標記メール(2/23 木村正彦氏)に関し、水素エネルギー研究の権威である内田裕久氏
(東海大学工学部長)から次のような貴重なコメントをいただきました。ご参考まで。
--KK
 
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 水素に関しては、いまだに誤った概念で議論されている感があります。

水素を化石燃料や原子力の代替などの位置づけはあり得ません。
いまだに、水素システムですべてエネルギーを賄うかのような議論があるのは、現実
の水素利用技術の利点、欠点を理解してない研究者、技術者、政治家の議論です。

<重要なポイント>
○ 水素は二次エネルギーであり、製造に一次エネルギーを必要とします。
○ 水素利用には大きく分けて2通りの方法があります。
(1)燃焼させ、内燃機関、燃料電池用燃料とする。水素を消費しながら利用する方
法です。
  この場合、水素製造価格が問題になることは当然ですが、その価格、コストの内
容には、地球環境破壊修理費用を同時に考えることが必要です。
  太陽、風力の貯蔵、運搬、熱変換に水素を媒体として位置づけができます。

(2)閉じられたシステム内で、水素を貯蔵した二種類以上の水素吸蔵合金の間でや
り取りし、反応熱や圧力変化を利用する方法。
  水素は消費しません。以前、ご紹介したある地域での冷凍機はこれに当たります。
水素消費はありません。ニッケル水素電池も同じです。
  フロン型冷凍機のわずか30%のエネルギー消費で、地下水、河川などの冷熱、
工場、ごみ処理場等の高温排熱といった未利用エネルギー源があることが前提です。 
  この環境条件を満たしている地域であれば、水素を利用した省エネクリーン冷凍
機は設置できます。

 燃料電池ブームの中で、水素が注目されていますが、長年この分野で、水素吸蔵合
金、再生可能エネルギーシステムとの連携などの研究も行ってきている研究者達は、
冷静です。
 燃料電池は、特に低温作動型は実用化まであと10年以上はかかるのではないかと
思います。
 しかし、ハイブリッド自動車に見られるように、ニッケル水素電池は水素吸蔵合金
の研究成果の一例であり、電池電極として水素吸蔵合金は機能しています。政府が補
助金を出していることで、ハイブリッド車は商業ベースに乗り始めました。

 水素エネルギーで全世界のエネルギー問題を解決できるなど、本物の研究者であれ
ば、誰一人考えていません。
 ハイブリッド車用のニッケル水素電池が、1000回充電放電できることを実証し
たとき(1988年6月21日、日本工業新聞第一面など)、「大学の研究成果であ
り、安いニカド電池、鉛電池には比較できない」というコメントばかりでした。
 過去30年以上、水素も太陽電池も、「エネルギー問題の解決にはならない。コス
トは高過ぎ、効率が悪い」と潰されてきました。
 しかし、世界一の太陽電池生産国となり、太陽電池は民生レベルで需要を増やして
います。ハイブリッド車も輸出されるところまできました。
 水素も使える地域、環境で分散型で使えばいいのであって、「化石燃料、原子力、
火力のように、どこでも使えるエネルギー」を目指してはいません。  

 水素に対するあらゆる批判を受けながら、「どうすれば商用化エネルギーシステム
として育つのだろうか」と自問自答しながら研究を続けています。

 基本的に、性能が同じでも、特定の外車を購入する人々は、安全性、リサイクル性
などを評価して購入しています。
 地球環境に意識があり、その地域にとって付加価値があると考えるところでは、大
量生産されている従来技術の環境負荷の高いシステムではなく、高価でも水素利用シ
ステムを導入したいという意向があります。
 商品としてのシステム評価と、純粋技術、学術的な評価とは違い、そこに商売の道
があるのではないでしょうか。


 明後日から金子先生の故郷、ベトナム、ハノイへ日本ーベトナム2国間会議で出張
してまいります。
現地ではホンダが燃料電池バイクを実演します。

内田裕久