050308  京都議定書の発効と今後の対策: 「濡れたタオル」vs「乾いたタオル」
 
京都議定書が発効して3週間になりますが、地球温暖化をめぐる内外の情勢は相変わらず
厳しいものがあります。問題点は大方論じ尽くされているようですが、この辺でもう一度
おさらいをしておいてもよいかと思います。次にご紹介するのは、今朝拙宅に舞い込んで
きたあるメルマガ(国際戦略コラムNo.1922)に載っていたもので(筆者はどのような人か
存じません)、とくに目新しい内容ではありませんが、述べられていることは概ね常識的
で素直に読めると思います。但し、環境税については異論がある方もおられましょう。
 
ちなみに、冒頭に出てくる「かけがえのない地球」という言葉は、他でもない小生自身が
35年前、外務省で初代の環境問題担当官として第1回国連環境会議(ストックホルム会議=
1972年)の準備作業を担当していた当時創案したものです。信用できないと言う方は小生
個人のホームページ(http://www.eeecom.jp/)をご覧下さい。ご参考まで。
--KK
 
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  京都議定書の発効と今後の対策  
 
      〜CO2大国米国の取り込みがカギ/環境先進国日本は主導的役割を〜 
 
                          経済評論家 鳴澤 宏英
<遺憾千万な米国の議定書離脱>

 「かけがえのない地球」の環境保全は、人類共通の重要かつ喫緊の課題である。二酸化
炭素(CO2)をはじめとする地球温暖化ガスの排出量削減を目指す京都議定書の発効は、
この壮大な目標に向けての第一歩として評価される。ただその内容には欠陥が多く、効果
は限定的だ。この点については、内外のメディアが詳細に報道しているので、ここでは重
要な論点に絞って私見の一端を披露してみたいと思う。
 
 (1)、米国の離脱。〇一年、就任直後のブッシュ大統領は、米国経済の利益に反する
 との理由で、早々(はやばや)と議定書からの離脱を表明した。同国の単独行動主義の
 端的な表れであり、遺憾千万と言うほかない。世界の温暖化ガスの約四分の一を占める
 米国は、議定書によって九〇年水準より7%の削減(〇八−一二年まで)を義務づけら
 れていたから、米国離脱の影響は甚大だ。

 二期目に入っても大統領は路線変更は頭にないようだ。わが国は欧州連合(EU)と協
 調して米国の議定書への復帰を求めるべきだが、それと並行して第二段階(一三年以降)
 の枠組み合意に米国を取り込むことも重要である。なおオーストラリアが米国に追随し
 ている事実も見のがし得ないところだ。

 (2)、発展途上国の立場。議定書採択の時点で、途上国側は、地球温暖化をもたらし
 た張本人は先進国であり、そのツケを途上国に回すのは不当、との論理をたてに、強硬
 に反対した。たしかに環境(公害)問題を巡っては、汚染者負担の原則(Polluter
 Pays Principle・PPP )があり、途上国側の主張はその国際版として一理あるのは
 事実。結局、途上国には削減義務を課さないとの妥協が成立した。

 爾来、中国やインドは、温暖化ガスの排出を顧慮することなく、工業化を進め、今や先
 進工業国と並ぶガス排出国となった。両国を除外した枠組みではあまりにも抜け穴が大
 きい。

<ロシア、EUは「濡れタオル」>

 (3)、ロシアの批准と議定書の発効。ロシアは途上国ではないが、削減負担はゼロで
 ある。その背景は、九七年当時、同国経済は低迷し、温暖化ガス排出量が落ち込んでい
 た上に、広大な森林のもつCO2吸収効果が大きいという特殊事情だ。議定書批准に踏
 み切ることで、排出量の55%を占める締約国の批准という条件が充足され、米国抜きで
 の議定書の発効が実現することとなった。それ自体歓迎すべきことだが、その裏には、
 同国の冷徹な計算があった。

 ロシアは今後省エネ、環境負荷の軽減によって排出量の削減を図る余地が大きい。「濡
 れタオル」の論理で、絞ればいくらでも水が出てくる。それを排出権取引に乗せて外国
 に売却し、外資を獲得する道が開かれる。しかもいざというときには、離脱という選択
 肢がある。どのみち損はないとの読み筋である。

 (4)、EUの立場。それに比べるとEUの立場はきびしいものがある。まず削減のノ
 ルマが8%で最大である点については、やはり濡れタオルの論理が当てはまる。西欧諸
 国は総じて石炭への依存度が高く、石油さらには天然ガスに転換することで、環境負荷
 を軽減する余地が大きかったからである。加えてEUは元来環境への関心が格段に高く、
 風力、太陽光、バイオマスなどのエネルギー源の開発を積極的に進めてきた。その結果、
 九〇年水準維持はともかく、排出ガス量の増加を最小限に抑えることに成功した。しか
 し今後の課題は重い。EU内でも慎重論が台頭し、足並みの乱れも現れている。なおド
 イツの場合は、旧東独が褐炭(brown coal)を多用していたという特別の事情もあり、
 排出ガス削減への「のりしろ」は英仏より幅広いという利点があった。またEU諸国で
 は、企業間の排出権取引、そのための市場制度の面でも他に先行している。この点も見
 のがしてはならない。

<CDM活用と環境税の検討を>

 (5)、わが国の重い課題。EUに比べるとわが国の背負うノルマはきわめてきびしい。
 九〇年比の削減率は6%だが、現在の排出量はすでに8%上積みされており、〇八−一
 二年までに14%の削減を求められている。

 この目標達成はきわめて困難と言わざるを得ないが、それにもまして問題なのは、わが
 国が、二度にわたる石油危機を経験して、省エネ努力を極限まで進めてきたこと。その
 結果、「乾いたタオル」―が現実となった。「濡れたタオル」との対照的な事態は、皮
 肉にもわが国の負担を加重する結果をもたらしたのである。

 それに対応するには、正攻法とみられる各種の対策とともに、ふたつの有力な方策があ
 る。その第一は、京都メカニズムの活用である。「クリーン開発メカニズム(CDM)」
 とは、わが国が対外投資なり技術移転によって、相手国の温暖化ガス排出削減に貢献し
 た場合、それをわが国の実績としてカウントできるという方式である。もうひとつは環
 境税(炭素税)の導入。これについては、北欧の先例が参考となる。ノルウェーの環境
 担当大臣は、筆者に対して、炭素税導入についてふたつの狙いを強調した。?価格メカ
 ニズム(経済原則)による省エネ効果を期待したもので、税歳入増が目的ではない。?
 それゆえ税収は一般財源とし、それに見合う減税によって、歳入中立化を図った――の
 二点である。示唆に富む先例だと思う。