050402  ウラン、石油及び天然ガスの需給及び価格の見通し:  豊田正敏氏の意見) 小野章昌氏の回答


標記のメール(4/1  豊田正敏氏)に対し、小野章昌氏から次のような回答をいただきました。豊田氏宛てになっておりますが、大変重要な内容であると思いますので、添付ファイルと共に皆様にご披露させていただきます。ご参考まで。豊田、小野両氏のご意見に対しコメントのある方はどうぞ。
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豊田様

昨日は終日外出しておりましてご返事が遅れて申訳ありません。お尋ねの点につきまして添付資料も交えて私の見方を下記申し上げます。

(1)ウラン価格見通し:
ウランは銅、アルミ、さらには鉄などと同様に地球生成の段階から存在する金属資源であり、過去の金属資源の歴史的経験から、確認資源量を現在需要量で割った「静態的耐用年数」(ウランの場合は現在44年)は概ね一定に推移し、需要が増えれば、確認埋蔵量も増えるという関係が保たれています。これは企業としては余り先の鉱量まで確保しても意味がないので、安心感の得られる程度の確認埋蔵量に留める経済原則が働くためと言えます。地質的に見ても、オーストラリアのオリンピックダム鉱床などは100万トンU3O8程度の確認・推定埋蔵量を単独の鉱床で有しており、周囲の探鉱を進めれば更に鉱量が増えるのはほぼ確実な地質環境を有しています。このように金属資源全体の傾向として、稼行平均品位の低下は避けられないものの、資源の量的な心配は要らないということができます。

価格については、MITネフ教授が2004年9月の世界原子力協会(WNA)でペーパーを発表していて、非常に行き届いた分析を行っています。ネフ教授は1947年から2003年までのウラン価格(古くは米AECによる買上げ価格、1970年代よりはNUEXCOの発表するスポット価格)を2004年貨幣価値に引き直して1つのグラフにまとめています。添付「参考資料」の図1を参照してください。同教授は、軍用に買い上げられた時代、一次生産により賄われた時代、在庫からの放出により賄われた時代、夫々についての分析を行い、結論として「在庫がなくなり、実際の生産により賄われる時代が来ると、ウラン価格は最も競争力のない、生産コストの高い鉱山のコスト(「限界コスト」という)を反映することになろう」「歴史的に見ると、このような価格は30−50ドル/ポンドの範囲であった」と分析しています。過去20年間にわたり探鉱開発活動が極度に控えられたことから、その反動として価格のオーバーシュート(例えばグラフにあるような100ドル/ポンド)を示すことは有り得るが、時間が経てば「30−50ドル/ポンド」に落ち着くであろうと見ています。

私もこれと同様の考えであり、将来の価格見通しとしては、KgU単位で表示すると「80−130ドル/KgU」の範囲が妥当と考えています。豊田様がおっしゃられる「200−250ドル/KgU」は短期的には有り得ても、長期的には続かないのではないでしょうか。

(2)石油価格見通し
三井物産の現役がどのような将来ピクチャーを描いているかは聞いてみたいと思っていますが、少々時間が掛かるかも知れません。私自身は以下のように見ています。

先ず最初に国際エネルギー機関(IEA)の「2004年世界エネルギー見通し」では基準ケースとして、石油価格は2003年27ドル/バレルが、2006年には22ドルに下がり、2010年まではそのまま推移し、その後は徐々に直線的に上がって2030年に29ドルになるというシナリオを示しています(需要は8,200万バレル/日から1億2,100万バレル/日に増大)。ただし、高価格シナリオも一応検討しており、その場合の価格が豊田様のおっしゃられている2030年35ドル/バレルを想定しています。また石油の生産ピークは2030年までは来ないとしています。米国DOEのエネルギー情報局(EIA)も同様の見通しを出していますが、何れの場合も資源量のデータを、2000年に米国地質調査所(USGS)が出したレポートの資源量の数字に依存していて、それを根拠にしています。

ここに大きな問題があると私は考えています。添付資料の図2を御覧頂きたいと思いますが、このグラフは米DOE/EIAが作成したもので、USGSによる資源量の推定方法が左側棒グラフに出ています。究極的な回収可能資源量を3兆バレルとしていて、その内訳として未発見資源量9,400億バレル、資源量成長(Reserves Growth)7,300億バレルが含まれており、これらで過半を占めています。今後の生産対象となる「確認埋蔵量」は9,600億バレルがあるだけです。これはBPの発表する石油埋蔵量に見合う数字です。

問題なのは根拠が全く薄い「未発見資源」と「資源量成長」を余りに重要視していることです。図3の米国本土48州の埋蔵量、生産量の推移は、米国という最も進んだ産業界の実績を示したものですが、埋蔵量は1959年のピークを過ぎてから決して回復していません。生産量も1970年のピークから下がり続けているのです。このような「歴史の実績」に全く反対の理論を仮定し、それに基づいて世界の石油資源見通しが打出されているところに怖さを感じます。

またこのグラフには地質技師であるキャンベル氏の考え方との比較が出ていますが、これを見ても分かるように、USGSは「始めに50%の回収率ありき」でこの理論を導き出したことは明白です。50%の回収率を前提とした時にはこのような「埋蔵量の成長」や「未発見資源」が必要となるのです。石油は池のような形で地下に溜まっているのではなく、岩石の中に液体が入込んで(沁み込んで)存在しているものだけに、圧力が弱まれば、自噴が止まり、水を注入するなどの強制的回収が必要となります。その困難さを端的に示しているのが米国本土の生産グラフと思います。米国本土でも未だまだ石油の絶対量は地下に残っているのでしょうが、回収ははかどらないということを示していると考えます。回収率は個別の油田で異なるのでしょうし、石油の専門技師に問い合わせる必要があるとは思いますが、私にはキャンベル技師が言うように30%程度の回収率というのが地質学的にも納得できるものであるし、世界の実体ではないかと思われます(ちなみに米国本土の回収率は28%と言われています)。

図4は世界における石油の発見量と生産量をグラフ化したもので、同じ図面にボーリングの量(総延長)も出ています。1980年代以降発見量は生産量を下回リ続けており、USGSが、あるいはIEAやDOE/EIAが期待するような新規油田発見は大変難しいことが歴史的に示されています。今後の石油生産見通しは、図5のグラフがおそらく実際に近いのではないかと私は考えます。図6の石油生産ピークのグラフはUSGSの前記数字を基にDOE/EIAが作ったものですが、生産ピークを何とか後ろに持って行こうとする涙ぐましい努力の結果がこの図面に出てはいるものの、このような崖崩れのような生産量推移になるとは、図2の米国本土における実例からも到底想定できません。

今後の石油価格の見方としては、「生産余力」が一番の鍵を握るであろうと考えています。IEAが2004年レポートの中でいみじくも認めているように、現在生産余力があるのはサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UEA)のみです。とりわけサウジアラビアの生産余力が重要と考えられます。生産量の約半分を占める最大のガワール油田が生産ピークを過ぎて、毎日700万バレルの水を注入して生産を維持していると石井先生から聞いています。その生産減少を補うだけでこれから新規開発が予定されている油田は精一杯と言うところと思われます。今朝の日経に報じられているように、カザフスタン、ナイジェリアのような産油国が石油メジャーからの収入を更に増やそうとして利権の譲渡を迫ったり、ロイヤルティーの支払いを求める動きが出てきており、それらがメジャーの新規探鉱開発活動の足枷になり、生産拡大ペースが鈍る原因になるという見方を報じています。「石油メジャーもそして産油国政府も生産拡大を望んでも実現出来ない時代に突入してきた」というのが現実ではないでしょうか。その意味から石油価格の騰勢は一時的なものでも、サイクル的なものでもなく、「基本的なファンダメンタルズ」が変わってきたというのが私の観察です。

以上の背景を考えると、IEAが言う2030年29ドル、あるいは35ドルという価格見通しはあまりに楽観的過ぎるというのが私の偽らぬ考えです。なおIEAの言う価格は「WTIのような特別油種価格ではなく、平均の石油価格」という点では私も同様の理解をしております。「石油生産ピークは2050年ごろ」とおっしゃっておられますが、図5、図7に示されているように「2010年より前」という予想に私も賛成しています。

(3)天然ガス
天然ガスの生産ピークについては石井先生のプレゼンテーションより拝借した図7が参考になるのではないかと考えます。この図では生産ピークは2015年頃となっています。私自身は今後もカタールやロシアでのLNG生産が増えて行くのでもっと後になると見ています。石油ピークよりも10年ほど遅れるという見方をする人もいる一方で、ガスは採掘回収が容易であるだけに、生産ピークを過ぎると急激に枯渇して行くという人もいるようです。

ガス価格については図8のグラフ(米国の天然ガス価格推移)が参考になると思います。100万立方フィート当たりのドル価格で表示されていますが、2000年以前は2ドル前後で安定していた価格が2004年には5ドル以上にまで急騰しています(現在は7ドル台)。米国内でガス火力発電がもてはやされ、過去5年間で新設された新規電源(2億KW)の90%以上がガス火力であったと理解しています。それだけ需要が増えれば価格が上がるのは当然のことで、DOE/EIAはこれまでの年次レポートでガス火力の優位性(ガス価格が2ドルで発電コストが安い)を強調する一方で、つい4年前までは「米国の原子炉101基のうち40基は2025年までに退役する」と予測していたのは何れも全くの見込み違いであった訳で、私としてはIEAやDOE/EIAの見通しが如何に当てにならないかを示す格好の例と見ています。


  ----- Original Message -----
  From: Kumao KANEKO
  Sent: Friday, April 01, 2005 12:35 AM
  Subject: EEE会議(ウラン、石油及び天然ガスの需給及び価格の見通し:  豊田正敏氏の意見)


  皆様

  次のようなメールを豊田正敏氏からいただきました。これは小野章昌氏(元三井物産)宛になっておりますが、内容の重要性に鑑み全会員各位に配信させていただきます。ご参考まで。なお、小野氏以外の方でもコメントのある方々は自由にお寄せ下さい。
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  小野様
  先般、ウランの今後の需給と価格の見通しについて、貴殿と私及びJNCの小林氏との間で議論しました。ウラン
  の需給については、ウラン価格の上昇に伴い、ウランの探鉱、採鉱及び製錬の技術開発により、今世紀末に需給
  が逼迫することはないとの結論で一致しましたが、価格については、三者の間で、見解が大きく異なっておりま
  したので、改めて、出来れば定量的解析も含めて貴見解についてお伺いします。私の記憶によれば、貴殿は100ド
  ル/kgUまではかなり短期間に上昇するが、その後はその近辺の価格に止まると考えておられ、私は、今世紀末ま
  でには、技術的進歩を考慮しても200〜250ドル/kgUにはなる可能性があると考えており、小林氏はさらに高くな
  ると考えておられたのではないかと考えております。

  次に、石油及び天然ガスを三井物産で担当されている方に次の点について見解を伺いたく、貴殿に取り計らい方
  お願い出来ないでしょうか。
  石油については、一部の学者の中には、「世界の原油生産は、来る10−15年後でピークとなるものと予測し
  ている。それはさらに早期にさえなり得るものと思っている者もいる。」とか、「経済産業省の判断は、国際
  エネルギー機関(IEA)の判断に準拠し、地球資源は十分あり、開発のために資本を投下し開発努力を強化すれ
  ば、2030年にも石油価格35$/バレルは十分達成可能であるとのシナリオの上に立脚しているが、この前提は甘
  く、もっと厳しく見るべきである。」という意見がありますが、石油の今後の需給および価格の見通しについ
  てお聞きしたい。

  私の考えは、現在の石油価格の急騰は、中国の石油需要の急激な伸びや、ロシアの大手石油会社ユコスの不祥事
  による生産低下などに起因すると考えますが、石油市場に投機的色彩があることによることも否定できないと
  考えております。確認埋蔵量に基づく可採年数は、40年と考えられ、価格上昇に伴う探鉱、開発の技術開発によ
  り、埋蔵量がさらに増えることを考えれば、ピークになるのは、今世紀半ばぐらいではないかと考えておりま
  す。また、価格については、ロシアのみでなく、OPEC及びメディアが、探鉱、開発を含む増産に踏み切れば、2030年
  の価格はIEAが判断している石油価格35$/バレルは十分達成可能であると考えております。しかし、OPEC及び
  メディアは、今回の価格上昇による大増益により、多額の資金を獲得しているにも拘わらず、此処で増産に踏み
  切れば、かつての石油危機の際、経験しているような供給過剰による大暴落が起こるのではないかと懸念して増
  産に踏み切ろうとしていないところに問題があり、当面、価格が高止まりする可能性はあると考えます。しか
  し、このままでは国際的な非難も起こり、結局は増産することとなり、価格は低減するものと考えます。また、石
  油価格が今のような価格で高止まりすると各国特に、中国及び米国の経済成長に大きな影響を及ぼし、また、代
  替エネルギーの採用や省エネルギーが進み、この結果、価格低減の方向に向かうと考えます。従って、2030年
  に石油価格35$/バレルは十分達成可能であるというIEAの判断が、間違いであるとか、甘過ぎるという見方が
  妥当であるということは出来ないと考えます。なお、私は、IEAの考えている石油価格35$/バレルは、平均の石
  油価格であって、WTIのスポット価格ではないと考えていますがどうでしょうか。何れにしても、石油がピーク
  を迎えるのは2050年頃と見るべきではないでしようか。
  また、天然ガスの埋蔵量、需給及び価格の見通しについてもご見解をお聞かせ下さい。以上

  豊田正敏
  toyota@pine.zero.ad.jp