050316  「我が国の核不拡散政策と原子力平和利用外交に関する緊急提言案」〔たたき台〕: コメントのお願い
 
当EEE会議では、先般来「原子力国際戦略研究会」において、我が国の核不拡散政策と原子力平和利用外交に関する問題点を洗い出し、その一端を政策提言として取り纏め、公表しようという動きになっております。先日(3/9) の会合で、小生自身がその提言案(たたき台)を書くことになっていましたので、若干拙速ですが、一案を書いてみました。今後標記研究会でこれをべースにさらに議論を深めて行きたいと考えております。
 
つきましては、この提言案(たたき台)に関してコメントや感想のある方は、どのようなものでも結構ですから、どしどしお寄せ下さい。具体的な修正提案等はなるべく原案に赤字で書き込んで送って下れば幸いです。
 
なお、標記研究会の議事メモ(松永一郎・小川博巳氏担当)は別途取り纏め中で、近日中にお目にかける予定です。
 
金子拝


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    日本の核不拡散政策と原子力平和利用外交に

      関する緊急提言案(たたき台)

 

<はじめに:NPT再検討会議を巡る動き>

広島・長崎被爆60周年の今年、第7回目の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議が5月にニューヨークの国連本部で開かれる。発効して35年のこの条約は、近年とみに綻びが目立ち、もはや崩壊も同然との見方が少なくない。しかし、核兵器に関する唯一の国際法規範である同条約は、たとえどんなに不備があっても堅持せざるを得ないと考えられる。とりわけ日本は唯一の被爆国として核軍縮、核廃絶の旗を高く掲げ続けるべきであり、その意味からも本条約を引き続き支持する必要がある。

そもそも、加盟していない国に条約遵守を強制することは出来ないし、条約違反に対し直ちに処罰や制裁を科すことも出来ない。それはNPTの不備のせいというより、国際法制度自体が未成熟で不完全であるからである。例えば、北朝鮮が全世界の非難を承知でNPT脱退を宣言した以上、法的にはこれに対して打つ手はない。唯一の対処方法は国際世論を喚起し、国連の安全保障理事会に本件を付託して制裁を決議することだが、常任理事国5カ国のうち1カ国でも反対したら決議は出来ない。イラン問題も同様である。

だが、そのこと以上に問題なのは、NPT上特権的地位を認められていながら、条約第6条で定められた核軍縮義務を一向に果たそうとしない5カ国(米露英仏中)の怠慢である。あまつさえ9.11以後米国、ロシア等は泥沼化する地域紛争や懸念される核テロへの対抗手段として各種の新型核兵器(ミニ核兵器、地中貫通核爆弾など)の開発を急いでいる有様である。テロに対して核兵器を使用するのはあたかも「鶏頭を割くに牛刀を用いる」如きもので、核兵器は所詮使用できない無用の兵器とみるべきである。

その一方で、米国のブッシュ大統領は昨年2月、新規の再処理、濃縮施設の建設やこれに関連した資材・技術の輸出を制限する新国際核管理体制を提唱。片や国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、ほぼ同様の目的で「多国間核管理構想」(MNA)を提案し、当面5年間再処理、濃縮施設の建設を凍結すべき旨提案している。これに対し、当然ながら、非核兵器国側はNPT第4条で認められた原子力平和利用の権利を害するとして、つよく反発しており、5月の再検討会議での紛糾は必至とみられる。我が国としては、核拡散防止の必要性を認める点においていずれの国にも劣るものではないが、自ら再処理、濃縮を含め高度の核燃料サイクル活動を実施している以上、「既得権」を守りさえすればよしとするのではなく、国際的な議論の帰趨を睨みながら、適切かつ積極的に対処して行くことが肝要である。

 

<硬直した日本の核・原子力外交政策>

 こうした複雑かつ厳しい国際状況の中で、IAEANPT体制の模範生を自認する日本は、一方で米国の「核の傘」に依存しつつ、他方で国内の再処理、濃縮事業を守りながら、核兵器国と非核兵器国の狭間で難しい舵取りを余儀なくされている。一歩間違えると、「日本もまた核武装するのでは?」という疑惑を招きかねない。まさに日本外交にとって正念場である。

 しかしながら、だからと言って、核軍縮については総論賛成、各論反対的な態度をとり、核不拡散についてはNPT至上主義的な硬直した政策を十年一日の如く今後も惰性的に続けてよいのか。NPTは決して明治憲法のような「不磨の大典」でも金科玉条でもない。原爆60周年とNPT発効35周年のこの機会に、日本は従来の核不拡散政策と原子力平和利用外交のあり方を抜本的に見直す必要があると考える。

 ちなみに、核不拡散の面で、日本政府がアジア諸国に対して拡散防止のためのIAEA保障措置(safeguards)や核物質防護(PP)の重要性を広めるために一連のセミナーなどを実施していることはそれなりに評価できる。非核三原則と原子力基本法の下、平和利用に徹して原子力活動を行なってきた日本の経験と知識を国際的に役立てる作業は引き続き地道に行なって行くべきである。

しかしながら、現在の日本は、基本的にG8の一員として「抑える側」に立ち、例えば、ブッシュ大統領の提唱による「拡散安全保障構想」(PSI)の忠実な協力者を演じているが、これは所詮対症療法、彌縫策とみるべきであって、効果は限られている。核不拡散政策は国際安全保障政策の一環であり、NPTはそのための1つの手段であって、これだけを杓子定規に適用することが最善の策ではない。故に、日本は、もっと国際政治、とりわけアジアの現実を踏まえた、独自の、ダイナミックな政策を立案、実施すべきである。検討すべき事項は多々あるが、以下に、当面重要と考えられる事項に限って、若干具体的な政策提言を述べる。

 

<インドとの原子力関係を見直せ>

 まず、NPT上問題視されてきたインド、パキスタン、イスラエルの扱いである。これら3カ国はNPTに加盟しようとせず、すでに「事実上の核兵器国」として一定量の核兵器を保持するに至っていることは今や疑問の余地はない。しかし、この3カ国を十把一からげに扱うことは不適当である。イスラエルは核実験を行ったかどうかはっきりせず、明確な核兵器保有宣言も行なっていないこと、さらに中東という特殊な地政学的状況に置かれており、アジアの主流の動きとは関係が薄いこと等々の事情もあるので、ここでは検討の枠外におく。

 問題は、インドとパキスタンであるが、後者はA.Q.カーン博士を軸とする「核の闇市場」への関与、さらに北朝鮮の核開発との関係も明らかになっているので、日本としては俄かにこの国に対する警戒を緩めることは出来ない。

 対するインドは、原子力開発の分野でアジアで最も古い歴史を持ち、原子力発電の分野でも長い実績を有するものの、未だかつて不正な核拡散行為や原子力密輸を行なったと疑うべき証拠はなく、むしろ慎重に対処、自粛してきたと見てよい。同国がNPTを頑なに拒否している最大の理由はイデオロギー的なもの、すなわち、隣国中国がNPT上核兵器国として格別に優遇されていることに対する不満、中国より遥か昔から高い水準の科学技術研究開発を営んできたという自負、2度にわたる中印戦争での屈辱的敗北の体験とカシミールを巡るパキスタンとの対立に起因する核抑止重視政策等々によるもので、予見しうる将来同国のNPT加盟は期待できない。これはインド亜大陸における政治的現実として認めざるを得ない。

 にもかかわらず、日本は、インドがNPTに加盟せず2度も核実験を強行したとの理由で同国を「村八分」同然に扱い、ODA大綱を几帳面に適用してごく最近まで対印経済協力を抑えてきた(9・11以後米国の対印接近に伴い日本は対印ODA凍結を「解除」した)。このため日印貿易、投資活動も未だに極めて低調である。日印原子力協力に至ってはゼロと言ってよい。

しかるに、近年IT分野におけるインドの躍進には目覚しいものがあり、米国ですら、対印接近を強めている。日本こそ、将来の対中外交の1つのテコとしてもっと対印関係を強化する必要がある。ついでに日印原子力関係も出来るだけ促進すべきである。長い間西側諸国との技術交流を閉ざされていた結果、インドの原子力活動は、ソ連(ロシア)の影響が認められるほか、独自の国産路線をとっているので、直ちに日印で協力できる分野は限られているが、ラジオアイソトープ(RI)・放射線利用、原子炉の安全性(運転、保守、廃棄物対策等を含む)の分野で協力できることは決して少なくない。

もちろん、無条件に日印原子力協力の推進を唱えるものではない。NPTに加盟せずとも、あたかもこれに加盟したかのごとく、核不拡散防止の面で一定の義務を負わせることは必要である。例えば、原子力供給国グループ(NSG)の

ガイドライン(輸出規制指針)の遵守などのほか、将来日本から移転されることあるべき原子力資材、技術等については厳に「平和利用」に限る等の約束を確実に取り付ける必要がある。そうすることによって、インドに当事者的責任感を持たせ、アジアにおける核不拡散と原子力平和利用の確保に協力させることの方が、現在の没交渉状態よりも遥かに現実的であろう。村八分的な疎外(disengagement)より積極的な関与(engagement)の方が建設的という発想に切り替えるべきである。

 

<ベトナムとの原子力協定を早期に締結せよ>

 もう1つの問題点はNPT加盟の非核兵器国である開発途上国との原子力関係である。日本は半世紀前原子力開発に着手してこの方、ウラン燃料や原子炉技術の輸入、濃縮・再処理サービスの購入等、自らの核燃料サイクルに直接関係する国々との交流は極めて密接で、これらの国々とは詳細な2国間原子力協力協定を締結してきたが、中国以外の開発途上国とは一切締結していない。従って、世界有数の原子力技術先進国でありながら、単独での原子力プラント輸出の経験は無きに等しい。

 国内市場だけを相手としていれば事業として成り立った時代はそれでもよかったが、国内の需要が頭打ちの現状において、国内の原子力技術を維持、温存するためにも、旺盛な原子力需要のあるアジア諸国への原子力輸出は望ましいことと考えられる。

 しかしながら、すでにある種の原子力輸出の経験のある台湾と中国を除いて、例えばベトナムのように、2017年頃の発電炉運転開始を目途に目下所要の準備を進めている国との関係においては、先方から熱心な対日要望があるにもかかわらず、日本の政府レベルでの対応は消極的な印象を免れず、ヨーロッパ諸国や韓国などと比較しても大きく立ち遅れているのが実情である。日本の企業がいくら熱心に働きかけても、先方からみて、2国間協定が未だに締結されていないことは国としての対応に積極性が欠けると受け取られ、みすみすビジネスチャンスを逃す惧れがある。

 科学技術水準が低く、社会インフラの不備なところに原子力輸出は不適当であるという見方もありうるが、だからといって日本が協力しなくても、第3国からの導入によって原子力発電を行なう可能性があり、その場合、仮に将来重大な事故が発生しても、日本から十分な緊急援助を差し伸べることも出来ない。まして、核物質管理面での不備から核拡散のような事態が生じたとしても、「蚊帳の外」におかれていれば適切な対応が出来ない。これは我が国、ひいてはアジアの安全保障にも響きかねない。

 むしろ安全面と不拡散面で実績のある日本が関与することによって、受入国での原子力平和利用活動が正しい方向に発展するのを助けるという姿勢こそ望ましいことと考えられる。もちろん、原子力教育、技術訓練を通じて、受入国の人材養成に貢献できるという側面も軽視すべきではない。日本自身、その原子力開発の黎明期において、米、英両国から多大の影響を受けたが、このことを今想起する必要がある。

 以上の理由により、日本は今後原子力発電の導入を計画中の国、とりわけベトナムに対し、出来るだけの支援を行なうべきであり、その一環として日越原原子力協力協定を出来るだけ早期に締結すべきである。最初から本格的な協定でなくても、枠組み協定のようなものでもよいであろう。

 また、現在ベトナム等では原子力発電導入に関するフィージビリティスタディ(F/S)が行なわれようとしているが、これに日本企業が応札できるようにするためには、円借款などの政府資金(ODA)が使えるようにすることが望ましい。

従来原子力関係のF/SプロジェクトはODAの対象外とされてきたが、以上述べたところから、これは合理的な理由を欠くので、早急に改めるべきである。

 さらに言えば、地球温暖化防止のための京都議定書では「クリーン開発メカニズム」(CDM)から原子力が除かれた形になっているが、原子力がCO2を排出せず、温暖化防止にプラスであることを考慮すれば、これは甚だ不合理な取り扱いであるので、日本政府は関係途上国とも協力して、これを是正すべく最大限の努力をなすべきである。

 

<提言のまとめ>     〜未完成〜

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2.

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4.

5.

 

 

 

 

                    (2005.03.16   金子起草)