050323  色々な核不拡散構想ーーエルバラダイ事務局長、ブッシュ大統領、アナン国連事務総長など
 
核拡散をいかにして防止するかについては、エルバラダイIAEA事務局長のいわゆる「多国間核管理構想」(MNA)、ブッシュ米大統領の提案(昨年2月)から、最近のアナン国連事務総長の提案等々まで、いろいろあり、若干混乱があるように見えますので、この辺で簡単に整理してみる必要があると感じておりましたところ、タイミングよく、シグナスX−1氏から次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK
 
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何をエルバラダイ事務局長の構想というのかはなかなか難しい面があります。というのも、2003年10月のエコノミスト誌以来、エルバラダイ事務局長は何度もいろいろな場面で、少しずつ異なることを言っている面があるからです。

特に、いわゆる「多国間核管理構想」(MNA)も、最近は、専門家グループの報告書そのものがエルバラダイ構想としてとらえられている面がありますが、これはあくまでも26人の専門家の見解とみるべきではないでしょうか。
むしろ、もっとも新しいエルバラダイ事務局長のメッセージは、MNAが具体化するまでは、特に当面5年間は濃縮・再処理施設の新設禁止、というものであり、これは「多国間核管理構想」(MNA)を超えた濃縮・再処理施設のモラトリアムというような内容であると思われます。

今回の、アナン事務総長の勧告のパラ99の内容も、直接的な表現ではありませんが、むしろ、この濃縮・再処理施設の自主的なモラトリアムを勧告していると読めるものではないでしょうか。

なお、この濃縮・再処理施設のモラトリアムというアイデアは、エルバラダイ事務局長が最初に言い出したのではなく、まさに国連改革に関して昨年12月にとりまとめられたハイレベル委員会(日本からは緒方貞子氏がメンバー)の報告書の中にあるのであって、

そこには「ウラン濃縮及び再処理施設の建設について時限付きの一時停止を行うべし(パラ131)」と書かれていたわけです。

一方、今回の アナン事務総長の勧告のパラ99には、非核兵器国の原子力平和利用は抑制されるべきではないとの表現もありますが、昨年2月のブッシュ大統領演説(濃縮・再処理の不拡散構想:新規の「国」に濃縮・再処理に参入させない)や、今年3月のブッシュ大統領声明、下記のNY Times の記事に見られるような、原子力利用の一部制限的な発想とは相容れないメッセージが込められています。

ということで、従来の、ブッシュ提案(濃縮・再処理の不拡散)、エルバラダイ提案(多国間核管理(MNA)と5年間モラトリアム)に加えて、今回のアナン提案(自主的モラトリアム)の3つの比較検討が今後は必要であろうと思われます。(さらに、下記のNY Times の記事の延長上には、原子力利用制限条約のようなものが今後米国からででくる可能性もあると思われます。)

なお、下記のNY Times の記事にもあるように、ブッシュ提案とエルバラダイ提案は大きく異なるものであって、同一に評価するような表現は誤りであると思います。(従って、米国政府がエルバラダイ構想に反対していることも、エルバラダイの三選阻止という政治的な目的以外にも、論理的に十分理屈が成り立つ、ともいえるでしょう。--KK)


 
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Re: EEE会議 (アナン国連事務総長の報告書: 核不拡散問題関係)
Date:  2005/03/22
 
皆様

5月2日から開始する第7回NPT再検討会議に先立ち、アナン国連事務総長は「国連創設以来最も包括的な」改革報告書を発表しました。「より一層大きな自由: 万人のための開発、安全保障、人権に向けて」("In Larger Freedom: towards development, security and human rights for all")と題するこの報告書の第99項に、ウラン濃縮・再処理関連の記述がありますが、これはエルバラダイIAEA事務局長のいわゆる「多国間核管理構想」(MNA)に近い内容と思われます。同報告書全体に関する朝日新聞の報道記事とともにご紹介します。ご参考まで。(本件情報提供者: シグナスX-1氏)
--KK

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<第99項>

99. The spread of nuclear technology has exacerbated a long-standing tension within the nuclear regime, arising from the simple fact that the technology required for civilian nuclear fuel can also be used to develop nuclear weapons. Measures to mitigate this tension must confront the dangers of nuclear proliferation but must also take into account the important environmental, energy, economic and research applications of nuclear technology. First, the verification authority of the International Atomic Energy Agency (IAEA) must be strengthened through universal adoption of the Model Additional Protocol. Second, while the access of non-nuclear weapon States to the benefits of nuclear technology should not be curtailed, we should focus on creating incentives for States to voluntarily forego the development of domestic uranium enrichment and plutonium separation capacities, while guaranteeing their supply of the fuel necessary to develop peaceful uses. One option is an arrangement in which IAEA would act as a guarantor for the supply of fissile material to civilian nuclear users at market rates.

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受信日時:2005/03/16 1:35:16 東京 (標準時)
Re: EEE会議(NPTの抜け穴を埋める ために原子力平和利用禁止条約を作 る?)
kkaneko@eeecom.jpからの引用:


皆様

ブッシュ大統領が昨年2月、ワシントンの国防大学の演説で「既存の再処理、濃縮工場以外には建設させない」と宣言してから1年余。その後この構想は非核兵器国の猛反発に遭い、さすがの米国政府も同構想の実現を諦めたかに見えました。しかし、一向に解決しない北朝鮮やイランの核問題に業を煮やしたブッシュ大統領は、ついにアイゼンハワー大統領以来の「原子力平和利用」(Atoms for Peace)の思想を放棄して、今後イランのような国に平和利用と称して核兵器開発をさせないような条約をNPTとは別に作る考えを固めた、ということです。周知のように現行のNPTは第4条で、原子力平和利用を各国の「奪い得ない権利」(inalienable right)として保証していますが、この条約自体を改正するとなると189の加盟国間で交渉しなければならず、時間がかかりすぎ、その間にイランが核兵器を完成してしまうから、NPTはいじらないで、別個の条約で、特定の国には原子力平和利用そのものを禁止する作戦のようです。ブッシュ大統領のハドレー国家安全保障補佐官(C.ライス女史の後任)によれば、イランは18年間もIAEA査察官の目をごまかして平和利用と称して核兵器開発を行なってきた、そして核兵器を手に入れればNPTを脱退する(北朝鮮のように)。現行のNPTではそれを防ぐことは出来ない。このようなNPT上の抜け穴を早急に埋めなければならない、と大統領は考えているそうです。次回NPT再検討会議まであとわずか1ヵ月半、はてさて米国はこれからどんな手を打とうとしているのでしょうか? 以下、New York Timesの著名記者が書いた分析記事です。ご参考まで。
--KK