送信者: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
件名 : EEE会議(Re:「もんじゅ」裁判:抜本的な制度の見直しを!)
日時 : 2003年5月22日 9:49


各位殿

昨日お送りしました標記件名の拙稿「先端科学技術開発と裁判制度:抜本的な見直し
が必要」に関し、河田東海夫氏(核燃料サイクル開発機構=JNC)から、次のようなコ
メントをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫

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玉稿拝読いたしました。基本的に安全委員会の機能強化論と受け止めました。改革案
の趣旨は、原子力安全の守護神としての安全委員会の活動の自律性、客観性をより高
めるということでしょうから、その意味では先生のご説に賛成です。
しかしながら、安全委員会の機能強化説は、米国のNRCをある種の理想モデルとし
ている場合が多く、日本の安全規制体系が、いわゆるダブルチェック体制になってい
るこという特殊性を忘れているように思われます。

もともと日本のダブルチェック体制は、安全規制の実務部分は行政機関の中にある規
制部門(MITI保安院、MEXT科学技術・学術政策局原子力安全課、国土交通省
の関連部署、厚生労働省の関連部署と「縦割り」になっている)が受け持ち、安全委
員会はそれら規制部門がきちんと機能を果たしているかを高所から見るという役割分
担が基本であったと理解しています。
ところが、今日、行政機関の中にある規制部門はあまり国民から信用されていず、そ
の分、安全委員会の独立的実務活動への期待が高まっているように見受けられます。

安全規制とは、
(1)誰かが国民にかわって事業者の安全をきちんと規制監督し
(2)それを国民が信用し、そのことによって安心できる
という状態が達成できれば良いわけです。

ダブルチェック体制では、(1)は行政機関に属する規制部門が受けもち、安全委員
会は(2)を達成するためにあとから設けた形です。(2)の達成のために安全委員
会を設けたのは、そもそも行政機関に属する規制部門による規制の客観性に疑義が
あったからです。しかし安全委員会自身が常設的な実務機能をもたないため、せっか
くのダブルチェック機能も行政側規制機関からの情報などに大きく依存するため、今
ひとつ自立性や客観性の観点で安全委員会自体が国民から十分な信用を得るに至って
いないという状態ではないかと思います。
こうした関係の中で、安全委員会の機能のみをどんどん強めていくことは、究極的に
は「ダブルチェック体制」ではなく、実質的に「完全屋上屋体制」の実現を目指すこ
とに他ならないような気がします。

このように考えると、(1)と(2)を同時に達成し、しかも「完全屋上屋体制」と
しない解決策とは、行政機関内の安全規制機能をはがして、すべて安全委員会に集約
することかもしれません。安全規制が原子力事業推進組織から完全独立していれば、
「ダブルチェック体制」は不要のはずです。これはとりもなおさず、米国型安全委員
会を目指すということですが、現状では私自身それが絶対に正しい方向かどうかはわ
かりません。ただし、そのほうが現体制よりは安全規制が独立していることが国民の
目にはっきりするのは事実であり、(2)達成のうえできわめて有効ということは間
違いないと思います。


サイクル機構 河田