EEE会議(北朝鮮核問題と日本核武装論)....................................................2003.8.28


日本核武装論は、北朝鮮核問題との関連で昨今国内の論壇で盛んに議論されておりま
すが、原子力の基礎知識もない政治家や自称国際問題専門家たちのピントはずれの意
見が多すぎます。 そこで、原子力や核問題に関する第一級の専門家集団である当E
EE会議としては、この辺で一発、権威のあるメッセージを発したいと考え、先般、
アドホックのタスクフォース(プロジェクトチーム)の編成をご提案したところで
す。 その後7名ほどの会員各位から積極的な参加の意思表示がありましたので、果
たしてどこまで統一見解をまとめられるかどうか、いささかの不安はありますが、こ
の際敢えてトライしてみたいと思います。

以下の文章は、その7名の一人、吉田康彦氏の筆(キー?)によるもので、問題の一
面だけを論じている嫌いがありますが(失礼!)、議論の1つの出発点には十分なる
と思います。つきましては、上記7名の方々はもちろん、その他の方々も、吉田ペー
パーや小生自身のメール(8/28)、その他本年初頭以来の多数の関連メール(すべて
HPに掲載)を再読の上、積極的に意見を開陳してください。まず、どなたか、論点
の整理から始めてくだされば誠に幸いです。
--KK

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以下、小生の「提言」案を送信します。

昨今、日本核武装論が主として日米両国の論壇を賑わしているが、前提として、基本
的な事実関係の理解不足と認識不足が存在する。結論からいって、日本は核武装した
くても、絶対にできない仕組みになっている。理由は次の通りである。

(1)日本は原子力平和利用に際して、IAEA(国際原子力機関)の「包括的保障
措置」の下にあり、現時点で、核物質を扱う259施設すべてが査察の対象となって
いる。IAEAの年間査察業務全体の4分の1以上が日本の施設に対して行われてお
り、IAEA発足以来、一貫して対日査察がIAEAの最大の業務を占めている。

(2)さらに日本は1997年に採択された「追加議定書」にもいち早く署名し、無
通告査察の受け入れ、環境モニタリングポスト設置など、核物質の軍事転用を未然に
阻止するための強化保障措置に全面的に協力している。IAEAを脱退してもNPT
加盟国である限り、査察受け入れの義務を負う。

(3)IAEAは本来、日独両国の核武装を阻止するために創設された国際機関であ
り、さらにその後、成立したNPT(核不拡散条約)はこれを補強し、日独はじめ非
核兵器保有国に対し平和利用のみを義務付けた国際条約である。日本の核武装は即N
PT体制の崩壊を意味し、米国をはじめとする核兵器保有国は全力を挙げてこれを阻
止することになる。国際関係は大混乱に陥る。

(4)日本のウラン濃縮、使用済み燃料の再処理を容認した日米、日英、日仏、日豪
などの二国間原子力協定も、いずれも平和利用を前提としており、協定義務違反は、
ウラン燃料の供給・利用の停止を意味する。日本国内の原子力発電も停止に追い込ま
れることになる。

(5)1955年制定の「原子力基本法」も、日本の核物質利用を平和目的に限定
し、「民主・自主・公開」を義務付けており、内閣法制局は、従来の国会答弁で、そ
の点を確認している。

(6)以上の理由から、日本は国家意思としての核武装は100パーセント不可能で
ある。それ以外の可能性としては、オウム真理教のような宗教団体・テロ集団などの
ような「非国家行動主体」が核兵器を秘密裡に開発する場合があるが、日本のような
言論・報道の自由が保証され、情報化の進んだ社会では秘密保持はきわめて困難であ
る。さらにIAEAは、「強化保障措置」が厳密に履行されている限り、技術的にも
秘密開発は絶対に不可能であると説明している。

日本の核武装を論じる際は、以上の前提を踏まえて論旨を展開すべきであり、いたず
らに感情論を振り回して国際関係を緊張させることは、厳に慎むべきである。

以上。

吉田康彦

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PS:
日本が(技術的な能力は十分あっても、国内法・国際法上の制約で)そんなに簡単に
核武装は出来ないんだよ、ということは吉田論文の通りですが、それでもなお北朝鮮
が、さらに中国が日本に核攻撃を仕掛けてきたら、やっぱり不安だ、いつまでも米国
の「核の傘」に頼ることができなければ、やっぱり自前の核武装以外にない、という
意見ーー実はこれが国会議員諸氏の大半の意見。朝日新聞の調査はこの点が不備ーー
に対し、どう回答するか?  ここを十分議論してください。小生の小論(8/28)はそ
れに対する1つの回答です。