050413 「日露関係改善へ、エネ協力」 十市 勉氏の意見
 
日本のエネルギー・セキュリティ上、政情不安な中東への依存度を減らし輸入先の多角化を図ることが喫緊の急務であり、その一環としてロシアとの間で、シベリアやサハリンの石油・ガス開発を推進することが望ましいのは明らかです。
 
しかし、戦後60年も経って未だに平和条約が締結されず、領土問題も未解決な国とどこまで深い関係を結びうるか。期待されたプーチン大統領の訪日日程さえも決まらない状況で、日露関係の将来に明るい展望はあるのか、という厳しい見方があります。ロシア側でも、再びナショナリズムが台頭し、プーチン大統領の指導力が大幅に低下しているとみられる現状では、当面両国関係の好転は望めそうもありません。
 
とはいえ、現実には日露のエネルギー協力プロジェクトは着々と進んでおり、こうした動きをなんとか両国関係の改善につなげてゆく努力は絶やすべきではありません。
 
偶々昨日、十市 勉氏(日本エネルギー経済研究所常務理事、EEE会議会員)が電気新聞の時評「ウェーブ」欄に発表された論文「日露関係改善へ、エネ協力」はその意味で大変示唆に富むものと思います。同氏のご了解を得て、ご紹介させていただきます。ご参考まで。なお、このテーマについてご意見のある方はこの際積極的に開陳して下さい。
 
--KK
 
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      日露関係改善へ、エネ協力

今年の二月七日、日露が国交を開き、北方四島を日本の領土と定めた日露通好条約が締結されてから百五十年の節目を迎えた。今年前半には、プーチン大統領が来日し、北方四島の帰属問題やエネルギー分野などでの経済協力を前進させ、両国関係が新しい第一歩を踏み出すと期待されていた。しかし、領土問題を巡る両国の主張の溝が埋まらず、プーチン大統領来日のメドが立っていない。〇三年一月の小泉・プーチン会談で「行動計画」が合意されて以降、日露関係は停滞局面にあるのが現実である。

このように戦後六十年を経た現在も、両国は平和条約のテイケツモなされない不正常な関係にある中、エネルギー・環境分野に目を向けると、相互に協力を進めることでウイン・ウイン関係を築ける余地が大きい。

第一に、九・一一テロ事件、中国やインドのエネルギー輸入の大幅な増加、最近の原油価格の高騰などを背景に、日本でもエネルギーセキュリティに対する関心が高まっている。サハリンや東シベリアの豊富な石油、天然ガス資源の開発促進は、日本および中国、韓国にとってエネルギー供給源の分散化につながると同時に、ロシアにとっても輸出先の多様化と極東地域の経済発展に大きく寄与するからである。

第二に、今年の二月十六日に京都議定書が発効したことで、CO2を中心とする温暖化ガスの排出削減が、日本のエネルギー政策にとって一層重要性を増したことである。京都議定書で定められている共同実施や排出権取引の制度を上手く活用すれば、日露両国にとって大きな経済的なメリットが得られる可能性がある。

 このようなエネルギー・環境分野での協力やビジネスを促進する上で重要なことは、両国の政府および企業の関係者が、率直な対話により相互理解と情報の共有化を進め、信頼関係を深めることである。とくに日本とロシアでは、政府と企業の関係が大きく異なっているからである。最近のロシアでは、石油・ガス産業に対する国家の影響力が一段と高まるなど「再国有化」政策が取られているように見られる。

一方日本では、経済のグローバル化が一段と進む中、過去十年の間に、エネルギー産業の自由化が大幅に進み、石油、電力、都市ガスなどエネルギー企業は、これまで以上に経済性および収益性を重視するようになっている。そのため、サハリンや東シベリアの石油、天然ガスの開発プロジェクトが成功するには、輸入主体となるエネルギー企業にとって取引条件が魅力的であることが不可欠である。

三月上旬に新潟で開かれた日露エネルギーフォーラムで印象的だったのは、ロシア側の出席者から、東シベリアの石油パイプライン計画に対して、日本の民間企業の考え方がよく分からない、民間企業の関与を強く望むとの声が多く出されたことである。また、ロシア側からは、輸出する石油・ガスの付加価値を高め、ロシア極東の経済開発を促進するために、ガスを原料とする化学工業や液体燃料製造プラント、製油所などを、日本企業の技術協力で建設したいとの意向が繰り返し表明された。最近の原油高を背景に、ロシアは、経済的な面での自信を取り戻しており、日本の技術力と輸出市場に期待を寄せているのである。

いずれにせよ、日露のエネルギー協力が、行き詰まりを見せている両国関係の改善に少しでも役立つように、関係者が知恵を出し合う必要がある。そのためには、官民の役割を明確にしながら、わが国の政府と企業が協力して取り組むことが求められている。

 

(財)日本エネルギー経済研究所

       常務理事 十市 勉