EEE会議(Re:Pu爆弾の臨界量)   2003年6月8日

各位殿

標記テーマに関する澤田哲生氏のコメントに対し、武藤正氏(エネルギー問題に発言
する会)から次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK
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EEE会議の核問題に関する多数のメールで驚いております。私自身数年前までこの
問題にかなり関心を持って多少ペーパーも読みましたので、最近の状況等興味を持っ
て読ませて頂いております。ただし、澤田さんが紹介されたCochranの話は以下に示
す文献に書かれたものとほぼ同様の内容だと思います。
T.B.Cochran & C.E.Paine; The amount of plutonium and highly-enriched uranium
needed for pure fission nuclear weapon, Nuclear Resources Defence Council
(Aug.22, 1994).
 
 T.B.Cochran らの論文を評価する場合に前提として考慮しなければいけない点は、
この人たちが、別機関の Lebenthalと同様にプルトニウムの平和利用に長く反対して
きたグループであるという事実です。私もこのデータの一部の情報が核兵器開発機関
からのものを含んでいるであろう事には異論がありませんが、彼らの主張は澤田さん
の紹介文にもありますように、プルトニウムの有意量 1kgにするのが目的で、以下の
ような例からも想像されるように、科学的には信頼度が高いとはとても思えないと考
えております。

@ 長崎や広島の20kt TNTの代わりに何故 0.1 ktとしたのか? 現在、米国が開

に乗り出そうとしている 500kt TNTの小型弾頭は全然意味の違う高度な技術を必要と
する高度に戦術的な開発対象であり、非核保有国への核拡散の意味では、少なくとも

島、長崎級のものを対象にしないとおかしいのではないかと思います。なお、プルト
ニウムの1原子当たりの核分裂の有効エネルギーを180MeVとすると、Pu 1kg当たりの
核分裂エネルギーは、17.3ktTNTに相当することになり、長崎級で約1/6程度の

率を持つことがわかります。(広島の場合は、恐らく数%程度)

A 低級とする長崎級の圧縮で、0.1 ktの規模でも2kgのプルトニウムを核爆発に導

連鎖反応を起こせるとは非常に考えにくいように思います。プルトニウム金属臨界量
(勿論兵器級、因みにPu-239の金属臨界量は5.6kgとされている)を仮に6kgとす

と、密度の2乗に逆比例する金属密度を1.73倍にする必要があります。プルトニウム
金属密度と圧力との関係は不明ですが、例えばモリブデンの場合で密度50%増に要
する圧力は約 200Gpa(2百万気圧)で、高性能爆薬による圧縮で1.73倍を達成でき

か疑問が残ります。

B 下記スウェーデンの文献によると、現在の米国の爆弾は殆ど全てD-T反応を利用

るブースター効果を利用していると言われており、これは核融合反応を効率向上に利
用するだけで、爆発エネルギーに対する寄与は少ないとされています。このような技
術が利用されれば、彼らの言うような少量の核物質で爆発が可能となりましょうが、
これは上記の非核保有国への核拡散には技術の隔絶が大きすぎるように思います。

J.Swahn; The long-term nuclear explosives predicament, Technical Peace
Research Group,  Institute of Physical Resource Theory, Goeteborg, Sweden
(1992).                                  
  
                                   武藤正