050306  北の核兵器保有発言に関する元自衛官たちの見解: 日本はどう対応するか?
 
北朝鮮が「核保有宣言」をしてから間もなく1ヶ月になりますが、国際的にも、
日本国内でも比較的冷静な反応、というかむしろ冷淡な印象です。金正日の
ブラッフ(恫喝)や瀬戸際外交に一喜一憂する必要は全くありませんが、今後
どのような事態の展開があるか分からない状況においては、やはり最悪の事態を
も想定して、日本としての対応の仕方を日頃から考えておくべきであると思い
ます。
 
今から41年前、ちょうど東京オリンピックの最中(1964年10月)に突然中共
(当時日本では中国をそう呼んでいました)が最初の核実験を行なったとき、
日本人は当初不意を衝かれてどう反応してよいか分からず、本格的に対中抗議
を行なったのはしばらく経ってから、という醜態を演じました。当時の中国の核
と現在の北朝鮮の核とでは比較にもなりませんが、今後の状況の変化いかんに
よっては、いたずらに感情論が先行して妙な方向に突っ走る危険性がないとは
言えません。そのようなことのないよう、「非核」を国是とし原子力平和利用
に徹しているはずの日本人としては、今の段階でしっかり事態を分析し、対応を
考えておく必要があると思います。
 
今日偶々拙宅に舞い込んできたあるメルマガ「軍事情報号外」に元自衛官たちの
見解というのが載っていました。小生がこれらの意見に全面的に同調しているわ
けではありませんが、比較的筋の通った意見であると思いますので、1つの参考
情報として特にご紹介します。小生自身の考えは、拙著「日本の核・アジアの核:
日本人の核音痴を衝く」(1997年 朝日新聞社刊)などである程度明らかにして
ありますので、関心のある方はご高覧下されば幸いです。
 
以下の元自衛官たちの意見にコメントや異論のある方々は、この機会に大いに
発言して下さい。匿名配信もお受けします。
--KK
 
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★北の核兵器保有発言に関する元自衛官たちの見解
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先日、北朝鮮の金正日氏が核兵器保有を正式に認めました。
これにより、わが国の国防は「核による攻撃」という具体的な課題に対して、
装備、作戦を考える必要が出てきました。

本件について、いつもお世話になっている元自衛官の方々からご意見が集まり
ましたので、お伝えいたします。

なお、これらはあくまで個人の見解であり、防衛庁・自衛隊の見解ではないこと
をあらかじめお断りいたします。

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◆「北鮮は核兵器の製造を公式に宣言しましたが、何か奥歯にモノの挟まったよ
うな印象を受けます。金正日の誕生日をわざわざ外した発表も何だか変ですね。

我が国の反応もそのせいか拍子抜けするぐらい低調です。やはり、「核実験を
しなければ本気で信じられないよ」というところでしょうか。

イスラエルはかつて南ア連邦と組んで喜望峰南方で密かに核実験をやりました
が、自分では沈黙したままで核保有に成功しています。本当の核武装ならイス
ラエル流の方がはるかに抑止力として有効な感じです。

イラクのように大量破壊兵器保有を否定しても疑われる国もあるのに、わざわ
ざ製造を宣言するのですから、六ヶ国協議上その方が有利とみた単なる「張り
子の虎」なのかもしれません。

もし北鮮が本当に核弾頭のBM(弾道ミサイル)を実戦化したのなら、我が国の
反応は違ったものになるでしょう。
核兵器の被害を既に二度も経験しているだけに、 もし北鮮が核実験をやった
ら世論がどのように動くか予測がつきません。
核のドミノは始まるのでしょうか?

日本人は昔から本気になれば迎合宥和の方には行かない国民性です。
いずれはBMDに関して完全なミサイル防御の難しいこと、それが核弾頭ならば
MAD=相互確証破壊(注)しか真の防御策は無いことに気付くのではないでしょうか。
そのとき、国民世論は核の傘を米国に差し掛けてもらっていることに安住する
でしょうか?
でも、米国との関係がこじれていては核の傘も期待できないと同時に、独自の
核武装の選択肢もまた極めて困難です。米国と友好緊密で且つ核武装に至る
ようなアジア情勢って……考えるだに怖ろしいですね。

私の管見では、そのときはまず通常弾頭のトマホークのような巡航ミサイルを
導入する、その後の情勢の推移を見て世論が核保有に傾けば核弾頭に移行する、
というようなことになるかな?と思います。
巡航ミサイルはBMに比べれば安価で柔軟な運用の選択肢があるからです。

国連安保理事会の現常任理事国の暗黙の資格に「核クラブ会員」がありました。
台灣が追われ共産中国が入れ替わったのもこれでした。
現在議論されている常任理事国の増加候補のうち、インドは既に核武装しまし
た。ドイツは欧州統合の深化によって事実上この問題をクリヤしそうですし、
残るはブラジルと日本です。将来、このことも日本の核の選択に微妙な影響を
与えるかも知れません。

今から20年余前の米陸軍大学の論文に“2015年の世界は核保有国が22
ヶ国に増えているだろう。日本は数発〜十数発を保有しているだろう。”と予
測していたことを思い出します。
(手元の原資料が見付からないので、数値には記憶違いがあるかも知れません)
当時は「日本が核武装なんてまさか……」と一笑に付す感じでしたが、今では
「もしかしたら、そうなるかも……」と思わないでもありません。

中国は東アジアの大国としてヘゲモニーを握るには、核のドミノに陥ることを
阻止することが不可欠です。
その意味からも、北鮮の核実験を必死に阻止するのではないでしょうか。
でも最近の北鮮は中国の言うことをどうも素直に聞かないようですね。」

注)相手から先制攻撃を受けた場合でも、その攻撃に耐えて相手に対して耐
え難い損害を与えることを確実に保障する戦力を持つことによって、核攻撃を
抑止するという戦略のこと。Mutually assured destruction=MAD
http://homepage3.nifty.com/kubota01/NuclearStrategy.htm


◆「独裁国家の怖いところは少数の人間の思いこみで国が動いてしまうことです。
閃きで核を使われてはかないませんね。

韓国の大統領が対日圧力を強め、雰囲気で朝鮮を同胞として扱おうとしている
ので南侵は機が熟してきていますね。

最近世の中の動きに疎くなっていますので、的はずれかもしれませんが韓流と
かヨン様とか危機感は無いと思います。
愚民政策が浸透して目先の快楽に反応しているように見えます。
会社の朝礼でアジアのきな臭さを訴えても反応はほとんどありません。
戦争、侵略があり得ることを考えようとしていないようです。
何せ、平和ですから・・・

核は・・・難しいですね。
個人的には、言ったことに責任を持たなければならないと思っています。
が、話の次元が違いますね。
アメリカが核を使うのを黙視するのであれば、属国(?)が持っているのと基
本的に変わらないような気もするし・・」(元陸自隊員)
 
◆この宣言に対する、国内世論の現在の反応をどう捉えておられますか?

センセーショナルな宣言の割に反応がないと思います。
多分当然持っていると考えていた人が多かったから、「やっぱりか」というこ
とではなかったのでないでしょうか。
ただこれにより今までは我が国として北朝鮮に対し、核は持ってるかもという
不確かな対応しか出来なかったのですが、正式に核の対応が出来やすくなった
のではないかと考えています。
   
◆自衛隊は核武装したほうがよいと思われますか?

ご存じのように自衛隊の核武装については、前提として現在の自衛隊のままで
は核武装の議論自体出来ない状況です。
自衛隊ではなく日本国として核武装すべきかという問題に対して答えるならば、
近隣の諸国に比し圧倒的に少ない通常戦力を補う手段として有効な方法と考え
られます。

ただ、軍事的にはそう思うのですが、他のデメリットの方が多すぎて、いつで
も核武装化ができる準備を整えて抑止力として威嚇しておくのが得策かと考え
ます。」(元陸自3佐)

◆この宣言に対する、国内世論の現在の反応をどう捉えておられますか?

良く言えば冷静に受け止めている様に感じますし、悪く言えば他人事と捉えて
いる様に感じます。「北朝鮮?そんなの関係ないよ。」と言ったところでしょ
うか。
社○党の議員に至っては自衛隊がMDに関する予算を取った事を指して「軍拡
路線に走るのは許せない。」等と北朝鮮労働党日本支部としか考えられない発
言をしています。社○党に関しては、怒りを覚えると言うよりは呆れてしまう
限りです。
過去に核攻撃を受けたからと言って、それが『次はあり得ない。』を保証する
ものとは思えません。

◆自衛隊は核武装したほうがよいと思われますか?

基本的には不要と思います。
核武装は膨大なコストが掛かると思われる事、日米安保で十分に補える事が理
由です。
但し、アメリカに対して「日本が核攻撃を受けた場合は、アメリカが報復核攻
撃を速やかに行う。」と言う公式回答を文書で要求し、それを公表する必要が
あると思います。

もしアメリカが回答を拒否した場合は、日本のNPTからの脱退と核武装をアメ
リカが支持する事を要求すれば、アメリカも回答拒否は行わないのではないで
しょうか。それさえもアメリカが拒否した場合には核武装を本気で考える必要
があるかも知れません。

いずれにしろ核武装云々より、まずは政治面で対処すべきだと思いますし、十
分に対処出来ると思います。」(しの。さま)


◆初めに、私見とお断りさせていただきます。

国内世論については、北朝鮮についてマイマスで間違いないと思います。
これだけ国家的犯罪が明らかになっている状況下で、なおも、それを否認し、
否定する主権国家に対しその言い分に賛同する方はその方面の方でしょうから
問題にしませんが、今までより多くの方が北朝鮮について判断を改めるいい機
会だったと思います。
気楽にも、「話せば分かると」考えていた人たちのことです。(そういうかた
は養老さんの本を読んでください。)

今時とはいっては何ですが、某新聞社の宣伝も影響力が薄れている今日この頃、
国民もバカじゃないことを見せ付けるいい機会だと思います。実際CIAの報告
もあり、核の話になっていますが、最悪の状況を考えるべきと思います。なぜ
ならそれが国家としてあたりまえのことだからです。

政府首脳は国民は税金を払っていることを念頭においていただきたいです。
何のための税金か!特に外務省のチャイナスクールの方々。省益ではなく 国
益を考えて欲しいというのは私が現役の頃からのことです。

自衛隊の核武装については、現場(だった)立場からすると、このような状況下
の主権国家として当然必要でもありますが、十分慎重にならざるをえない立場
とも思います。
核の抑止力について前線にいた人間は当然意識し、国家の意思の推進する手段
として有効とおもいますが(あくまでも抑止力として)一般レベルではそこまで
の認識はないと思います。

今の日本人の意識ではDPRK(北朝鮮)の核について「MDでお金を出せば大丈夫」
というものがありありと感じますが。そこまで単純(簡単に防御)ではないのが
MDであり、政治家もあえて言っていませんし。
実際24時間365日の防衛体制、それがDPRKであるということは現場にしてみれ
ば悪夢以外何事でもありませんですし、交代を考えるとイージス艦4隻体制で
も一杯一杯です。

結論を言えば核武装は簡単ですが、周辺諸国の見方を考えれば安易にとる道で
はないと考えます。お金さえ掛ければ(警戒レーダー、PAC3、中SAMの改良)な
んとかなるのではないか、同時に周辺国に理解をもとめつつ、自国の防衛につ
いて、理解をしていただくのが得策ではないかと思います。」
(元海自 ミサイル員)


◆日本人らしいというべきなのでしょうか。

核兵器の使用を辞さない相手に対して、他国の顔色を伺い、アサリの水揚げ高
を計算している政府を見ているとがっかりします。
多分、打撃を受けるのは、北朝鮮産の海産物を販売している我が国の業者くら
いでしょうし、名称が中国産に変わって、輸入されるだけのことでしょう。

北朝鮮も核兵器を使用すれば自分達もおしまいなのは解っているはずです。
北朝鮮の外交は以前から何も変わってはいません。北朝鮮を支配下に置きたい
中国や南北統一を狙っている韓国に、我が国の拉致問題を提示しても時間の無
駄です。日本のことなど真剣に考えることはあり得ません。
政府もそのことは解っているはずです。にも関わらず政策に何の変化もないの
はなぜでしょうか。

現在、我が国の経済は、中国や韓国などの動向に委ねられています。韓国ドラ
マを輸入し、テレビCMでは中国語が飛び交っています。10年前には考えられ
なかったことです。

経済に多大な影響を受けつつある現状では、最早、我が国は先進第一級の地位
から転落を余儀なくされていると言わねばなりません。頼みの米国ですら、イ
ラクの大量破壊兵器の存在が未確認であったにも関わらず侵攻したのに、今回
の北朝鮮の核兵器保有については、具体的な作戦行動はとられていない有様で
す。

◆なぜでしょう。

もちろん石油資源の確保もあるでしょう。
今や米国までが中国や韓国の工業生産力に多大な影響を受け、その存在に遠慮
している現状では、北朝鮮にとって我が国など眼中にないことは明白です。
だからといって、北朝鮮が核兵器を保有したからといって、我が国が核兵器を
保有すべきであるとは、私は考えておりません。

60年前、我が国は、戦術核兵器を除けば、世界で唯一の被爆国となりました。
自衛隊でも当時の有様の教育を嫌というほど受けました。私個人としては、核
兵器は人間が使用して良い兵器ではありません。卑怯者の史上最低の兵器であ
ると考えております。地球上の如何なる国家も、核兵器を使用してはならない
と考えます。
その兵器の保有そのものを総ての国家が放棄すべきであると思います。

奇麗ごとでは国を防衛することはできませんが、もし我が国が核兵器の保有を
行えば、中国を始め各国が矛先を我が国に転じることは目に見えています。我
が国のように資源のない国家は、他国と友好的経済活動を行わねばなりません。

我が国はかつて経済的に困窮し、世界を相手に戦争を始めてしまいましたが、
これだけ世界的に人や文化や経済が交流し、お互いを知る機会が増えてきた現
代で、今の北朝鮮をみていると、まともな国家のやることとは到底考えられま
せん。

北朝鮮にどのような理由があろうと、世界中の総ての国々は、他国に対し自国
の利益の為に核兵器の使用をちらつかせて、相手を恫喝するような国家の存在
を断じて許してはならないと考えます。」
(侍魂さま)


【アメリカを根元から知ることのできる新刊】
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【元海自幹部が読んできた本】
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