EEE会議(日本の原子力開発の進め方―FBRサイクル)...................................2003/7/24
 
「核燃料サイクル・オプション」問題に関する豊田正敏氏(前日本原燃社長、元東電副社長)の一連のメールに対し、中神靖雄氏(核燃料サイクル開発機構副理事長)から次のようなメールをいただきました。なお、今回からメインの件名を「日本の原子力開発の進め方」とします。これは、今春「もんじゅ」高裁判決を契機に2〜4月にかけて議論したときと同じ件名で、より総合的な観点からご議論をいただきたいという趣旨です。
--KK
 
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<日本の原子力開発の進め方―FBRサイクル>

5月20日付けで豊田様からのご質問を頂戴しておりながら回答が遅くなり、督促い
ただき申し訳ありませんでした。主要論点に関し、以下に現状と今後の取り組みにつ
いて申し述べさせていただきます。

1) 次世代原子力開発への取り組み
電気事業者によるFBR実証炉計画の中断以降、サイクル機構としては、電力各社や
研究機関、メーカーにも参画頂き、オールジャパン体制で、FBR及び次世代核燃料
サイクルの実用化に向けての研究開発に取り組んでいます。
サイクル機構法では、業務範囲から「実証炉の建設を除く」とされており、実証炉或
いはパイロットプラント(原子炉+核燃料サイクル)をどのような事業主体により、
どのようなスケジュールで行うのかは、先ず国の「原子力長期計画」の議論から出発
し、具体化していくことになります。とは言え、実用化に向けた研究開発推進母体と
しては、実用化像、経済性、技術成立性と共に、実用化へのシナリオとしてのスケ
ジュールを示していく責任があると思っています。一方、実用化に向けてご質問頂い
ている諸課題の多くは、実用化戦略調査研究として現在検討段階であって、特にスケ
ジュール等については、サイクル機構内や電力との間でも未だ十分議論がなされたも
のではなく、ましてや国としてオーソライズされているものでない、私個人の責任に
おいて申し上げるものであることをご了解頂きたく思います。

2) 実用化に向けての実証プラント(パイロットプラント)の規模
本格的な商用段階には、150万KWe大型炉と50〜75万KWe中型炉が基幹電源用として
検討対象になっています。導入初期は、ナトリウム高速炉の運転経験からみて、まず
75万KWe級を想定しておけばよいかと考えています。この75万KWe炉システムを確実
に建設できるために、それ以前に建設・運転を通じ技術の実証を行う炉としては、炉
機器、蒸気発生器(SG)のスケールが1/2〜1/3、即ち、30万〜40万KWe規模と考え
ています。商用炉と炉心出力密度、燃料集合体の大きさ、燃料有効長などが同様であ
れば、上記規模で先行して実証しておけばよいとの判断に立っています。(また、1
次系は2ループ、SGは1基を指向しており、上記出力であれば、28万KWeの「もん
じゅ」(1次系、2次系とも3ループ且つSGは蒸発器と過熱器を分離)に比し、ポ
ンプや機器の大きさは3〜4倍であり、技術的成立性を見通せる範囲と考えられま
す。)  即ち、
第1ステップ:原型炉「もんじゅ」(28万KWe。ナトリウム冷却高速発電炉技術・信
頼性実証。)
第2ステップ:パイロットプラント(30〜40万KWe。但し機器システムは大型化・簡
素化)
第3ステップ:商用プラント(75万KWe。同一設計思想。大型化)
という考え方で、関係者との間でも議論を進めています。
国が役割を担いつつ行う実用化は、将来の大型化が外挿出来、経済性も発揮出来る最
小規模に止めるのが適切ということかと思われます。

3) 実用化に向けた開発シナリオ(スケジュール)
2030年頃の商用化(電力には本格的なFBR商用化は2050年頃との考えもあります
が)に対し、実用化技術の確立を2015年としています。具体的には、現在進めている
実用化戦略研究の中で、有力な技術選択肢を絞り込みつつ、要素開発と実証試験を
2010〜2015年頃に完了します。
なお、経済性については、前回と前々回に見通しを記述しましたが、2005年までに定
量的評価をした上で、具体的に成立性を実証していくことになります。
実用化パイロットプラント(PP)の基本設計を2008〜2010年頃開始し、設置許可等
に必要な資料・データ(新燃料の健全性・安全性データ等)を揃えます。この間に立
地選定や地元了解が必要なことは当然です。
2015〜2020年の間にはPPを建設し、2030年頃までの約10年間の運転を通じ、燃料サ
イクル(低除染高燃焼度燃料等)の実証を行います。
約10年の運転の後、PPはそのまま実用1号炉に移行する考え方もありますし、「常
陽」「もんじゅ」の後を引き継いで、新型燃料や長寿命核種の核変換等の試験研究炉
として利用することも考えられます。
本格的な商用化については、2030年以降のニーズによると考えられますが、軽水炉プ
ラントのリプレース時期に合わせFBRの導入が可能となり、2030〜2070年は軽水炉
とFBRが共存して建設される可能性が高いと思われます。
国際的な枠組みで2030年までに実用化を目指すGENERATION-4計画においてもナトリ
ウム炉は2015年の実用化が可能としており、サイクル機構が目指している実用化時期
とほぼ同様の評価をしていると考えています。

4) 要素開発
燃料の高燃焼度化については、ODS鋼が必要であり、まず「常陽」を使ってピン照
射、炉心材料照射を行います(2004〜2015年)。実用化のための高燃焼度許認可デー
タとして、ODS鋼集合体照射データは「もんじゅ」の運転を通じ取得します。低除染
燃料についても、「常陽」でピン照射、「もんじゅ」でバンドル照射を行います。
原子炉施設の要素開発と実証試験は現在一部既に開始しており、2010〜2015年の間に
完了し、逐次、基本設計や詳細設計に反映します。例示しますと、
・大型SG開発については、ある程度の規模のモデルで、安定性、伝熱流動確証試験
を2015年頃までに完了。
・ 炉心損傷時の安全性確認試験を2010年頃までに完了。
その他、合体機器試験(ポンプ組込型中間熱交)、12Cr鋼試験(強度基準、構造物
試験等)、供用期間中検査及び補修技術開発・確証(「もんじゅ」経験を含む)、免
震設計確証試験等を実施します。

5) 再処理高度化及び核燃料製造技術(燃料サイクルのパイロットプラント)
再処理技術高度化については、製造プロセスを簡素化し、ウラン・プルトニウムを分
離せず、核分裂生成物(FP)も一部共存させた先進湿式法と、乾式再処理技術を併
行して研究開発を進めています。
先進湿式再処理については、既に晶析、単サイクル抽出、マイナーアクチニド(MA)
回収等の基礎試験を進めてきており(要素技術開発や各種試験は2010年頃まで併行し
て実施)、2005年度には工学実証すべきプロセスを選定します。東海事業所で半分出
来かかって中断しているリサイクル機器試験施設(RETF)における機器設計・許認
可、製作据付、コールド試験(以上を2005〜2011年)を経て、2012年頃からは、工学
規模(3〜5tHM/年)のMOX燃料(「常陽」「もんじゅ」「PP」)再処理用ホット
試験を実施する考えです。
RETFでは併せて、低除染高燃焼度燃料(基礎研究は既に実施、試作中)をペレット或
いは振動充填法で遠隔自動製造する技術を開発し、PP炉燃料として供給出来るよう
に施設を改造したいと考えています。
ここでの研究成果は六ヶ所施設等へも反映すると共に、2030年以前に経済性や核不拡
散性の高いリサイクル燃料処理、低除染燃料製造の技術を確立し、実用化・商用化
(商用プラントは50〜200tHM/年)につなげる考えです。
乾式再処理についても電中研と共に取り組んでおり、東海事業所の施設(CPF)を
使ったプロセス試験に着手したところです。今後試験データ取得とプロセス開発、周
辺機器の開発を行い、工学規模(約1tHM/年)のホット試験、金属燃料製造と併
せ、リサイクルシステム実証を2016年頃からRETFまたは大洗施設を使って行えるよう
進めていく考えです。米国も乾式再処理・金属燃料製造を2030年までに商用化するこ
とを目指し、アルゴンヌ研究所が中心となって開発を進める考えであり、国際協力分
野の一つと考えています。

6) 民間活力について
実用化に向けて、電力会社は勿論のこと、原子炉メーカー及び材料メーカーの意欲的
な参画・協力が不可欠です。経営環境の厳しい現状で、先行きのプロジェクトが不透
明では、民間の人材や研究開発体制の維持継続は年々難しくなってきていると感じて
います。
次世代原子力・核燃料サイクルの開発を国の政策として進めるのであれば、そして我
が国が科学立国を旗印に掲げるのであれば、早く実用化像とその道筋を示し、必要な
人材を生かしつつ実用化に向けた成果を出していける研究開発タスクを民間機関に継
続的に付与し実施していくことが必要です。その際、研究のプロセス、詳細設計や製
作・建設の品質保証、コスト見積を含め、外部への丸投げ的発想を排除し、現状の
オールジャパン開発体制を発展させ、どこまで踏み込んで実用化プラントを作り込ん
でいけるかが成功への鍵と思います。
また新しい独立行政法人は5年程度の事業計画を基に研究開発を進めることになりま
す。単年度予算制度よりはましですが、2030年頃までの長期プロジェクトを途中の評
価や軌道修正も行いつつ、責任を持って推進出来る体制作りは、今後の課題と思いま
す。                   以上
                                      
 中神靖雄