050315  Re: エルバラダイ構想を「多国間核管理構想」と呼ぶのは間違い)  吉田康彦氏⇔シグナスX-1氏   吉田氏再々コメント(マルチラテラル)

 
標記テーマをめぐる吉田・シグナスX-1論争に関し、吉田氏から次のような再々コメントが届きました。ご参考まで
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反論ではなく、補足説明します。

(1)確かにIAEAという国際機関が私企業と法的拘束力をもつ契約、取り決めなどを結ぶことはありませんが、現実には、台湾という地域(非国家)の原発管理者と保障措置に関する法的文書を取り交わしています。今後は先進国の民間企業とその種の文書を交わすこともありうるという前提で、専門家会合の議論は行われたようです。

(2)エルバラダイ提案の段階では、multinational だったのが、同提案を受けて発足した専門家会合で、さまざまな実態、将来の可能性を検討した結果、multilateral に言い換えたと聞いています。つまり前回のメールで説明したとおり、両者の語法上の違いをきちんと定義して後者を選択したということです。それを聞いていたので、小生もこだわっているのです。

(3)外務省は、遠藤提案で、今後すべての文書を「マルチラテラル」というカタカナ表記で統一することにしたそうです。ただし、知人の新聞社デスクとも話しましたが、一般読者を対象とする新聞は、そこまで厳密である必要はないし、カタカナではわかりにくいので、「多国間」あるいは単に「国際管理」で通すそうです。

(4)以下、金子さんの「蛇足コメント」に対する回答。ご指摘の通り、「マルチラテラル核燃料サイクル管理」がかえって拡散のリスクを拡大する可能性はあるわけで、その点は、専門家会合も認めており、報告書の要約(Executive summary)のパラ18に次のような記述があります。「長所は、各国の専門知識を集約するという利点があるが、短所としてはノウハウの広がりや分離プルトニウムの返還に関連する不拡散上の問題がある」(外務省仮訳)。しかし、これも「追加議定書」が厳密に適用され、履行されていれば解決できるというのが報告書の結論のようです。小生もそう思います。「追加議定書」批准・締約国が現時点でまだ64カ国にとどまっていることが問題です。

(5)しかし、技術がいかに完璧でも、世の中に100%確実、絶対保証の法制度、システムは存在しないわけで、国内法でも犯罪発生ゼロの社会はあり得ないのが現実です。テロ対策をいかに講じても、テロリストの発生をゼロにすることは不可能と思われます。限りになくゼロに近くする努力をする以外にありません。急がば回れで、貧富の差をなくす、社会の不平等をなくすのが根本的解決策だと国連は結論づけています。

(6)六ヶ所村の将来構想については、金子さんと同感です。アジア太平洋の原子力平和利用センターに開放するくらいの展望は不可欠です。「自分さえよければ」という了見の狭い発想では、国連安保理常任理事国入りも東アジア共同体構想推進の資格もありません。以上。

吉田 康彦
E-mail: yy2448@chive.ocn.ne.jp
URL:http://www.yy2448.com
 
 
----- Original Message -----
From: Kumao KANEKO
Sent: Tuesday, March 15, 2005 8:54 AM
Subject: EEE会議(Re: エルバラダイ構想を「多国間核管理構想」と呼ぶのは間違い)  六ヶ所再処理工場との関係は?  吉田康彦氏⇔シグナスX-1氏

皆様
 
標記のテーマで続いている吉田康彦氏とシグナスX-1氏の論争は若干semantics(語義論)の様相を帯びてきましたが、重要な問題ですからしばらく続けていただきましょう。吉田氏の反論(3/14)に対しシグナスX-1氏から再反論が寄せられましたので、ご紹介します。ご参考まで。
なお、前信(3/14 吉田氏)に付した「金子の蛇足的コメント」への反論等も期待しています。
--KK
 
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こちらは匿名であり、またしつこいようで大変恐縮ですが、事実関係なので再反論させていただきます。
但し、本当に大事なことは、金子先生ご指摘のようにMultilateral Approachesに核不拡散上の意味があるのかという点であろうと思います。
しかし、1国の複数企業等が関与すれば、それでもMultilateral Approachesの一つであるなとどいうことが、専門家グループでは本当に許容されているのでしょうか。
なお、吉田氏のコメントに、
URENCO、EURATOM、IAEA が「3者協定」を結んでいるとありますが、欧州の場合は、(1) 13の欧州の非核兵器国とEURATOMとIAEA、(2) 英とEURATOMとIAEA、(3) 仏とEURATOMとIAEAが保障措置協定を結んでいるのであって、URENCOのような企業体とIAEAが直接協定を締結するようなことはないと思われます。(ここは蛇足でした。)

さて、吉田氏ご指摘の点はあくまでも専門家グループの見解であって、エルバラダイ事務局長自身は自らの構想をどのように表現していたかは下記のとおりであり、専門家グループへの諮問内容の表現を含め、結構、multinational を使っていたという事実があります。したがって、少なくとも、エルバラダイ事務局長の提案は「多国間(multinational)」という概念であったということは決して誤りではないと思います。本来、エルバラダイ構想といった場合は、専門家グループ報告書の解釈ではなく、エルバラダイ事務局長自身の言葉の方が優先されるべきと思われます。

しかしながら、いずれにしましても、ご指摘のように、エルバラダイ事務局長から諮問を受けた専門家グループの報告書の表題である「Multilateral Approaches to the Nuclear Fuel Cycle」のMultilateral  を「多国間の」と訳すべきではないということは十分に理解いたしました。