◆石油燃料値上げで国民反発、インドネシア政権に試練

     (読売新聞  2005/3/2)

 【ジャカルタ=黒瀬悦成】インドネシアのユドヨノ政権は1日、石油燃料価格を平均29%引き上げた。バクリー調整相(経済担当)が2月28日夜発表した。首都ジャカルタなど国内各地では1日、学生や市民団体による抗議デモが展開されたほか、与野党の国会議員の間でも値上げ反対論がくすぶり、昨年10月に就任したユドヨノ大統領にとってはスマトラ島沖地震・津波に続く大きな試練となるのは確実だ。
 石油燃料価格の値上げは、原油が47%上昇したのを筆頭に、ディーゼル油が39%、普通ガソリンが33%上昇。これによりガソリン価格は1リットルあたり1810ルピア(約20円)から同2400ルピア(約27円)となった。
 ジャカルタでは1日、大統領府前や中心街で学生や市民団体数千人のデモ隊が繰り出し「値上げを撤回せよ」などと叫んで気勢を上げた。国家警察は全土で全警察部隊の3分の2を市街地やガソリンスタンドなどの石油関連施設に配置し、厳戒態勢を敷いている。
 ユドヨノ政権が値上げに踏み切ったのは、1997年以降の経済危機からいまだに立ち直れないインドネシア経済の本格再建を目指す政権の強い決意を示すものだ。というのも、同国では財政健全化には石油燃料価格の値上げが不可避なのは自明であるのに、従来の政権は国民の反発を恐れ、この問題にメスを入れるのを避け続けてきたからだ。
 問題の根源は、独特の燃料補助金制度の存在だ。インドネシアは石油輸出国機構(OPEC)に加盟する産油国であるにもかかわらず、原油の精製能力が低く、ガソリンや軽油などの燃料需要の8割を輸入に頼っている。そのため政府は国内の燃料価格が国際原油価格の変動の影響を受けないようにするため、各年予算の経済指標で想定原油価格を決め、実際の国際価格が想定価格を上回った場合、差額分を政府が補助する方式をとってきた。
 しかし、昨年来の原油高騰で、補助金の額は急激に膨張。バクリー調整相は記者団に「国際原油価格が1バレル=50ドルを突破するような状況下では、値上げしないと補助金は約79億ドル相当に達する。値上げすれば逆に補助金は21億ドル相当で済む。結局は国民全体の利益につながる」と強調した。
 ユドヨノ政権は、昨年12月にユスフ副大統領が最大野党のゴルカル党総裁選で勝利し同党が最大与党に転じたため国会に強固な支持基盤を確立。日米などの主要援助国も「経済再生には価格改定は避けて通れない」(外交筋)と理解を示す立場が圧倒的で、政権としても値上げに踏み切りやすい下地は整っていた。
 ただ、メガワティ前政権が2003年1月に軽油やディーゼル油の値上げを発表したところ今回と同様に大規模な抗議デモに発展し決定を撤回。メガワティ氏が翌年の大統領選で大敗する一因となった。
 政権は低所得者層が利用する家庭用灯油は1リットルあたり700ルピア(約8円)に据え置いたほか、貧困層への教育費や医療費などの補助制度の充実を打ち出すなど、懐柔策にも躍起だ。
 しかし、親ユドヨノ系の民間調査機関LSIが1日発表した全国世論調査では、ユドヨノ氏の支持率は66%と、就任直後の80%から14ポイントも低下した。連立与党の一角を担うイスラム保守派の福祉正義党も「値上げの延期」を要求しており、ユドヨノ政権が苦しいかじ取りを迫られる事態も予想される。