050226  Re: 多国間核管理構想: エルバラダイ事務局長の専門家報告書) 小野章昌氏の評価


今週エルバラダイIAEA事務局長の諮問委員会がまとめた「核燃料サイクル多国間アプローチ」(Multilateral Nuclear Approaches=MNA)が発表されましたが、これに関する
小野章昌氏(元三井物産)の分析・評価をご紹介します。日本の六ヶ所再処理工場に関する同報告書の記述も紹介されております。ちなみに小野氏は、25年ほど前、カーター米大統領の提唱で2年余にわたって実施された「国際核燃料サイクル評価(INFCE)」に、小生や秋元勇巳氏(現三菱マテリアル会長)等と一緒に日本代表として参加された経験をお持ちで、当時からウラン燃料の長期供給保証問題に熱心に取り組んでおられます。今回公表された報告書の構想(5つのアプローチ)も基本的にINFCEで議論されたものを踏襲しているように思われます。ご参考まで。
--KK
 
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IAEAエキスパート・グループによるレポート「核燃料サイクル多国間アプローチ」についての紹介がありましたが、
早速読んで見ました。私なりの解釈と感想を下記申し上げます。 

・エキスパート・グループとしては「多国間アプローチ(MNA)」へのmomentumを維持するために、将来考えられる5つの方法を提案している。すなわち、1.既存の商業メカニズムを強化(政府支援を得ての燃料リース、燃料バンク等)、2.IAEAが参加する国際供給保証システム、3.既存の施設を多国間施設に転換、4.多国間の新規施設(共同所有、共同管理、引出権)、5.より強固な多国間措置を備えた核燃料サイクル。

・各燃料サイクル(濃縮、再処理、使用済燃料貯蔵、使用済燃料処分)について、夫々5つのパターンを挙げ長短を検討している。 タイプI:既存の施設を利用(a.既存の供給者が供給保証を行う、b.政府コンソーシアムを設け、保証を拡大、c.IAEAが介入)、タイプII:既存の国営施設を多国間施設に転換、タイプIII:新規共同施設の建設

・「ウラン濃縮」については、「世界の濃縮容量は、今後10年間は需要を上回り、その後も需要とほぼ同じレベルで推移すると見られている。供給者は事業に積極的であり、適切な量の供給保証に疑いを持つ理由は少ない。フランスや米国のような大きな需要国は自給能力を維持したい考えであるが、一方小規模な国にとっては、地域レベルの供給保証を支える多国間メカニズムのメリットが、経済的にも、戦略的にも、大きい」とMNAのニーズを分析しており、またMNAが必要になってもウレンコ、ユーロディフの例が存在しているので、問題解決のヒントは得られるとしている。上記タイプIIの既存施設の多国間施設への転換については「技術やノウハウの拡散を防ぐメリットはあるが、一方では供給源多様化のために幾つかの同種施設が必要となり、供給保証面での国際管理が難しいこと、ノウハウの拡散に?がる等の欠点もある」と分析している。

・「再処理」については、「今後20年あるいはそれ以上にわたって、再処理能力が需要を上回ることが考えられ、また複数の供給者がビジネスを行う用意ありとしているので、市場が適切な供給保証を与えることができる状況にある」と供給保証面でのニーズを分析している。タイプIIの既存施設の多国間施設への転換については3つの利点(新規施設不要、多国間管理による拡散抵抗の増強、経験・技術の集約)に対して7つの欠点を挙げている。すなわち、1.核保有国または非NPT国にあるので新しい安全保障システムを遡及適用する必要性、2.既存施設の所有権、資産に対する考慮、3.ユーロケミックの際に経験した国際管理の難しさ、4.再処理ノウハウの拡散、5.供給源多様化のために複数の施設転換が必要、6.プルトニウムと放射性廃棄物の返還、7.輸送需要の増大

・また再処理の現状認識のところで六ヶ所村工場を次のように記述している。「六ヶ所村における新規再処理工場の建設は1993年に始まった。ウラン導入試験は2004年に始まり、使用済燃料を使った立上り試験が2005年、商業運転が2006年に始まる予定である。六ヶ所村工場は、IAEAが全ての建設工程にわたってモニタリングを行い、検証を行うことができたと言う意味で、ユニークなものであり、今後の新規再処理工場には有効な安全保障手段として適用されることになろう。」

・エキスパート・グループとしては、日本の濃縮工場、再処理工場を除いて、既存施設は核保有国か非NPT国に立地する政府(または政府企業)所有施設と認識しており、新たな安全保障措置を必要とすることを短所の方に挙げている。また飽くまで政府間のアレンジメントであるので、(日本のような)民間企業が所有する施設については、その所有権・資産に対する配慮が必要で、MNAが複雑になると認識している。

・このように全体的に見ると、総論賛成、各論実現多難という分析になっているように思われる。
                                                          以上