050314  エルバラダイ構想を「多国間核管理構想」と呼ぶのは間違い)  六ヶ所再処理工場との関係は?    
 
エルバラダイ構想である"Multilateral Nuclear Approaches"(MNA)を日本語でなんと訳すべきか、をめぐって、吉田康彦氏から「多国間核管理構想」と訳すのは間違いであるとの指摘に対し、シグナスX-1氏から必ずしも間違いではないというコメントをいただきましたが、これに対し、吉田氏から再度次のようなコメントが寄せられました。末尾に小生の蛇足的コメントもあります。ご参考まで。
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「シグナスX-1」氏へ

ご指摘ありがとうございました。小生、国連機関に10年間勤務していた間、international, global, multinational, multilateral の用法には常に神経を注いできました。厳密に定義して概念の違いが強調される場合と同義語、類義語として同じことの言い換えとして使う場合があります。しかし、今回の報告書では前者で、きちんと定義して使い分けているわけで、ローレンス・シャインマン氏も「定義にかなりの時間をかけて討論した」と言っていました。遠藤哲也大使も「多国間」は語弊があるから、「日本語でも自分はマルチラテラルで通す」と語っていました。

「multilateral には、”involving or participated in by more than two nations or parties” というように、立派に『多国間の』という意味も存在しています」とおっしゃるが、最後の”parties”が曲せ者で、日本語では通例、「当事者」と訳し、「国家」以外の主体を指す場合が多いのです。報告書では、民間企業、国際機関などがそれに相当し、これらの非国家主体(non-state actor)が保証人(guarantor)、世話人・管理人(facilitator)の役割を果たす例が数多く紹介されています。

「だから、multinational, international ・・・とは違うのだ」と報告書は区別して使っているのです。たとえば、六ヶ所村の再処理施設では、民間企業である「日本原燃(株)」, IAEA,日本政府が協定を結んでいます。これは multilateral ではあっても、multinational ではありません。欧州のURENCO、EURATOM、IAEA が「3者協定」を結んでいます。これも multilateral ではあっても「多国間協定」ではありません。actor(s) がいずれも国家(政府)で、3者以上存在する場合のみが「多国間」です。

エルバラダイ構想ならびに今回の報告書のタイトルを「多国間核管理」とするのは、やはり間違いです。 multilateral facilities を「多国間(の)施設」と訳すのも誤りです。日本語では、これは「数カ国にまたがる施設」を意味します。

吉田 康彦
E-mail: yy2448@chive.ocn.ne.jp
URL:http://www.yy2448.com
 
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金子の蛇足的コメント>
 
Multilateralをどう訳すかも重要な問題ですが、それよりもっと重要な、本質的な問題は、果たして複数の国(または企業)が管理する核燃料サイクル施設の方が単一の国が管理する場合よりも実際に安全か(核拡散のリスクが少ないか)ということでしょう。確かに自国の核燃料施設を自国だけで規制管理するのは国際的に信用されないということは、英語の古諺で「人は自分自身の裁判官にはなれない」(One cannot be his own judge)というように、国際政治は元来国家性悪説に基づくものであるから当然のことです。
 
しかし、一方、多数国(者)による工場だから安全だとは限らない、否むしろ危険だというのは、パキスタンのAbdul Qadeer Kahn博士(「核の闇市場」の中心人物)がURENCOからウラン濃縮技術を盗んだことを引き合いに出すまでもなく、言えることであって、何でもかんでも多国(者)化すればいいと言うものではありますまい。このことはScheinmanもEEE会議での意見交換会(2/21)ではっきり認めていたところです。
 
一番大事な問題は、核拡散が起こりにくいようにするためにはどのような運営形態あるいは操業方法が良いかであって、単一国家による工場であっても、IAEAの保障措置が確実にかかっているものはよい、という原則をはっきりさせることだと思います。六ヶ所工場については、1970年代末、我々がINFCEをやっていた頃から20年余に亘ってIAEAと繰り返し協議して「大規模再処理工場に効果的な保障措置を行なうにはどうしたらよいか」を徹底的に追求した結果現在のような極めて精緻な保障措置体制が出来上がっているわけで、このことをもっと積極的に国際社会にアピールする必要がある、その点で日本政府も日本原燃(株)もまだ努力が足りない、エルバラダイ構想で六ケ所工場が影響を受けるのではないかを心配する前にもっとやるべきことがあるのではないか、と小生は思います。この点について、関係者からの反応を期待します。
--KK