050523  北朝鮮の核実験に関する情報: 見通しと影響について
 
北朝鮮が核実験をするかしないか、するとすればいつごろか、については相変わらず諸説紛々ですが、どうやら米国政府内でも意見が割れているようです。従って、日本独自の情報がない以上、残念ながら米国発の情報に頼らざるを得ません。問題は、いつやるかということもさることながら、もし実際にやったとしたらどういう影響があるか、日本はどう対応すべきかということでしょう。米国では議会(主として上院)や国防総省あたりが色々検討しているので、それらを参考にしてみるのも大切と思います。次の情報は、EEE会議でも時々ご紹介している「軍事情報」(http://okigunnji.com/)というメルマガの最新軍事情報(第200号 5月23日)からの転載です。大変よく纏まっています。ご参考まで。
--KK
 
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●米上院共和党の政策委員会は20日までに北朝鮮が核実験を実施した場合に
米政府がとる対応を3つのパターンに分類して報告しました。

1.黙認する
2.同盟国と協力し、海上封鎖を行なって全面対決
3.中国と協力しエネルギー供給を断って自壊に導く

→「中国が北の説得に失敗すれば東アジア諸国との関係が悪化し、それにとも
ない自国の安保に甚大な影響を被る」ため、中国が核実験阻止のカギを握って
いる。とみるのがこの報告の骨子です。

1.の場合、「核兵器は保有したもの勝ち」という風潮を生み、国際テロ組織
・イラン・シリアのみならず、日本・韓国・台湾の核武装化に直結する恐れが
極めて高く、米の安全保障に大きな影響をもたらします。したがって、これは
ないといえます。
2.の場合、「中国・北朝鮮」対「米・日・韓国・豪州・台湾」という形の全
面戦争につながる恐れがあります。その際日本は、事実上の最前線として海上
封鎖の実施、米軍によるミサイル攻撃への支援を行なうでしょう。核攻撃を受
ける恐れもあるので、抑止のための報復用核兵器が配備されるでしょう。
3.は、米中が協力するというシナリオです。
これが一番現実的です。最近の米による「人民元改革への強硬な要求」「繊維
製品の緊急輸入制限(セーフガード)発動」といった経済的締め付けもこれを
裏付けています。ただこの場合、中国が金正日体制の崩壊を黙認することに見
合う、米からのお土産が必要になります。おそらく「日本・台湾の核武装を米
が許さないこと」ではないでしょうか。
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●CIAの前東アジア部長ブラウンさんの「北の核実験に関する見通し」です。

1.北朝鮮は核実験を強行するであろう
1.北朝鮮はパキスタンのように核兵器保有国として認知されたがっている
1.実施時期は9月末まで、もしくは来年3月はじめ以降の2通り考えられる
1.米軍による核施設攻撃については、選択肢になるとは思えない
1.核実験による心理的パニックを警戒すべき

→米軍による攻撃が選択肢になりえない理由として、氏は

1.核爆弾・ウラン濃縮型核施設の正確な場所を把握していない
1.韓国の支持が得られない

の2点をあげています。
 
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●最近の北朝鮮の動き関連情報(時系列)

2月10日:北朝鮮政府、声明で「自衛のために核兵器を造った」と公式宣言
3月31日:「我々が堂々たる核兵器保有国となった現在、6カ国協議は軍縮
会談になるべきだ」との談話を発表
4月18日:韓国政府高官「北朝鮮の実験用原子炉の稼動停止を確認」と発言
4月22日:米紙ウォール・ストリート・ジャーナル「米政府が関係各国に、
北朝鮮が核実験を準備している可能性があるとする警告の外交文書を送付」と
報じる
4月25日:6カ国協議の米韓首席代表がソウルで協議
同日:「米が北朝鮮の核問題を国連安保理に持ち込みたければそうすればいい。
我々はその制裁を直ちに宣戦布告と見なすだろう」と北朝鮮外務省が表明

5月3日:朝鮮日報(韓国紙)「北朝鮮が吉州で地下核実験準備の疑いありと、
米情報当局が韓国に通告」韓国国防省はこれを否定
5月4日:ローレス米国防副長官「具体的情報はないが、北朝鮮がいつ核実験
しても驚くことはない」
5月5日:ニューヨーク・タイムズ「ここ数日、北朝鮮北東部で地下トンネル、
監視台と見られる施設の建設が加速されている」

5月6日:ケイシー米国務省報道官「核開発計画に関する新たな所見なし」
5月6日:マクレラン米大統領報道官「北が挑発的な行動に出れば、国際社会
からさらに孤立することになる」
5月9日:朝鮮日報「米国防総省筋の話では北朝鮮が6月にも核実験を行える
よう準備をすすめており、実験が実現する可能性は極めて高くなっている」

5月11日:北朝鮮外務省報道官「最近、稼動を中断していた寧辺の実験用黒
鉛減速炉から、8000本の使用済み核燃料棒を取り出す作業を成功裏に終え
た」と表明
5月13日:デトラニ米朝鮮半島担当大使が北朝鮮の国連代表部を訪問。北朝
鮮の主権国家認定、米には先制攻撃の意思がないとの立場を伝達。
5月18日:デトラニ大使「北朝鮮が6カ国協議再開に応じれば、この枠組み
の中で、彼らが望むだけ、いくらでも米朝協議を行うことができる」
同日:フォード欧州議会議員(欧州議会の北朝鮮交渉窓口)
「北の核実験準備の兆候に関する情報は、米などとの協議を優位に進めるため
の北の駆け引きだろう」