050416  「核テロ防止条約」案 の採択 − 「原子力平和利用の権利」とは何か?

 
「核テロ防止条約」が先週国連総会で採択され、9月開幕の定例国連総会で各国の署名が行なわれる予定であることは度々(4/3, 4/14)お伝えしましたが、同条約の全文テキストがIAEAのHPに掲載されておりますので、関心のある方は一読をお勧めします。サイトは以下のとおりです。(情報提供:シグナスX−1氏)
 
http://www.iaea.org/Publications/Documents/Conventions/unga040405_csant.pdf
なお、4月3日付けのEメール末尾の<補足説明>で触れましたように、本件条約案作成交渉の過程で、米国が、原子力平和利用を核拡散の口実に利用すべきでないとの趣旨を条約の前文に入れるべしと提案したところ、イランが、それならば、「NPT加盟国はすべて、原子力平和利用の技術、資材、物質等の交換に参加する権利を有する」とのNPT第4条の規定を明記すべきだと提案し、紛糾した経緯があります。この点に関する米・イラン間の意見対立が条約作成交渉を長引かせた原因の1つであったとされていますが、この議論の結果として、結局次の1文が条約の前文第3項に入っています。
 
Recognizing the right of all States to develop and apply nuclear energy
for peaceful purposes and their legitimate interests in the potential benefits to
be derived from the peaceful application of nuclear energy,



この表現は基本的にNPT第4条の思想に沿ったもので、アイゼンハワー大統領の"Atoms for Peace"構想(1953年)やIAEA憲章の理念を踏まえたものと考えられます。しかし、インドの最初の核実験(1974年)やカーター大統領提唱の「国際核燃料サイクル評価」(INFCE 1977-80年)以来米国ではアイゼンハワー構想は「失敗」であったという見方が広がっており、最近では、NPT第4条で開発途上国に認められている「原子力平和利用の恩恵にあずかる権利」は、普通の軽水炉で微濃縮ウランを使ってonce-through方式の原子力発電活動を行なう権利に限定すべきであり、使用済み燃料の再処理やプルトニウム・リサイクル、及び自前のウラン濃縮活動は「原子力平和利用」の範疇から外すべきであったという意見が多いようです。NPTを作成した当時(1960年代半ば)はまだ、再処理・濃縮活動を開発途上国が行うという事態を真剣に考えていなかったからで、今にして米国はNPT第4条はまずかったと後悔しているようですが、"後の祭り"ということでしょう。その応急的対策として出てきたのがブッシュ構想(再処理・濃縮工場の新設を禁止するためNSGによる規制を強化する)ですが、果たして実効性があるかどうか、極めて疑問といわざるを得ません。
 
これらの問題点について情報や意見のある方は是非披露してください。日本としても(米国にだけ任せないで)この点をしっかり考えておくべきだと思いますので。
 
--KK
 
 
 
--------------Original Message-------------

EEE会議(「核テロ防止条約」案 の採択、 国連特別委員会で)
受信日時:2005/04/03 10:06:50 東京 (標準時)
kkaneko@eeecom.jpからの引用:


皆様

国連総会の国際テロリズム特別委員会(Ad Hoc Committee on International Terrorism)は、7年間にわたる審議と交渉の結果、一昨日(4/1)、「核テロ防止条約」(International Convention for the Suppression of Acts of Nuclear Terrorism; 略称 Nuclear Terrorism Convention)の草案を全会一致で採択したようです。この条約草案の狙いは、核兵器を使ったテロのほか、原子力発電所や原子炉などを標的にした攻撃をしたり、核物質を使って脅迫したりした犯人の引き渡しや訴追を各国に義務づけることで、同条約案は、総会で正式に採択された後、来る9月半ばから開催される第60回総会で、各国の署名のために開放されることになっている模様です。
この条約案の採択に関する国連のプレスリリースやアナン国連事務総長の声明等は次のサイトに掲載されております。また、これに関連する新聞報道をいくつかご披露します。(情報提供:
シグナスX?1氏)  
--KK

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◆ 核テロ禁止条約、9月に署名へ 国連総会委が採択
    (朝日新聞 2005年04月02日)

 国連総会の国際テロリズム特別委員会は1日、「核テロリズム禁止条約」の草案を全会一致で可決した。今月中に国連総会で採択される予定だ。
 核兵器を使ったテロのほか、原子力発電所や原子炉などを標的にした攻撃をしたり、核物質を使って脅迫したりした犯人の引き渡しや訴追を各国に義務づける。さらに、情報の交換と協力を各国に求める内容。
 アナン事務総長は核テロについて「現代における最も切迫した脅威だ」と語り、条約の早期発効を求めた。
 条約づくりはロシアが98年に提案した。しかし、「平和利用のための放射性物質や機器の貿易は阻害されないと明言すべきだ」(イラン)などの意見が出て、合意までに時間がかかったという。


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<補足説明>

1. 本件条約案作成交渉の過程で、米国が、原子力平和利用を核拡散の口実に利用すべきでないとの趣旨を条約の前文に入れるべしと提案したところ、イランが、それならば、「NPT加盟国はすべて、原子力平和利用の技術、資材、物質等の交換に参加する権利を有する」とのNPT第4条の規定を明記すべきだと提案し、紛糾した経緯があるようです。上記朝日新聞記事の末尾に書かれているのはこのことを指すものと思われます。なお、当該箇所が最終的にどのような文言に落ち着いたかは現時点では不明です。

2. この条約案とは別に、
国連総会の国際テロリズム特別委員会では、国際テロ防止に関する包括的な条約案(draft comprehensive convention on international terrorism)の作成交渉も引き続き進められる趣です。ご参考まで。

--KK