送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re: 原爆と原発の違い、U爆弾とPu爆弾の違いなど)
日時 : 2003年5月15日 16:03

各位殿

標記テーマに関する小生のメール(5月11日 14:42)の疑問点について、藤井靖彦氏
(東工大教授、原子炉工学研究所長)から、次のような懇切なメールをいただきまし
た。ご参考まで。
金子熊夫

*******************************************

 ご質問の主旨に対するお答えとはならないかもしれませんが、私見を申しあげます
.

1)「高濃縮ウラン爆弾ですが、果たして本当に実験なしでも爆発するくらい技術的
に容易なものなのかどうか」
 小生、核物理の専門家でないので、専門的知識を持っておりませんが、歴史的に米
国がウラン爆弾を実験なしに使用したわけですので、高濃縮ウランが手に入れば、兵
器となる爆弾が作れると考えるべきでしょう。

2)「大学(とくに東大と京大)の研究炉で高濃縮ウランを相当量使っており、これ
を使えば1,2発の爆弾なら極めて短時間に作れるか」
 物理的な量としては存在すると思います.だからこそ米国がかつて米国が供給した
世界中の研究炉から高濃縮ウランを回収しているわけです.しかし物理的原理として
可能であっても、社会的原理として不可能であることは論を待たないと思います。く
わしいことをお聞きになるなら、京都大学を退官された神田先生が適任だと思いま
す.

 日本にとって、1〜2発の原爆を持つことが何の意味もないどころか、有害です.
核兵器保有国の政治学者は核兵器を持つことの不利益の面を看過しているのではない
でしょうか。またIAEAや軍縮担当者は、危ないと言った方が自分の職の安定に繋がる
わけです。日本のように核武装する意志のない国に、危ないと言っていれば、職責を
果たしたことになるし、日本が核武装しないことが彼等の手柄となります。彼等が本
当に危ない北朝鮮に対しどれだけ行動力があるか注目しておきましょう。

3)「高濃縮ウランのことは、プルトニウムほど騒がれないのは何故でしょうか?」
 高濃縮ウランを作ることは技術的にかなり難しく、核兵器保有国が米国のように管
理をしっかりしていれば拡散が難しい。それに対しプルトニウムは天然ウランを使っ
た黒鉛型原子炉で生産できる.この炉の建設は北朝鮮でも行ったように、一定規模の
国であったらそれほど難しくはない。従って少数の核兵器を「象徴的に」持つには最
適。ただし兵器体系として持つには核実験を行う必要があり、維持することも大変だ
と思います。

4)「原爆と原発の構造的な違いが案外日本の学校教育でしっかり教えられておら
ず、そのため広島・長崎=原爆=原発=危険・怖いという考えが子供たちは勿論教師
の間にも極めて根強い」
 原子力は初めて人類に姿を現したのが兵器であって、冷戦の間の戦いの主要な武器
手段であったこと。日本に原子力が導入される時、政治的背景があったことなど、極
めて「社会的」であり、5月12日付け村石幸正先生(東京大学教育学部附属中等教
育学校)のご意見にあったように、原子力には「イデオロギー」の絡む学校教育には
なじまない要素があったのではないかと考えられます.

 また一方「平和利用」に徹している日本では、原子力を他の産業技術と同じように
「導入技術」としてとらえ、お金を注ぎ込んで開発するものであって、産業は通産省
マター、開発については科技庁、これで十分であり、国民の教育は必要なかったとい
うことでしょう.文部省が原子力を所管する官庁に入っていれば、もう少し体系的な
教育が出来たかもしれません。
 原爆と原子炉の物理的技術的違いは説明したとしても、チェルノブイルのような核
暴走もあり、それで理解を得ることは難しいと思います。むしろ原子力の必要性を教
育に積極的に入れてほしいと思います.

藤井靖彦