EEE会議(Re:核燃料サイクル論争:高速増殖炉の技術開発:豊田氏→中神氏).....2003/7/29

 
標記テーマに関する中神靖雄氏のメール(7/24)に対し、再び豊田正敏氏からいただいたメールです。ご参考まで。
ご両者の論争に第三者が割り込むのは容易ではないかもしれませんが、この際関心のある方はどなたでも、是非積極的に発言されるよう希望します。匿名(ハンドル)での配信可。
 
--KK
 
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中神氏からの説明に対して次のようにコメントします。

私が心配していることに対して満足なお答えになっていないのはまことに残念です。特に時間軸に入った具体
的実施スケジュールもなく、実施主体もはっきりしていない状況で、「オールジャパン体制」というと言葉の
響きはよいが、船頭多くして責任者不在の無責任体制で、ただ漫然と「柔軟に」研究開発を進めていたので
は、2030年に実用化が可能になるとは到底考えられません。私が、今まで原子力プラントの計画、立地地点選
定、地元了解、安全審査、建設据付、試運転、トラブル対応などを進めてきた経験からは、夢のような話で
す。もっとも、FBRが夢の原子炉であるのであればそれもやむをえないのかもしれませんが、2030年に実用化
できなかった場合、誰がどのような責任をとるのでしょうか、お伺いします。以下に簡単に項目別にコメント
します。

1. 現在、JNCが実プラントとして検討している熱交換器と一次ポンプの合体程度では、一次冷却系及び二次冷
却系がなく、原子炉容器内に内部循環ポンプを収めているA-BWRに比べて系統が複雑でプラントも大きくな
り、経済的に比肩し得るとは考えられない。フランスが経済性の見通しがないとして中断した実証炉スーパー
フェニックスで採用したタンク型と比べても系統はむしろ複雑でプラントも小さくならないのではなかろう
か。これら3者の系統図及びプラントレイアウトを比較して見られれば明らかである。A-BWR並みの経済性を得
るには、更なるブレークスルーが必要である。

2. 「パイロットプラント(30〜40万KWe。)」は、私には、要素技術開発実証のためのモックアップ・テス
トとしか考えられず、「約10年の運転の後、PPはそのまま実用1号炉に移行する考え方もある」とは何を
言っておられるのか理解できない。このようなモックアップテストは、2015年までに終え、実証炉のステップ
に進むべきであると考えます。

3. 商用プラント(75万KWe)と言っておられるのは、実証炉1号機と位置付けるべきであり、プラントが大き
くなり、流量が増せば、予想外のトラブルが起こることはたびたび経験していることである。高速増殖炉に携
わっている技術者が、JNCだけでなく、電力、メーカーも含めて、軽水炉の初期段階で多発したトラブルを経
験している人が皆無に近いことが問題である。「もんじゅ」の2次系の振動疲労割れトラブルによる漏洩事故
もこのために起こったと考えられる。2030年に実用化できるとして、辻褄合わせをしているようにしか思われ
ない。軽水炉の場合、アメリカで何基かの原子炉を建設した後、オイスター・クリーク発電所を商業炉である
と宣伝していたのを真に受け、わが国の電力会社が相次いで、導入に踏み切ったが、初期段階に多くのトラブ
ルを経験し、稼働率は著しく低く、到底商業炉と言えるものではなかった。このため、官民一体となって、そ
れまで経験したトラブルや運転保守の不具合個所を改良しこれを標準プラントとするため、改良標準化委員会
を設立し、3次に亘る改良標準化を行った結果、A-BWRが完成した。これに太刀打ちするためには、75万KWe実
証炉1基で、直ちに商業炉に移行することは不可能であると考える。実証炉1号機でも何回かのトラブルや運転
保守の不具合を経験すると予想される。以上の点を踏まえて実用化までの具体的実施スケジュールを聞きた
い。フランスが、実証炉スーパーフェニックスの試運転段階に、高速増殖炉の経済性の見通しがないとして中
断したことを厳粛に受け止めるべきである。

4. 再処理高度化及び原研と統合後の問題点
湿式再処理法(ピーレックス法)はもともと軍事用に純粋なプルトニウムを抽出するために開発されたもので、
これを改良しても経済的なものは期待できないと考える。「ウラン・プルトニウムを分離せず、核分裂生成物
(FP)も一部共存させた先進湿式法」と言うのはどういう意味か教えてほしい。

乾式再処理法によるべきであると考えているが、その中、どの方式に絞り込むのか、実施主体はどうするの
か、また、コストの目標価格はどのくらいかなどが決まっていないで、2030年までに実用化できるとは考えら
れない。動燃、JNCは、実験段階の研究開発までは、進める能力が十分あると考えられるが、大型プロジェク
トの実用化のための技術開発は、技術開発のスピードも遅く、実用プラントまで満足に進められたものはな
い。東海再処理プラントも定格210トン/年に対して、70トン/年がやっとと言う状態が続いたので、当時の副
理事長に定格通りの出力になるように改造すべきではないかと要請したが、全く考えて貰えなかった。JNCに
大型再処理プラントの設計、建設、据付の技術的能力があるのか疑わしい。この点についてJNCの組織、体
制、陣容をどのように改善すべきかについて内部で十分検討すべきである。動燃事業団は、原研では、高速増
殖炉及び再処理施設などの大型プロジェクトの技術開発は無理であるとして、作られたのであって、今回原研
と統合されることになって十分な技術開発が出来るのか懸念している。特に、JNCは、学術論文を作成するこ
とに熱心で、基盤的研究開発に重点がおかれる傾向がさらに強まることが懸念される。この点原研と統合後の
改善策ついての見解を聞きたい。   以上

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp