050314  Re: FBR再提言案(第1次案)に対するコメント:  豊田正敏氏
 
「我が国の高速増殖炉開発に関する再提言案」(第1次案)に対して以下のようにコメントします。

1. 我が国のエネルギー・セキュリティー:政府のシナリオは甘すぎるのではないか?

世界的に見て石油がピークを過ぎており、その一部を原子力の拡大によって賄うべきであることには異論がな
いが、石油は、航空機、船舶などの輸送用、石油製品、炭素繊維及び暖房など熱源の一部に必要であり、電気
としてのエネルギーの比率は世界的に見て3割程度に過ぎない。また、電源として原子力の比重を5割以上に高
めることは事故や地元の反対などによる長期停止を考慮するとエネルギー・セキュリティ上問題がある。電源
の多様化とベストミックスが求められる。
わが国の2050年のエネルギー・セキュリティー問題については、中東のみに依存するのではなく、サハリンや
シベリヤの石油、天然ガス開発に積極的に関与するとともに、東シナ海油田についても遅れをとらないように
すべきである。日本としては、当面、石油及び天然ガスの確保に世界に遅れをとらないようにしなければ経済
成長は期待できず、やがて滅亡の一途を辿るであろう。また、水素や石炭の液化などの開発を推進すべきであ
る。
また、高速増殖炉の議論も論理の飛躍がある。今世紀中は、ウランは枯渇することはなく、価格も200~250ド
ル/kgUを超えることはないと考えられているので、軽水炉と経済的に比肩し、軽水炉と同等の安全性及び運転
の信頼性が得られる見通しがなければ、国も電力会社もその導入に踏み切ることは出来ないであろう。

2. 高速炉増殖開発実用化のスピード:2015年まで何もしないことになりはしないか? それでよいのか?

高速増殖炉の実用化のための技術開発が計画通り進まず、技術開発のスピードが遅すぎることは私もしばしば
指摘した所であるが、その主な原因は技術開発を担当するJNCの進め方及び実際に詳細設計、機器製作や建設
を担当すべき原子炉メーカーの協力が十分でないことにあり、これらについてその原因を追求し、具体的改善
策を示すべきであり、国の責任のみを問題にするのは筋違いである。
先ず、現在、JNCが中心で進めている「実用化戦略調査研究」では、フェーズUで固有の課題解決の見通しを
得た上で、
ステップ1 (2006~2010年)
要素技術開発設計への反映、成立性評価への反映及び概念の見直しなど主要革新技術の開発
ステップ2 (2011~2015年)
要素技術開発成果を反映した概念の成立性について工学規模の試験による革新技術の確証
に進む。なお、この計画の実施にあたっては、5年毎にチェック・アンド・レビューを受けつつ、ローリング
プランで進めることとしている。このスケジュールは極めてタイトであって、JNCの組織、陣容で、かつ所要
資金の確保の点で実現できるか疑問である。特に、並行的に進める必要のある再処理技術について方式の絞込
み及び工学規模のホット試験の実施による確証を考慮すると不可能に近い。

しかし、2015年という期限を切ってそれまでにステップ2を完了させ、それに基づきプラント詳細設計を実施
した上で原子炉メーカーによる見積もりを徴収して、その結果により、軽水炉と同等の経済性が得られること
を確認した上で、実証段階に進むこととすべきである。

ここで最も問題なのは、ステップ2を完了するまでの原子炉のみでなく、再処理及び燃料加工技術までの革新
技術の確証試験を含む開発資金はおそらく2000億円程度にはなるであろうと考えられるが、この調達が可能か
ということである。電力自由化が進み、軽水炉の技術改良及び技術維持のための研究開発費も難しくなってき
ている現在、電力会社が従来のように高速増殖炉の技術開発に資金的協力ができる状況にはない。一方、文部
科学省は、研究開発は分担するが実用化のための実証技術開発はその使命とは考えていない。また、経済産業
省は、軽水炉の安全確保、技術改良、技術維持に手一杯で、実用化の見通しが不透明であり、かつ自分の管轄
にない機関の予算獲得に努力するとは到底考えられない。従って、これを解決するためには、高速増殖炉の実
用化のための技術開発を経済産業省の分担に移し、従来のJNCは原研と統合するのではなく、経済産業省の管
轄下に置くことが肝要であると考える。勿論、このようにしたからといって、JNCの開発する高速増殖炉が軽
水炉並みの経済性が得られる見通しが得られなければ、実証炉の実現は難しいと考える。

3.以降の項目
上述のように、2015年までは実用化できるかどうか不透明な現在、その見通しが得られない可能性も高いにも
拘わらず、実証炉の建設体制とか、資金分担を議論するのは時期尚早である。その見通しが得られないまま
で、資金を提供する機関や企業はないと考えるべきである。実証炉というのは、実用化の見通しが得られた段
階に、その見通しが正しいことを実証するための原子炉である。

4.の「国は2050年以降の国民の生死を握ると考えられるエネルギー・セキュリティー確保のために」高速増殖
炉が是非必要であるというのは不適当であり、高速増殖炉が軽水炉並みの経済性が得られなければ、少なくと
も今世紀中は軽水炉のみで対処できるし、他にもいろんな対策が考えられる。

5.の「新型転換炉(ATR)、燃料再処理、ウラン濃縮等の商用化前の研究開発が精力的に実施され、それなりの
成果を挙げてきた。しかし、基本設計思想や不具合情報等の情報開示等について国(旧動燃)は極めて消極的
であった。このため民間への技術移転に失敗したといえるであろう。」という表現はおかしい。ATRは予想外
に高すぎる結果になったのが原因であり、ウラン濃縮は国際価格の3~4倍となった上に、回転銅の振動でバタバ
タ止まる欠陥商品であった。しかも、民間会社が見かねてベロー無しの回転銅を開発したところ、動燃の幹部が
民間会社を厳しく叱責したと聞く。

5.の「高速増殖炉の建設は、政府が大型の補助金を出すことにより、将来商用炉の運営をすることになる電力
会社が中心となり、基本設計、研究開発のフォロー、プラント設計、用地の選定等一貫した計画を進めていく
方法が最も現実的であると考える。」は、「高速増殖炉の建設は、国の委託により、将来商用炉の運営をする
ことになる電力会社が中心となり、基本設計、プラント設計、用地の選定等一貫した計画を進めていく方法が
最も現実的であると考える。ただし、原子炉及び燃料は国の所有とすることを条件とする。」と訂正すべきで
ある。以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp