050327  米国のパキスタンへのF16戦闘機売却と、今後の印パ関係及び米印関係への影響
 
NPT非加盟で「事実上の核兵器国」であるインド、パキスタン、イスラエルの3カ国のうち、イスラエルに対する米国のダブルスタンダードは以前から周知の事実でしたが、9.11事件以来アルカイダ等とのテロ戦争でパキスタンの協力を必要としたことから、米国はパキスタンに対してもダブルスタンダードを適用し、一昨年A.Q.Kahn博士を中心とする「核の闇市場」が露見してからもムシャラフ政権支持の政策を継続しています。その結果として、米国はインドに対しても以前のようにインドの核兵器開発を厳しく非難することはせず、むしろ対印接近を強めてきましたが、ここへきて、ブッシュ大統領はパキスタンの要望に応える形でF16戦闘機の売却を決めたようです。これが今後の印パ関係と米印関係にどのような影響を与えるか。関連する2つの情報をお伝えします(シグナスX-1氏提供)。ちなみに、下記の報道(毎日新聞)の末尾で、米政府当局者が「米国は、望ましい世界ではなく、現実の世界の中で生きねばならない」と述べた由ですが、ここからも米国の現実主義的な、あるいは是々非々主義的な核不拡散政策が読み取れると思います。さて、日本の対応はいかに? ご参考まで。
--KK
 
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◆<米大統領>パキスタンへのF16戦闘機売却を許可
   (毎日新聞  2005年 3月26日)
【ワシントン中島哲夫】米政府当局者は25日、ブッシュ大統領がパキスタンに対するF16戦闘機の売却を許可したことを明らかにした。パキスタンの核開発問題で15年間にわたり続けてきた凍結措置を解除したもので、「テロとの戦争」に関するパキスタンの対米協力に報いるための政策転換と言える。
 パキスタンは80年代に米国からF16戦闘機40機を購入する契約を結び、代金も支払ったが、米国は90年、パキスタンの核兵器開発疑惑を理由に制裁を発動しF16の引き渡しを拒否した。今回の許可により何機が売却されるかは不明だが、米国務省で記者団に背景説明を行った当局者は、当面、25機程度になる見通しであることを明らかにした。
 ブッシュ大統領の今回の決定は、ライス国務長官の今月16日からのインド、パキスタンなどの歴訪を受けて行われた。大統領は25日、滞在中のテキサス州クロフォードからインドのシン首相に電話し、事情を説明。ロイター通信によると、同首相の報道官は首相が「大きな失望」を表明したことを明らかにし、インドの安保環境に悪影響を与える可能性を指摘した。
 しかし米政府当局者は、インドが極めて多数の戦闘機導入を考慮中であり米国からも購入できると指摘し、パキスタンへのF16売却が印パ両国の軍事バランスを崩すことはないと主張。この売却はパキスタンに安心感を与えるものであり、印パ双方が安保上の安心感を抱くことが両国の関係改善の環境作りになると説明した。
 また、核兵器開発を理由に凍結した戦闘機売却を許可することは、インドやパキスタンの核保有を追認する意味を持つのではないかという記者団の質問に対して、米政府当局者は98年の両国の核実験から7年を経ており「米国は、望ましい世界ではなく、現実の世界の中で生きねばならない」と述べた。
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◆インドを「21世紀の世界大国」に=ブッシュ政権が育成戦略
   (

時事通信 2005年03月26日)


【ワシントン26日】第二次ブッシュ米政権がインドを「21世紀の世界大国」に育成する戦略を練っていることが分かった。中国や中東地域、中央アジアに対処する地政学上の要請から、米国は南アジアの要であるインドとの提携を深める。
 計画によれば、ブッシュ政権はミサイル防衛その他の安全保障政策やハイテク技術の分野における協力を強化するとともに、経済・エネルギー協力の拡大を進めるため、インドとの「戦略対話」を推進する。米政府当局者によると、ライス国務長官はシン・インド首相に対し、両国の「より広範な戦略的関係」の概要を提示した。
 米政府当局者は「戦略的関係の目標はインドを『21世紀の世界大国』に育成することにある。軍事を含め、その意義をわれれはよく理解している」と指摘。「米国にとって南アジアは極めて重要だ。一方に中国があり、方やイランをはじめとする中東地域が控える。それに加えて北方には、不安定な中央アジアもある」と述べた。
 先にインドを訪問したライス長官はシン首相と両国の戦略関係強化を討議したが、その内容は明らかにされていなかった。
 米・インド関係は、1998年にインドが実施した核実験を契機に冷却化していたが、2000年5月、クリントン前米大統領がインドを訪問、関係改善の動きが始まった。
 ブッシュ大統領はシン首相に対し、今年7月の訪米を要請。ブッシュ大統領も今年か来年にインドを訪問する意向を持っているという。
 米当局者によれば、両国の戦略対話は、グローバルな問題、地域安全保障、インドの国防上のニーズ、ハイテク協力の拡大、防衛機器の共同開発をテーマとしている。防衛協力に関しては、米国は次世代多目的戦闘機F18をインドに売却する用意があるほか、インド軍の指揮命令システム、早期警戒システム、ミサイル防衛整備などで議論を進める考えだ。〔AFP=時事〕