050226  インド問題: 日印原子力関係の推進の是非、その具体的方策等について)  <重要>


インドは、最近発表された国連の人口予測によれば、2050年には約16億人で、中国の約14億人を抜いて世界一の人口大国になります。一方ハイテク、ソフトを中心とする科学技術・経済面での躍進にも目覚しいものがあり、インドが国際政治の主役の一人に躍り出る日も近いと予想されます。今後アジアにおける中国の勢力拡大と日中関係の難しさを考えると、バランサーとしてのインドの存在は日本外交にとっても極めて重視されるべきものと思料されます。

しかるに、このインドと日本の関係は、同国が核不拡散条約(NPT)に非加盟で、しかも公然と核実験を行なった「事実上の核兵器国」であることが主因となって、あまり緊密とは言えず、とくに原子力分野では全く没交渉と言ってよい状況です。NPT発効からすでに丸35年。本年5月に第7回NPT再検討会議も開かれるこの機会に、我が国は従来のNPT至上主義的な、硬直した対印姿勢を改め、日印原子力関係の促進を図るべきではないか、そのような趣旨の政策提言を行なうべきではないか、という意見がEEE会議の「原子力国際戦略研究会」の過去2回の会合でも多数の方々から表明されております。(先日(2/24)配信した同研究会の議事概要メモをご覧下さい。)
 
この議事概要メモのインド問題に関する部分については、すでに、右研究会のコア・メンバーの一人である田中義具氏(元軍縮大使)からもいくつかの貴重なコメント(2/26)をいただいておりますが、このコメントに関連して、ある会員(匿名希望)から次のような有益な専門的情報分析と具体的な示唆(試案)を提供していただきました。ご参考まで。他の会員各位からも建設的なご感想、ご意見、情報提供を歓迎します。
--KK
 
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 以下は、田中義具氏(元軍縮大使)の「インド問題について提言すべき一番のポイントは、NPTへ参加せよなどという余りにも非現実的な従来の日本の主張を、いつまでも単に原則的な立場から言い続けるようなことはやめにして、先日(2/21)シャインマンが話の中で列挙したような、NPT体制の強化に具体的に役立ち、しかもインドとして取ろうと思えば取れるような行動を同国に強く求めていって、その履行状況との見合いでインドとの原子力協力を強化、拡大していくといった提言をしていくのがよいのではないかと考えます。」というご提案を踏まえて考えてみたひとつのアイデアです。

○ インドが自らのイニシァチブで、現在5核兵器国が締結しているボランタリー保障措置協定と同様の協定をIAEAと締結すること

(5核兵器国が締結しているボランタリー保障措置協定の内容)
 当該国におけるすべての核物質に対してIAEA保障措置が適用されるNPT非核兵器国の包括的保障措置とは異なり、5核兵器国では、それぞれにおいて若干の差はあるものの、基本的には、まず、民生用の原子力施設の中から、核兵器国がIAEA保障措置を受け入れてもよいとして核兵器国側からIAEAに施設リストが提示され(通常「適格施設(eligible facility)」と呼ばれる。)、IAEAはその施設リストの中から実際に保障措置を適用して査察を行う施設を選択する(通常「選択施設(selected facility)」と呼ばれる。)という仕組みになっている。この選択施設に関して、核兵器国は施設の設計情報や核物質の計量管理情報をIAEAに提出し、IAEAはその検認のための査察を行うということになる。

(インドにとってのメリット等)
・最初の適格施設のリストに関しては、全くインドに選定権限があり、インドにとっての問題は大きくないにもかかわらず、保障措置協定の受入れという形で核不拡散への貢献を対外的にアピール可能。
・また、NPT核兵器国が締結しているものと同じ形のボランタリー保障措置協定であれば、一見、核兵器国並の扱いを受けた、との国内アピールが可能。

(核不拡散体制にとってのメリット)
・インドが初めてINFCIRC/153型の計量管理型保障措置を、選択施設に限定はされるものの、受け入れることになること。(なお、インドは米国から1960年代に輸入したタラプール原発(BWR)に対しては、INFCIRC/66型の保障措置を現在でも受け入れているはず。)
・なお、保障措置協定の受入れという形そのものが、核不拡散体制への貢献ととらえられる。

(NPT非加盟国がボランタリー保障措置協定を締結できるのか)
・仏・ユーラトム・IAEA保障措置協定が締結されたのは1981年9月であるが、仏がNPTに加盟したのは1992年8月。(このため、米英のボランタリー保障措置協定とは異なり、仏・ユーラトム・IAEA保障措置協定の中には、NPTへの言及がない。)
・中・IAEA保障措置協定が締結されたのは1989年9月であるが、中国がNPTに加盟したのは1992年3月。(仏と同様に、協定中でNPTへの言及はない。)
というように、かつて仏、中国は、NPT非加盟国としてボランタリー保障措置協定を締結していた。
 なお、IAEAが、インドからのボランタリー保障措置協定の提案を受けたとき、受け入れられるかどうかはIAEA理事会の判断になるが、断る合理的な理由はないのではないかと思われる。

(日本との関係)
 そもそも、日本はNPTやNSG以前の昭和30年代に、日本からの原子力輸出に関しても、平和利用が担保されるべきとの政策を原子力委員会が決定している。実際に、日本が締結している6つの二国間原子力協定でもそのような政策は反映されており、日本から移転される核物質にはIAEA保障措置が適用(但し代替措置も含む)されるような規定が盛り込まれている。したがって、インドにおいても、そのようなIAEA保障措置を受け入れる仕組みが整っていないと、協定に基づくような協力は難しいと思われる。
(ただし、現在のNSGガイドラインが求めているのは非核兵器国における包括的保障措置なので、ボランタリー保障措置では、NSGの要件は満たしていないことは事実。)



受信日時:2005/02/26 7:32:41 東京 (標準時)

kkaneko@eeecom.jpからの引用:


皆様

標記メール(2/24)でお届けした議事概要に関し、田中義具氏(元軍縮大使)から次のようなコメントをいただきました。ご参考まで。
--KK


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1.研究会の名前は「原子力国際戦略研究会」のほうがよいとおもいます。輸出問題とすると余りにも商業問題のような印象を与えます。

2.インド問題について提言すべき一番のポイントは、NPTへ参加せよなどという余りにも非現実的な従来の日本の主張を、いつまでも単に原則的な立場から言い続けるようなことはやめにして、先日(2/21)シャインマンが話の中で列挙したような、NPT体制の強化に具体的に役立ち、しかもインドとして取ろうと思えば取れるような行動を同国に強く求めていって、その履行状況との見合いでインドとの原子力協力を強化、拡大していくといった提言をしていくのがよいのではないかと考えます。

3.インドがらみの政治論をある程度論じた後で、東南アジアへの原子炉輸出問題を論じた方が、全体のバランスが取れるのではないかと思います。

           田中義具