050319  「日本の核不拡散政策と原子力平和利用外交に関する緊急提言案」(たたき台)」: 小川博巳氏のコメント

標記研究会による「日本の核不拡散政策と原子力平和利用外交に関する緊急提言案(たたき台)」(3/16配信)に対し、小川博巳氏からも次のような貴重なコメントをいただきました。ご参考まで。さらなるコメント、ご感想、修正提案を歓迎します。なお、小川氏のコメントに対する小生の簡単な回答を末尾に付記しておきます。

--KK

 

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原子力国際問題について、体系的に考えている識者が限定されております時に、このような啓蒙的な「緊急提言」案を起草、ご提示頂きましたことに敬服いたしております。ご指示により、若干の卑見を申し述べさせて頂きます。

・ 「緊急提言」としては、聊か長文との声も聞かれますが、関係者を十分に啓蒙するうえでは、意を尽くす必要があるとおもわれます。紙数が或る程度増えるのは止むを得ないと考えます。ただ、肝心の対象者に注目させ、読ませる為の工夫が必要であるかも知れません。例えば "conclusion first" で、「提言」を冒頭に出して枠で囲むなど、・・・。

・ 「核不拡散」と横並びにする場合は止むを得ないが、「原子力平和利用」では範囲が広すぎないかと懸念されます。我々が究極的に目指すもの、訴えたい眼目は「プラント・機器輸出」ですので、表題・副題、或いはキャッチフレーズなどに付き、ご検討をお願いします。

・ 我国はFNCAなど、原子力国際協力には一定の努力と実績を積み上げておりますが、我国の原子力戦略としては肝心なところが欠けています。一国主義を脱して国際協調の中に、エネルギーの安全保障を追及する国家戦略が、今後は益々求められるのではないでしょうか。北東アジア共同体構想が注目される今こそ、エネルギー問題・原子力国際展開をこの構想に重ね合わせ、国際政治の重要課題として、閣僚レベル或いは首脳レベルでの協議を重ねるべきだと考えます。我国が原子力先進国としてイニシャティブを取り、迫り来る北東アジアのエネルギー需要の逼迫を、原子力に付託することが我国の果すべき課題ではないかと愚考します。この点について一項を設けては如何でしょうか。

・ 我国は世界に先駆けて、「統合保障措置」が認められた事実は、国際的にも大いにアッピールするべきで、原子力の国際展開に際しても、一つの有力な武器とすべきだと考えます。この点につき、若干加筆をお願いします。

・ 末尾でCDMにつき触れられているが、この問題は今後の環境問題上も、また原子力国際展開常も極めて重要な課題だと思われますので、一項を起こすべきかと考えますが如何でしょうか。

以上取り急ぎ、卑見お伝えまで。 匆々

小川 拝
 
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金子のコメント>
 
1.これを「緊急提言」という形にしたのは、NPT再検討会議があと1ヶ月半後に迫っているので、核軍縮・核不拡散問題から入るのがオーソドックスでかつタイムリーだろうと判断したためです。つまり、NPT絡みの問題(インド問題を含む)をまず論じ、その延長上で原子力平和利用問題を取り上げようとしたものです。最初から原子力国際展開問題(原子力輸出)を前面に出すと、世間一般の感覚からすると行き過ぎ、時期尚早の印象を持たれるのではないかと思います。この提言案は、ご指摘のように、啓蒙的な目的が中心で、原子力問題の関係者、専門家だけのために書かれたものではありません。提言の対象も、FBR提言と異なって、原子力委員会(長計策定会議)よりむしろ国会、内閣と、外務省を中心とする行政府、さらにマスメディアを通じて一般国民に訴えることを念頭においております。
 
2.勿論、原子力問題(とくにプラント・機器輸出問題)に絞った具体的な提言を出す必要は大いにあるので、別途起草中です。こちらの提言の中では、これまでの「EEE会議原子力国際戦略研究会」での議論を踏まえて、東南アジア(ベトナム、インドネシア等)だけでなく、中国、台湾、米国等への原子力プラント輸出問題を正面から論ずるつもりです。プラント輸出には、世界の核不拡散への貢献という側面より、日本国内の原子力産業、とくに軽水炉技術の維持、温存という側面が大きいわけですが、これをどう理論付けるか、一工夫も二工夫も必要だと思います。引き続きみんなで知恵を絞りましょう。なお、この点については、是非、拙著「日本の核・アジアの核」(朝日新聞、1997年)の第5,6章をよく読んでいただきたいと思います。この本が直ぐ入手できないときは、EEE会議のHP上に掲載されている小生の「主要論文」の中の「ベトナムの原子力発電計画と日越原子力協力の重要性http://www.eeecom.jp/RONBUN/040813VNenergy.htm)の第2〜5章をお読み下されば幸いです。分かり易く書いてあります。)
 
3.「統合保障措置」や京都議定書のCDM問題などをもっと大きく扱うべきだというご指摘はご尤もで、第2次案には出来るだけ取り入れたいと思いますが、これらも本来、別の提言案に入れた方が収まりがよいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
 
--KK