050321  Re: 「日本の核不拡散政策と原子力平和利用外交に関する緊急提言案」(たたき台 3/16): 吉田康彦氏のコメント

 
標記提言案(たたき台)に対する吉田康彦氏のコメントです。ご参考まで。 なお、先にご高覧に供したものは「たたき台」であって、各位からいただいたコメントなども勘案しながら目下大幅に書き直しており、また提言の対象や目的についても色々思案中です。結論が出次第ご案内いたします。
--KK
 
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忙殺されていて遅くなりました。以下、貴兄起草の「核不拡散政策に関する緊急提言案」に対する小生のコメントです。なお他会員のコメントには必ずしも目を通していないので重複しているかもしれません。また小生は言葉のプロなので、細かい点にこだわりますが、あしからず。
 
(1)全体の印象として、これは「金子論文」であって、「提言」とはいえません。「提言」は極力主観的判断と表現は避け、客観的事実だけを論理的に並べて、具体的な提案をすべきです。以下、草案のアタマから順番に気づいた点を記します。
(2)日本語で「第7回目」とはいいません。「第7回」ないしは「7回目」です。
(3)NPTが「核兵器に関する唯一の国際法規範」は事実に反します。CTBTは発効していませんが、遡れば、1963年の「部分的核実験禁止条約」がこの種の国際法規反の始まりです。他にも、宇宙、南極、その他、中南米、南太平洋、東南アジア、アフリカ(未発効)等の地域的非核化条約が存在します。
(4)「NPTを引き続き支持する必要がある」理由・根拠として「唯一の被爆国として核軍縮、核廃絶の旗を高く掲げ続けるべき」ことが挙げられていますが、NPTは「核軍縮、核廃絶」を目指してはいません。「核軍縮」に関しては確かに第6条がありますが、これも「精神的・道義的規定」にすぎず、拘束力はなく、NPT締結の最大の目的は「5大国の核兵器保有」を既定事実として容認し、その特権を明文化した」点にあることを想起すべきです。
(5)NPT脱退への「唯一の対処方法」は「国際世論を喚起し」とありますが、国際世論喚起は必要条件ではありません。国連安保理がこれを「国際の平和と安全を脅かしたか、あるいは破壊した」と判断すれば、ただちに制裁が可能です。
(6)その場合、問題は5常任理事国の利害が一致するかどうかです。5カ国のうち1カ国でも反対したら決議は「出来ない」という表現は不適当。「成立しない」がいいと思います。
(7)「テロに対して核兵器を使用するのはあたかも・・・・」「核兵器は所詮使用できない無用の兵器とみるべきである」というのは断定しすぎと思います。タリバン政権がかくまっていたアルカーイダの基地に対し、ブッシュ政権は核兵器使用を検討し、そのために小型核兵器開発を決意したのです。テロリスト個人ないしは集団に対してのみならず、「テロ支援国家」に対する使用は今も真剣に考慮しています。「テロ支援国家」も実際にテロが発生し、関与が明らかになれば、彼らも「テロリスト」の範疇に入ります。
(8)エルバラダイ事務局長提案は、PSIと輸出規制強化に重点をおいたブッシュ大統領提案とは異なり、「核燃料供給の保証」に比重をおいており、
これに対し、「非核兵器国側は・・・つよく反発しており」というの事実誤認です。好意的に受け止めている国もかなりあるようです。要するに、狙いはイランや北朝鮮を押さえ込むことにあり、大半の国は自国の原子力平和利用が「マルチラテラル・アプローチ」でも保証されればいいのです。ブッシュ提案とエルバラダイ構想を混同すべきではありません。
(9)「国際的な議論の帰趨を睨みながら、適切かつ積極的に対処して行くことが肝要である」・・・・これは「提言」になっていません。役人の国会答弁です。六ヶ所村の諸施設が凍結の対象にならない以上、「エルバラダイ構想を支持すべきである」と明言していいと思います。
(10)<硬直した日本の核・原子力外交政策>・・・これは、全体が「前口上」と解釈しますが、長すぎます。「独自の」はいいとして、「ダイナミックな政策」とは何ですか、説明が必要です。「硬直していない」政策というなら「柔軟な政策」ということになり、必ずしも「ダイナミック」である必要はありません。
(11)イスラエルはともかく、インド、パキスタンまでも対象にして、「一定量の核兵器を保持するに至っていることは今や疑問の余地はない」という表現はピンボケです。印パ両国の「核保有」は既定の事実です。
(12)インドがNPTを頑なに拒否している最大の理由は、対中国の安全保障、対中核抑止力であって、イデオロギーではありません。インドにとっては中国が最大の脅威なのです。次が大国意識、NPTの不平等性に対する抗議と思われます。
(13)インドを「村八分」同然に扱い・・・という表現が二度出てきますが、俗っぽすぎます。印パ両国に対する経済制裁は、1998年の核実験直後、G8首脳会議で全会一致で決まったのです(ご指摘のとおり、9・11テロご解除)。原子力分野の協力はゼロに等しいにしても、2003年には、火力発電所建設、地下鉄建設などのための円借款、総額1112億円の供与が決まっています。2003年5月には石破茂防衛庁長官(当時)が訪印、北朝鮮とパキスタンからの核拡散阻止について協議、合意しており、核不拡散をめぐる日印協力は存在しています。
(14)最後のパラ、温暖化防止のために、「クリーン開発メカニズム」に原子力を含めよ、という主張と思いますが、「提言」としては舌足らず、補足説明が必要です。「これは甚だ不合理な取り扱いであるので、・・・・・これを是正すべく最大限の努力をなすべきである」というのも、「これ」が何を指すのか不明確です。提言が専門家相手でなく、一般国民である以上、「なぜ不合理な取り扱いなのか」「何が不合理なのか」を論理的に説明しなければなりません。グリーンピースは原子力が除外されたことが「合理的」と見なしていると思います。
 
以上、妄言多謝します。
 
 
吉田 康彦
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